#1 壁を越えて 礫 クラモリ

「レキ、おはよう。目が覚めたみたいね」

誰かにそう言われて目覚めたレキ。巣立ってからの記憶がない。気づいたら今いる部屋に寝ていて、目が覚めた。


「クラモリっ!?」

目が覚めるとそこにはクラモリが座っていた。クラモリ、変わっていない。ある日突然いなくなったあの日のままだ。見た目もそうだけど、雰囲気も仕草も変わっていない


「クラモリ・・・。」


レキは涙を流しながらベットから飛び起きてクラモリに抱きついた。ああ、そうだ。これはクラモリの温もりだ。私はまた、彼女に会うことができたんだ。


「レキ、大きくなったね。前とずいぶん見違えて、立派になった。羽もすっかり白くなってるし、罪憑きから抜け出せて、祝福を受けられたんだね。」


羽が白くなった!?


レキは慌てて自分の羽を見る。本当だ。灰色じゃない。きれいな白色だ


「クラモリ、私、羽が、羽が」


レキは自分の羽を見て混乱していた。自分は灰羽だった。そして羽の色はたしかに灰色だった。これは一体どういうことなんだろう?


「祝福を受けて、壁を越えることのできた灰羽は、もうその世界から抜け出すことができるのよ。そして羽は白くなる。あなたはもう灰羽ではなくてもいいの」


「クラモリ!ここはどこなんだ!なぜクラモリがここにいて、羽が白いんだ。私は、私は一体どうなったんだ!」


一度にたくさんのことが舞い込んできてレキは混乱していた。見知らぬ部屋で目が覚めると数年前に祝福を受けて巣立ったクラモリが目の前にいる。そして灰羽だったはずなのに羽が白くなっている。


レキが混乱を抑えられず動揺しているとクラモリは優しくレキを抱え込み、頭を撫でながらこう言った


「レキ、レキ、なにも言わずいなくなってごめんね。私はあなたに会いたかった。きちんとあなたにお別れを言いたかった。けど、これからは一緒にいられるから」


そう言ってクラモリは今までの経緯を全てレキに話した。灰羽は、祝福を受けて壁を越えると灰羽ではなくなり、羽が白くなって新しい生活が始まる。グリの街にはもう戻れないけど、記憶はそのままで今度は連盟の規則や、街の中に閉じ込められることなく、自由に外の世界に行くことができる。生活の保障はもうされていないけど、自分の好きな時に働いて、好きな街に行くことができる。


「そう、壁の外にも連盟と通じてる機関があるから、これをもらいに行きましょう」


クラモリはそういうと、一つの手帳を見せてくれた。それは、連盟からもらった灰羽手帳とよく似ていた。


「この手帳はね、灰羽だった時の私たちの暮らしを保障してくれる手帳とは違うけど、病気や怪我や事故みたいに困ったことがあった場合の保険なの」


なるほど、それは現代でいう全ての事柄に対する保険証のようなものだった。


灰羽のときは、貨幣は手帳のページだったけど、これからは自分の好きな仕事で、好きなようにお金を稼いで生活できるのよ。レキもこれからは好きに生きなさい。私はここにいるから、私と一緒にいたかったらいてもいいのよ」


混乱していたレキはすぐに事態を把握し、希望に満ちた。これからは自分の好きなように生きれる。クラモリとも一緒にいれる。自分の罪憑きに悩んだりしなくてよくなる


それからレキはクラモリにあったことを全部話した。クラモリがいなくなって寂しかったこと。ヒョウコと壁を越えようとして罰を受けたこと。自分の後にヒカリとカナとクウとラッカが誕生したこと。クウが先に巣立ちの日を迎えたこと。そしてラッカに自分が救われて祝福を受けられたこと。


レキは、灰羽の街にいた暗い数年間がまるで嘘だったかのように話し始めた。自分に救いが訪れ、許された後に、大好きだった人に出会えた。ずっとずっと会いたかった。会って話したいことがたくさんあった。そしてそれが叶ったとき、レキは天に昇るほどにも幸福だった。


