最終話 オールドホームの灰羽たち

「レキ!レキ!」


ラッカは一心不乱にシルバーホームに向かった。何か言い知れぬ不安がラッカの胸を覆い尽くしていた。


家にたどり着き、中に入る。電気が消えている。慌てて電気をつけて部屋を確認すると、ネムがベッドにもたれかかって眠っていた。


しかし部屋を見渡してもレキの姿がない。ベッドからは起きた跡があり、布団がめくれていた


ネムネム!」


ラッカは慌ててネムを揺すって起こす。ネムはいるがレキはいない。一体どこにいったのだろう?


「あ、ラッカ、お帰り。帰ってきたんだね。」


ネムネム、レキがいないの。レキはどこ?」


「え?レキなら私より早く眠ったからベッドに寝かせてそのまま眠ったけど、あれ?」


ネムがベッドをみるとレキがいない。たしかに自分より先にベッドに入ってねむっていたはず。起きてどこかにいったのか?


「それに、クウとカナはどこ?レキをどこかに連れていったの?」


「あの二人は見てないよ。どこかに行っているのかしら?」


ラッカは慌てて時計をみる。時刻は11時半を回っていた。


ネムネム、フラの街の終わりの列車の時間はわかる?」


「列車?たしか、隣の街からでる最終列車が11時の最後くらいだったから、たどり着くのはちょうど12時くらいだと思う。それってもしかして・・・?」


「レキはきっと大門広場の先にある駅に行ったと思う!すぐに行かなきゃ!」


ラッカとネムが慌てて外に出る。カナが乗っている自転車を借りようと思ったが、自転車がない。仕方ないので二人は慌てて走っていった


「はあはあ」


ラッカは息を切らし、途中で靴擦れがして足を痛めたが、御構い無しに駅に向かった。ネムも必死だった。


「だーかーらー、三ケツはきついって、あたしは行き漕いだんだからクウが漕いでよ!って思ったけどんなこと言ってる場合じゃないね!あたしに任せといて!」


「カナ!ごめん!今はカナに頼るしかない。よろしく!」


カナが全身全霊をかけて自転車を漕いでいる。どうやら連盟から呼び出された用が済んだようだった


カナはその信じられない脚力で駅まで向かった。そして中央広場にたどり着くと、自転車を降りて慌ててクウに託す!


「あたし、行くところがある!上手く行くかわかんないけど、やってみる!あとはクウたちで先行って!」


カナはクウに自転車を託すと、時計塔の中に入っていった。クウは自転車を漕いでそのまま駅まで向かった

 

その頃、ようやくラッカとネムは大門広場の近くにまでたどり着いて、駅の近くまで来ていた。そしてレキを見つけた


ネム!あそこにレキがいるよ!ほら、路線に立ってる!」


レキは一人でフラの街の大門広場の先にある駅の路線に立ちすくんでいた。話師はラッカに言った。「レキは再び本来の姿に戻ろうとしている」と、それがこの答えだった


二人がレキを見かけて声をかける!「レキ!」しかしレキは一向に動こうとしない。そして次の瞬間、はるか先ではあるが、列車の汽笛が聞こえ、最後の電車が来ようとしていた


「レキ!レキ!お願い!そこから動いて!このままだとまた同じことになる!」


ラッカは列車がレキにたどり着くよりもはるか遠い場所からレキに訴えた。しかしレキは生気を失ったようにそこに立ちすくんでいた。


「もうダメ!間に合わない!」


ネムがとても悲しい声でそう言った


すると次の瞬間、突然大きな鐘がなった。ガラーンガラーンと。これはフラの街の時計塔の鐘だった


「時計の鐘?カナ?」


そう、それはカナが時計塔で働いているのを生かして、鐘を鳴らしたのだった。列車に乗っていた車掌はその音に驚いて慌てて外を見た。すると次の瞬間なにかがピカッと光って目の前に人影が見えた


車掌は慌ててブレーキを踏む。人が両手を掲げて路線の真ん中にいる。いや、人ではない、白羽だ


間一髪で列車はレキの前で止まり、レキは助かった。レキの目の前にいるのはクウだった


「クウ!」


ラッカが駆け寄るとそこにはレキの前にクウが立っていた。クウはとっさにレキの前に立ちふさがって、列車を止めてくれたようだった。


「どうやら間に合ったみたいね。よかった!カナが頑張ってくれたおかげね」


ラッカとネムはどこか懐かしい声を聞いた。クウとレキの他にもう一人白羽がいる。それはカナではなかった


「ヒカリ!」


ラッカがそう叫ぶとそこにはヒカリが立っていた。ヒカリ、とても懐かしい。その姿はまったく変わってなかった


「ヒカリ?いつこっちに?というかさっきの光ったのは」


「ああ、ええと、トーガが光臨の材料で私にくれたの。きっと役に立つからもって行きなさいって。名前がヒカリだったからかな?けど、列車が来る前にうまく光ってくれて助かったわ」

「おーい、大丈夫か?」


列車から車掌が降りてくる。レキがフラの街に来た時に色々教えてくれた心優しい人だ。五人の白羽の無事を確認して声をかけた


「こんなことろに白羽が五人も!?それにこんな遅くにどうしたんだ?あ、そこで倒れているのはいつかの無賃乗車しようとした白羽じゃないか!」


レキはクウが列車を止めた後、そこに倒れていた。どうやら気を失っているようだった


「とりあえず、五人とも怪我はないようだね。いやはや突然鐘は鳴るわ、何か光るわ、人影がいるわで驚いたけどまあよかった。もう最終便だから乗客は一人もいないから助かったよ。」


「すみません、ご迷惑をおかけしました。この子がちょっとここまで飛び出してきてしまったもので」


ネムが頭を下げて謝る。車掌は初めてレキを見た時から何か色々事情があるんだなと悟っていたので咎める気にはならなかった


「ああ、いいよいいよ無事なら。運行にも問題はないしね。まあ連れて帰ってゆっくりおやすみ。って、もう年が明けちゃったけどね」


ラッカとネムは気を失ったレキを抱え、家に帰ろうとした。そうすると、やっとこさという感じで、疲れ切ったカナが姿を表した。


「ぜえぜえ。どうやらどうにか間に合ったようだね。レキ、無事だったみたいだね。よかった。あーあ。あたしもう自転車こいでクッタクタ。早く帰って休みたいからクウが自転車こいであたしを後ろに乗っけてよ」


「カナ、時計塔の鐘を鳴らしてくれたのね。けど、一体どうして!?」


「ああ、うん、実は11時過ぎにクウと家に帰ったら手紙が入っててさ、開けたら新しい灰羽が来たっていうからヒカリしかいないって思ってすぐに迎えに行ったんだよ。したらトーガがなんか問答無用でヒカリにそれ渡して駅までいけっていうからさ。」


「行こうってったのはクウだよ!カナはもう遅いから明日にしようって言ったじゃん!それじゃあ年が明けちゃうからダメだっていってさ、そしたら連盟に着く前にラッカがなんかすごい勢いで走ってたから不安になってあたしたちも行くことにしたんだ!」


「まあまあ、とにかく間に合ってよかったわね。カナが三人乗りでも頑張ってこいでくれて鐘を鳴らしてくれたおかげ。こんな夜中に鳴らしたからきっとみんなびっくりして起きちゃったかもね。私たち、罰を受けるかもしれないけど、レキが助かったんだから本当によかった!」

「ヒカリ・・。みんな、ありがとう。」


ラッカは涙を流してお礼を言った。とにかくヒカリがこっちに来てくれたことが嬉しくてたまらなかった。そして家に帰ってレキをベッドに寝かせた


「ラッカ、あなた、羽が」


「え?」


ネムがラッカの羽を見て何か気づいた。羽の色が?白ではない?何か輝いている?


「白色に発光してるんじゃないね。あれは銀色?」


ヒカリが何かに気づいてそう言った。そしてラッカだけではない、レキの羽の色も白ではなく、薄く銀色の輝きを放っていた。どうやら二人の羽は共鳴しているような感じだった


そして少し銀色に輝くと光はやがて失われ、元に戻った。ネムが慌ててレキの羽を見る


「戻ってる。灰白色から、白に!」


レキの羽は完全に白色に戻った。そして次の瞬間、レキは目を覚ました


「ラッカ?」


レキは起き上がるとラッカの方を見てそう言った。ラッカはレキに言われて驚いて返事をする


「レキ!レキ!私がだれかわかる?ここがどこかわかる?」


「うん、もちろん、あなたの名前はラッカ。私がつけた名前だよ。ここはシルバーホームでしょ?あと、そこにいるのはネム、カナ、クウ、え?あとヒカリも!?」


「レキ!元に戻ったの!?ちゃんと話せるの?」


「うん、ネム、ごめん。なんか長い夢を見ていたようだったよ。どこか暗い、繭の中で見た夢のような時間をずっと見ていたような感じで何もできなかったのを覚えてる。だけど、ラッカがずっとそばにいてくれたのも覚えてる。」


「けど、最後の最後でたしかみんな来て、そしてヒカリが来て、五人が私の手を引っ張ってくれたような感じがあったのを覚えてる。なんか、あんまり覚えてないけど、みんなに助けられたみたいだね。ありがとう」


レキが元に戻ったのを見て、五人は盛大に喜んだ。ラッカはレキに抱きつき、涙を流した


「レキ、レキ、戻ってよかった。もう戻らないかと」


「大げさだなあ、ラッカは。あとさ、ラッカもネムも自分たちで抱え過ぎだよ。な?」


カナがそう言ってクウとヒカリにコンタクトをとる。二人はにっこり笑っていた


「うん、でもレキが治ってよかった!あたし、ずっと心配してた。」


ネム、壁の中でもレキに言ったけど、手伝えることがあったら言ってって言ったでしょ。仲間なんだから」


「ああ、ごめん。けど、ヒカリが来てくれて助かったよ。ありがとう。あたしもラッカも、自分たちだけで抱え込みすぎてたのかもしれない。」

「けど、レキとラッカの羽はなんで銀になったのかしら?不思議だね」

ヒカリがそう言って不思議がって考えていると、ネムがその疑問に答えた


「あと図書館の本で読んだけどさ、もともと罪憑きだった灰羽が、こっちにきてきちんと元に戻った時、羽が銀色に輝いたんだって。だから、その出来事からとって、ここはシルバーホームって呼ばれたみたいね。」



ラッカは話師の言ってた、「お前はもう答えを知っている」というのを思い出した。あれはなんだったのか?あの時は理解ができなかったが、今は理解できた。レキが元に戻るために必要だったカケラ。それはレキが一番幸せだった時間のかけがえのない仲間。そう、「オールドホームの灰羽たち」であるということに


「レキ!元気になってよかったね!今夜はもう疲れたから寝ましょう。」


そしてその夜、六人は疲れ果てて泥のように眠りこけた。ラッカはレキの手を握りしめて二人で眠った。

 

 

こうして、レキにかかった罪憑きの呪いは解け、レキは元に戻った。その呪いを解いたのは壁の中ではラッカであったが、壁の外ではラッカだけでない。ネム、クウ、カナ、そしてヒカリ。この五人の力があったからこそレキは再び元に戻った。そしてここから、またこの壁の外での六人の生活が始まろうとしていた


白羽連盟 ここに完結!

ウソウソもうちょっとだけ続きます

 

#24 ラッカと話師 本来の姿 クウとカナ

シルバーホームを飛び出したラッカ。一目散に白羽連盟の寺院に向かう。夜遅くにカナの使っていた自転車があったが、カナがいなかったので借りることができず、走って行くことにした。

寺院につくと、夜遅くだったが、そこにはトーガがいた。トーガはラッカをみて驚いた。こんな夜遅くに一体どうしたのだろう?


「ああ、ラッカ。つい先ほど夜便で送らせていただきましたがもう届いたのですか?実はまだこちらには」


「すみません!トーガ!私、灰羽連盟の話師に今すぐ会いたいんです!」


トーガが何かいいかけたが、息を切らせたラッカがすごい剣幕で迫ってくる。トーガは圧倒され、こちらの言うことを話す前にラッカに遮られてしまった

ラッカは事情を説明すると、まだこの時間でも話師に会うことはできるか交渉した。トーガはラッカのその様子を見て、何が何だかわからないうちに許可を出した


「もう夜分も遅いので、なかなか厳しいかと思いますが、まだギリギリこちらに呼ぶことは可能だと思います。では案内します。」


トーガはそう言ってラッカをネムの時と同じようにグリの街まで案内した。壁が見えてくるとラッカはとても懐かしい気持ちになってきた。


門の前までくると、トーガは門を叩き、ネムの時と同じように小部屋に案内した。そしてそのルールや経緯をラッカに説明した。

「壁の中ではさわれば罰を受けましたが、こちらでは大丈夫ですよ。では話師を呼んできますね」


「ありがとうございます。」


ラッカはぺこりとお礼をすると、その小部屋に座って話師を待った。一定時間待つと、そこに話師が現れ、ラッカにこう言った


「ラッカ、よくここまできた。ネム以外でここにこれた白羽は、お前だけだ。こんな夜遅くにくるとは、一体どうしたのだ?」


「お久しぶりです。話師のおじいさん、実は」


「言わずともわかる。レキのことだろう?だが、お前はもう答えを知っているはずだ。」


「え?それは一体どう言うことですか?」


ラッカは話師のそう言われ、少々戸惑ってしまった。話師は自分の心を見抜いていると言うのか?自分ですら気づくことのない、自分の中にある真相に


「残念だが、私がお前に教えてやれることは何一つない。答えは自分で見つけるものだ。」


「えと、その」


ラッカは話師の話が理解できなかった。もう自分は答えを知っている?そしてそれを教えることはない?一体どう言うことなのだろう?


「しかし、ここに来たからには私もお前に何も教えずに行くわけには行くまい。さて、何が聞きたい。話してごらんなさい。」


話師がそう言うと、ラッカは今まであったことやネムのこと、レキがどうしたら元に戻るか、それを聞きにくる話をした。そして話師はそれに対してただひたすら頷いて話を聞いていた


「ラッカ、壁の中のルールや灰羽の存在、そしてグリの街のことはネムから聞いているな。あとは私に教えられることはない。しかし一つだけ教えよう。レキは自分の本来の姿に再び戻ろうとしているのだ。」


「本来の姿!?」


話師がそう言うと部屋にある時計を見て時刻を確認した。もう11時を回っていた。


「いかん、もう過ぎ越しの日ももうあと一時間を切った。さて、私の教えられることはここまでだ。もうこれ以上言わなくてもわかるだろう?すぐに戻りなさい!」


話師はそう言うと慌ててラッカを部屋から追い出した。部屋から出たラッカはなにかを悟ったようにシルバーホームまで走り出した。同時に何かおおいなる不安を抱えていた


「レキ、レキ!」


自分のきた道を一心不乱に走って帰るラッカ。とにかく一刻でも早く帰りたかった

 

「まーたっくさ、こんな時間に呼び寄せるなんて、連盟もどうかしてるよ。明日でいいじゃんね。」


「ダメだよ!明日じゃもう年が明けちゃうじゃん!やっぱり今日じゃなきゃ」


カナがクウを自転車の後ろに乗せ、二人乗りをして連盟まで向かっていた。カナは不平不満がたらたらだったがそこはクウに説得され、向かうことにしたのだ


「って、あそこにラッカがいるよ!おーいラッカ!」


連盟のすぐ近くまできた時に、クウがラッカに気づき、声をかけ手を振った。ラッカは何かに取り憑かれたようにひっしに走っていて、二人に気づかなかった。


「えと、ラッカなんかすげー急いでるね。」


カナがそう言うと、二人は連盟までついて自転車を降り、寺院の中に入っていった。


「ふいー、やっと着いたね。帰りはクウが漕いでよ。」


「うん、いいよ。けどカナが漕いだ方が早いとおもう。あたしはカナほどは早く漕げないから」


そんなこんなで寺院に入るふたり、トーガは二人を招き入れ、奥へと案内した。

 

 

#23 ネムの想い 話師 深夜

ネムにとって、レキとの関係はなによりも複雑だった。一番近くにいて、一番長く時間を過ごした仲間であった。


「ラッカ、私はね、レキの保護者になってからは、そんなに時間が経ってなかった。この街にきて、クラモリがいなくなったのが春で、ラッカがきたのが夏の終わり頃。だから二つの季節をまたいだくらい。だけど、クラモリが行っちゃってからは元気が無くてね」

 

「私、壁の中でもレキに何もしてあげることができなかった。クラモリがみたいに救うこともできなかったし、ヒョウコみたいに無茶もできなかった。ただ見守ることしかできなかった。」


「そしてそれは壁の外でも同じ。クラモリがいなくなって私がレキの保護者になってからレキはおかしくなって、罪憑きの症状が出てこんなになってしまった。レキがこうなったのも全部私の力不足が原因。」


ネム・・。」


「だけど、ラッカが来てから、レキは少しずつよくなっていった。自傷行為もしなくなったし、外にも出ることができた。けど相変わらず、元には戻らなかったけど。」


「そしたらラッカが、私に変わってレキの保護者になるってい言ってくれて、私はすごく安心したの。ここから何か変わるかもしれない。レキも元に戻るかもしれない。だけどレキは元に戻らなかった。」


「うん、ネム、私もそれは責任を感じている。たしかにレキは私が来た頃より、ずっとよくなった。だけど元に戻るにはまだ何かが足りない。だから私は、その足りないカケラが何なのか、それをすごく知りたくて」


「ラッカ・・・。」


ネムは少しうつむいたようにして沈黙した。ラッカにはネムがどういう心境でいるのかが少しだけ理解できた。きっと自分と同じようにネムも責任を感じているのだ。


「ラッカ、ラッカ、ごめんなさい。私、私じゃレキを救えなかった。そしてあなたが現れて、壁の中ではレキを救った。私はあなたに頼ることしかできなかった。」

ネムは少しだけ涙ぐんでラッカにそういった。ラッカはネムの気持ちがよくわかった。自分に何もできない葛藤というのは辛いものだ。


「ううん、そんなことない、ネム。私だけの力じゃない、みんながいたからここまで来れたきっとレキだってネムに感謝してると思う。レキに元気になって欲しいのはみんな一緒だよね。どうにか、レキを元に戻せればいいんだけど。」


「もしかしたら、話師が何か知ってるかもしれないね。」


ラッカはそれを聞くととても驚いた。話師?話師というと壁の中の?


「話師って灰羽連盟の、グリの街にいた話師のおじいさん?ネム、あの人に会ったの?」


「うん、カナがこっちに来てからレキの羽の下部が灰白色になってね、それで慌てて白羽連盟に聞きに行ったら、グリの街まで特別に案内してくれて、そこでまた話すことができたの。それで灰羽について色々なことを教えてもらえた」


ネムはラッカに話師から教えてもらった灰羽の事実や罪憑きのことをラッカに話した。ラッカはそれを聞くと、いてもたってもいられないような状態になった


「こっちに来てからも、話師のおじいさんに会えるなら、私は会いたい!きっと何かレキがよくなることを少しでも知ってるかもしれない。もう夜だけど、今から会えないかな?」


「連盟にいって、トーガに聞いてみないとわからないわね。もう遅いし、明日でもいいんじゃない?」


ネム、ごめん、私今すぐ行きたい。少しでも早く、レキを元に戻してあげたい。だから、今から連盟にいって、話師に会えないか聞いてきてもいいかな?」


ネムはラッカの気迫に圧倒され、同意を出した。ラッカはどうにかしてレキを助けたい一心で向かうことを決意した。


「わかった。もう9時を回ってるけど、ギリギリまだ連盟が取り合ってくれるかもしれないね。レキは私が面倒を見てるからラッカ行っておいで。私もレキを直したい。クウもカナもそう思ってるから」


ネム、ありがとう!私、話師のおじいさんに会ってくる!」


過ぎ越しの祭りの夜。もうそろそろ深夜に差し掛かった時間だというのにラッカはシルバーホームを飛び出した。ただただレキを救いたい一心で。そしてこの行動がのちに何を意味するのかは、この時はまだわかっていなかった。そしてラッカが飛び出してから少したってから、夜便でシルバーホームに手紙が届いたのだった

#22 過ぎ越しの祭り 暗澹 願い

フラの街にも冬がやってきた


街全体が過ぎ越しの祭りのムードになって、あらゆる場所に鈴の実の市がたった。ラッカはちょうどこの時期にレキが巣立ちをしたのを思い出した


「今年ももう終わりだね。そういえばさ、去年はあたし、マスターと二人で越したけど、今年はみんなで越せるから嬉しい。みんながきたのって年を越してからだったからね」


クウがそう言って祭りのことを嬉しそうに話す。そういえば昨年は壁の中で五人で過ごしたっけ。


「レキ、レキ、覚えてる?あれからちょうど一年たったんだよ。あの時、レキが自分を捨てそうだったけどレキ、最後に助けてって言ってくれたね。私はあの約束を守るから。何があっても今度は私があなたを守るからね」


ラッカはそう言ってレキに話しかける。レキは何も反応を示さなかったが少し安堵のような表情を浮かべていた


「そういえばさ、過ぎ越しの祭りって壁の外にもあるんだね。グリの街だけだと思ってたけど」


カナがそう言うと一番最初に壁を越えたクウが答える


「うん、もちろんあるよ。だってグリの街はフラの街の姉妹都市だからね。あたしも最初に来た時は驚いたけど、まあそりゃそうかって思ったよ」


「そういえばさ、ラッカが来た年はクウはいなかったっけ。今度はヒカリがいないから過ぎ越しはまた五人か」


カナがそう言って少し残念そうにつぶやく。カナの中で六人一緒に入れた時間が一番楽しかった。クウがいなくなったときはどれだけ寂しかったか


「そうだね。私が来た時はみんないたから、私もあのメンバーで過ぎ越ししたかったな。いつか六人揃ってみんなでできるといいね。あけど来年はきっとヨミとヤミもいるから八人か」


ラッカがそう言って嬉しそうに嬉しそうに語る。ラッカにとってオールドホームの灰羽は家族同然。いや、家族そのものだった


そしてあくる日、とうとう祭りの日がやってきた。

 

みんなは各々に鈴の実を買うと祭りを楽しんだ。去年と違い、チビ達やヒカリはいなかったが、代わりにクウがいた。もし、チビ達がいたら、レキももう少しよくなっていただろうか?ラッカはそんな風に考えていた。


そしてラッカは車椅子でレキをひいていたが人混みの中で移動が大変だったので、家に連れて帰って安静にすることにした


「私、レキと一緒に家に戻るね。ちょっと、今の状態だとレキにここは辛いと思うから。」


ラッカがそういうと、みんなは少し心配になった。


「ラッカ一人で大丈夫?」


ネムは不安そうに尋ねる


「うん、ありがとうネム。私はまだ仕事していないから鈴の実を届ける人もいないし、ネムは色々いるでしょ?だから安心して祭りを楽しんで」


そういうとラッカはシルバーホームにレキを連れて帰っていった。ネムはなんとなく不安と気がかりがあったがラッカに任せることにした


ネム、大丈夫だよ。ラッカに任せよう。レキもきっとよくなるよ」


カナがネムにそう言って語りかける。今はこれがカナにできる気配りだった。クウは相変わらず一人で楽しそうにしていたが、それはネムの不安を取り除くために振舞っていたのかもしれない


シルバーホームに帰って、明かりをつけると、ラッカは椅子にもたれかかった。そしてがっくりとうなだれ、一人で考え込んでしまった


「レキ、どうしたらよくなるのかな?それともずっとこのままなのかな?あたしに何かできることはないのかな?」


ラッカはレキを見つめながらそう考えていたが、レキは相変わらず無表情だった。いつまでこの状態が続くのか


そう言ってラッカがレキの身の回りの世話をしていると、あっという間に夜になった。そして鐘の音が鳴り、いよいよ本番が始まったようだ


「過ぎ越しの祭りが始まった。みんな、無事に渡せたんだろうか?私は、私は今、何をすればいいんだろう?」


ラッカが一人で考え込んでいると、入口の方から扉が開く音がした


「誰?」


ラッカが驚き、入口の方を見ると、そこにはネムがいた。さっき鐘の音が鳴ったばかりなのに、こんなに早く帰ってきたのか


ネム、どうしたの?なんでこんなに早く?もう祭りは終わったの?」


「ラッカ、ちょっと話したいことがあってきたの。先に一人で帰ってきた。鈴の実を職場の人に渡すのは後でもできる。」

 

ネムはそういうととても深刻そうな雰囲気で話し始めた。当然内容はレキのことだった。ラッカはネムがレキを治す方法を何かしっているのではないかと思い、真摯になってその話を聞き始めた

#21 交代 相互 異例

夕方


五人はシルバーホームを出て連盟に向かった。ラッカの言っていた相互保護者の許可を得る為だ。果たしてこの申請は通るだろうか?



「五人で連盟までいくのって初めてだね!なんかみんなでこうやっていけるのって嬉しい!あとはヒカリもいればいいのに!」



クウがそう言って楽しそうにはしゃぐ。そういえば五人揃って連盟に行くのははじめてだ。レキは相変わらず話をしなかったが、みんなで行けることに嬉しさを感じていた



「ヒカリ・・・。やっぱりまだこっちにはこないのかな?ヨミとヤミもいるし」




ラッカがヒカリを思い出して懐かしそうに話す。




「まあ、あたしらはさ、あたしらでやっていってるのと同じで向こうは向こうでやってんじゃないの?あの双子だってヒカリに一番懐いてたしさ。心配しなくてもそのうちヒカリもこっちに来るって」



「うん、カナ。それはわかってる。けどやっぱり、レキが治るには、レキが一緒に過ごした人が必要なんじゃないかって。その分をこっちではクラモリさんが埋めてたみたいだけど・・・。」



ラッカがレキの心配をよそにヒカリを懐かしむ。そういえばクウもレキもこちらに来てからヒカリにだけはまだ会っていない。ヒカリはいつ来るのだろう?



そう言って話しているうちに連盟にたどり着く。寺院の中に入り、五人はトーガに会い、ラッカが今の考えを話し、相互の保護者であることを提案した



「それは不可能です。ラッカ、あなたは罪憑きでありましたね。その保護者はクウです。そしてレキの保護者はネムです。それは変えることのできない事実です。残念ですが諦めください。」



「どうしてもダメでしょうか?」



「罪憑きである白羽には保護者が必要です。ラッカがレキの保護者になるならともかく、レキが今のラッカの保護者になれるとは思いますか?残念ですが却下です」



「ではレキを元に戻す為にクラモリをもう一度こちらへ呼んでください」



ネムが強い口調でトーガに話す



「私たちは連盟の規則に従って行動しています。クラモリもそうでした。レキがこのような状態になったのは、少なくとも連盟の勝手なルールによる原因でもあります。しかしあなたたちはそれはレキの問題であると言って、こちらの提案に一切耳を貸しませんでしたよね?私もレキが治るまで休暇を多くもらい、レキも手当をいくらかいただいています。こちらの提案に耳を貸さないのであれば、やはりクラモリを呼んでいただくことをお願いします」



「そうだそうだ!クラモリを呼べ!連盟は規則規則って普段から言ってるけど、レキがこーなっても何にもしてくれないじゃないか!あたしたちだって大変なんだぞ!」



カナも強い調子でネムの言い分に乗っかる。クウは口を出さなかったが、二人と同じ気持ちだった



「トーガ、お願いします。もし私が保護者になればネムはちゃんと職場に復帰できます。クウも私についてこなくても大丈夫になるので、時間を自由に使えます。決してこちらには迷惑をかけません。どうかお願いします」



ラッカは頭を下げ真摯にお願いをした。三人も同じようにそれに続いた。トーガは困り果ててしまった



「わかりました。とは言えません。今の現状では。しかしレキがこうなったのも我々に責任がないこともないです。そしてネムにもカナにも迷惑をかけているのも事実ですね。ラッカ、ちゃんとレキの面倒を見られますか?」



「はい、私がレキの面倒を見ます。私がレキを守ります。そしてレキもきっと私が困ったら助けてくれます。私たちはみなそうやって助け合ってきたのです」



トーガはなにやら奥に行くと他のトーガとボソボソと話し合っていた。おそらく相当困っていて、今までにない事例だからなんとも言えないのであろう。そして少しすると、奥から何人か来て、話し始めた



「わかりました。ではラッカの保護者はレキ、そしてレキの保護者はラッカといたします。本日からそう決まりです。しかし一度決めたこの提案は元には戻せません。それでいいですか?」



「ありがとうございます!はい、それで構いません!」




四人は笑顔になると、すぐにシルバーホームに戻った。レキは相変わらず表情がなく話もせず元気もなかったが、その日からラッカがレキの保護者となった。


「レキ、レキ、大丈夫?今日から何があっても私があなたを守るから。心配しないで。きっとレキを救ってみせる。」



ラッカはレキにそう問いかけると、レキは少しだけなにかを感じ取ったような気がした。目の前にいるのはラッカ?レキはあまり感知することはできなかったが、ただなんとなく安心するような様子も時折見せていた

#20 決意 保護者 真摯

街から自分の来た道を辿って戻るラッカ。一歩一歩の足取りが重い。こんな時、レキがいつも一緒にいてくれた気がする。


「あ、ラッカ!」



ネムの声がした方を向くと車椅子にレキを乗せたネムがいた。どうやら少しづつでも後をつけてきてくれていたようで、戻るとすぐに会えた




「ラッカ、ヒョウコには会えたの?ヒョウコなんか言ってた?」



「うん、ネム、あのね。」



そういうとラッカは重苦しい雰囲気の中、二人から聞いた経緯を話した。ネムはそれを聞くとなんともいたたまれない気持ちになって表情がこわばった



「そう、ヒョウコとミドリがね。けど、たしかにそれは言う通りね、これは私たちの問題で、あの子たちには関係ないのかもしれないね。あの二人の言ってることは正しいのかもしれない」



「うん、だけどネムが気にすることじゃないよ。今は私もいるし、カナだっている。クウももうこっちに一緒に住んでくれるから、四人でレキが良くなるまで協力しあおうよ、仲間なんだから」



「そうね。ありがとうラッカ。本当のことを言うと、私はラッカが来てくれて嬉しかった。レキのこと、私だけじゃどうにもできなかったから。やっぱり、ラッカじゃないとだめね」



「そんなことないよ。レキにとってネムは必要だよ。あ、けどね。私、私、ちょっと決めたことがあるの」



「ん?なにを決めたの?」




「ここじゃあ話せないから、一旦シルバーホームに戻ろう。クウとカナにも話しておきたいから」


ラッカがそう言うと三人はシルバーホームまで戻った。カナとクウは仕事でいない。二人は夕方になって二人が帰ってくるまで待っていた。カナはここに戻ってくるし、クウはラッカの保護者であるため、一度はラッカに会いにくるのは必然だった



そして夕方になり二人が帰ってきた。ラッカはなにかを決意した目で話し始めた


「あのね、クウ、カナ、ネム、私、実は今日、心に決めたことがあるの」



ラッカは重苦しい雰囲気で話し出すかと思いきや、わりとさらっと話し出した。ただ目はもう決断をしたようなきりりとしていて、腹をくくったような表情をしていた


「私、今日からレキの保護者になる。私がレキを救うの。レキのこと、治るまでも治った後も私が責任を持って管理する!」



ラッカからの突然の告白に三人は驚いた。ラッカがレキの保護者になる?そもそもラッカも罪憑きだからその保護者はクウなはずでは!?


 

「え?じゃあラッカ、ネムからラッカにバトンタッチするってことでしょ?ラッカの保護者はどうするの?」



「クウ、私のこと、見守ってくれててありがとう。私の保護者はレキにお願いする。だから、私とレキは互いに罪憑き同士で保護者同士になるの」



三人はラッカがなにを言ってるのか全く理解できなかった。レキの保護者がラッカなのはまだわかるが、ラッカの保護者がレキに!?つまり相互保護者ということか!?



「え?けどラッカ、レキはラッカのことは観れる状態じゃないし、とてもそんなの無理よ。私はラッカがレキの保護者を引き受けてくれるのは助かるけど、いくらなんでも無謀でしょ」



「うん、ネム。無謀なのはわかってる。けどレキの為にも自分の為にも、私やってみたい。少しでも早くレキを元どおりに戻したいから。私がずっと一緒にいれば、レキも戻ってくれるんじゃないかって」



三人は、このむちゃくちゃな話をラッカが本気で言っていることを理解した。ラッカの本気の決断を見て、それを了承した。しかしあとは連盟がそれを受け入れてくれるかどうかだが



「まあ、みんなで連盟に行ってトーガに説明してみようよ。今までない事例だろうけど、ラッカがそれくらい本気ならありうるかもね。あたしも協力するよ」



カナがそう言って五人で連盟に行くことを決めた。ラッカのこの無茶苦茶な提案は果たして通るのだろうか?そしてレキの安否はいかに。この先どうなっていくのだろうか?




 

#19 会話 真相 二人の想い

「まずはあたしから話すわ。とにかくヒョウコはもう自分のやったことでレキだけじゃなくてあんたたちボロ屋敷の灰羽、今は白羽ね、に申し訳が立たなくてしょうがないのよ。特にネムにね」



ミドリが先陣を切って話す。え?申し訳ない気持ち?一体どう言うことなんだろう?だって汽車に乗って無断で外にでようとするときに止めてくれたのがヒョウコさんだったんじゃ?


「まずさ、壁の中であたしたちにできることって本当はレキを壁の外に連れ出すことじゃなくて、現状を受け入れさせて様子を見るべきだったでしょう?ネムが一緒に住んでたんだからネムと協力したりしてさ」



「だけどヒョウコのバカがレキを連れて楔を打って壁を登ろうとしたりするからあんなことになったし、それでそれはヒョウコが勝手にやったことだし止められなかったあたしにも原因があるのにレキのせいにしてレキに酷いこと言ったり、石を投げたりしたのよ」



ラッカはその経緯を壁の中でミドリから聞いたのを思い出した。そういえばそんなことがあったな



「あのときレキを一番心配してたのは、きっとネムだったのよ。それなのにヒョウコはヒョウコで勝手な行動にでるし、あたしはあたしでヒョウコの怪我をレキのせいにするし。あたしたちはお節介なつもりでも自分勝手だったの。それに気づいたわ。」




「そんなことない!レキはヒョウコさんにもミドリさんにも感謝してるよ。あんなになったのはレキが自分で起こしたせでもあるのに・・・。」



「たしかにそれはあるわね。けどネムはどう?ネムは誰よりもレキを心配して、レキと一緒に住んでたのに、ネムのことを何も考えず、あたしたちは迷惑をかけた。だから」



「だからもう、俺はこっちの世界ではレキやお前たちには何も干渉しないことにしたんだ」


ヒョウコがミドリの話の途中で割って入った




「俺、レキの為、レキの為って思ってたけど、結局は自分のエゴでやってた事に気づいた。だってフラの街に来てからレキが壁の中と同じ行為をするなんて思ってもなかった。だけどもしあのときと同じことをするなら俺はレキに手を貸してクラモリのいる街まで行かせてやればよかったんだ。それを俺が奪った」



「俺はその時、レキのことを考えるよりも、多分ネムとかお前たちシルバーホームの白羽のことを考えて行動してた。壁の中のことから学習したといえば聞こえはいいけど、結局俺のやってた事って自分勝手だったんだよな。」




「けど、けど、ヒョウコさんが止めてくれたおかげでレキは捕まらないで住んで、ネムもきっと感謝してるよ!だから・・・」



「そう、結果としてはあれでよかったんだと思う。だけどもう、俺たちはお前たちとは一緒に住んでない。だから今、シルバーホームで起こってることはお前たちの問題だから、俺たちが干渉することじゃないと思うんだ。お前たちで解決することだろ?もう俺らにレキにもお前らにもできることはなにもないって思ったんだ。それだけだよ」



「そう、だからごめんね。これはあたしとヒョウコで話し合ってだした結論だからもう変える気はないの。勿論レキのことはあたしたちも心配してるよ。そこだけはわかってね。」



ラッカはそれを聞くと、ガクッとうなだれてしまった。そうだったのか。けどこれも受け入れなくちゃいけない事実なのかもしれない。



「わかりました。どうもありがとう。レキがまた元気になったら是非会いに来てください。レキも二人と会いたがってると思うから」



ラッカはそう言うと、街からネムとレキがいたシルバーホームの方へ歩き始めた。二人から真相を聞いて、どうも納得ができなかった。しかし同時にラッカはこのときある重大な決断をしていた。