「そういえば、クウは?」


レキはとっさにクラモリに尋ねる。


「クウ?ああ、あの金髪の少し小さい子?彼女もこの街にいるわよ」


「クラモリ!クウを知ってるの?クウに会ったの??」


「レキがここに来る少し前にあの子は来たのよ。レキの事、色々話してくれた。壁を越えてから、連盟に保護されて眠っていたレキをここに連れてきてくれたのも彼女なのよ。」


「私、クウに会いたい!クウはどこにいるの?」


「たしか、今日は仕事がないから街に出かけるって言ってたよ。ごめんね、レキ。私は彼女とは一緒に住んでいなからよくわからないの。」


「わかった、ありがとう。ここから街は近いの?」


「うん、ここは街のはずれの建物だけど、街は建物を出たらすぐに見えるよ」


「クラモリ、ありがとう。私クウを探してくる!」


それを聞くと一目散にレキは部屋を出て街へ飛び出して行った。


なるほど、部屋もオールドホームによく似ていた大きな建物だった。立派な石造りの家だ。建物の表札にはそこが元灰羽の証であるかのように白い一本の羽が刺さっていた


そしてレキは街にでる。グリの街ではスクーターがあったけど、今度はない。走っていく。けどオールドホームの時と違って建物から街は離れてないし、すぐに行ける距離だから楽だった。


「なんだかまだ灰羽だった気分が抜けてないな。カナの名前を呼びそうになっちゃったよ」


そう言ってクスリと笑いながら走るレキ。クラモリに会えて話が出来たこと、羽が白くなったこと、新しい生活の指針が決まっていること。レキは嬉しさと希望に満ち溢れながら、クウを探しに街へと駆けて行った

#2 フラの街 白羽 クウ


自分がいた建物を出て街へと駆けて行くレキ。広い草原の一本道を走って行く。道の右側の土地には大きな田んぼが広がり、左側にはグリの街にもあった、風力発電の風車がいくつもそびえ立ち、風に揺られくるくると回っていた。

数分走ってだけで街にたどり着く。建物から数百メートルくらいの距離だった。

「えっと、街にクウがいるって聞いて慌てて飛び出してきたのはいいけど、さて、どうやってさがすかね」


レキはクラモリと話した後何も考えずに街に飛び出した。とにかくクウに会いたい一心で。しかしそれはあまりに無計画だった。


「こんなことならクラモリに街を案内してもらえばよかった。」

レキは少し後悔しながら街を探索する。なるほど、この街もグリの街と同じような建物が並んでいて、商店街がある。カフェもあるし洋服屋も雑貨屋もあった。

そして街の中心街に行くとグリの街にもあった噴水のある広場があった。同じだ。全く同じ。グリの街と同じ形の噴水だ。

「あれは、前にもあった。おんなじだ。それにあまりグリの街と雰囲気が変わらないな」

そう言ってレキはまるで狐につつまれたように歩き回る。本当にここは壁の外なのか?灰羽のときにいた世界とほとんど変わらなかった。


しかし次の瞬間、レキは信じられないものを目の当たりにする。そう、ここがはっきりと壁の外だと認識できるものだった。


「あれは・・ワダチ」

そう、それは街の外に通じている汽車だった。灰羽になる前に、レキはこれに飛び込んで自分を捨てたことを思い出した。グリの街にはこの乗り物はなかった。しかしたしかにはっきりと、それを見たのだ。

生前にあった記憶はないものの、自分がそこに身を投げたことをはっきりと自覚した。そしてそれが原因で罪憑きとして生まれ、苦しんだことに。


「けれど、そんな私を彼女は、ラッカは救ってくれたんだ」

ラッカの事を思い出すレキ。巣立つ事が出来ずに人々から忘れられてしまう存在になるかもしれなかった自分。そしてそれから救われたいがためにいい灰羽を目指し、彼女に優しく振る舞った。そして最後にその彼女から救われた。


レキは、汽車を見るなり、そこで自分を捨てた恐怖と、そこから自分を救ってくれたラッカに対する感謝の気持ちが交錯した。そして再びラッカに会える日を強く望んだ。


そうすると、汽車の一室から車掌が降りてきた。車掌はレキに気づき、そばにやってきて話しかけてきた。

「珍しいな。この街に白羽がいるとは。ああ、まだ新しくきたばかりかい?それとも一時的に戻ってきた感じかな?それとも今から旅立ちかい?」


車掌はレキにそう尋ねる。レキはこの世界のことはまるで知らなかったので、言っていることがよく分からなかった。


「あ、すみません。じつは今日、こちらの世界にやってきたばかりで」


「ああ、そうなのか。珍しいなとは思ったよ。今は街を探索中かな?」


「あ、いえ、同じ灰羽、いえ、白羽の女の子を探しているんですが。ご存知ないですか?」


この世界では灰羽ではなくシロバネと呼ぶという事を初めて知ったレキ。白羽が珍しいならクウも簡単に探せるかもしれない。そう思いレキは尋ねた


「小さい女の子の白羽?ちょっと僕は汽車の車掌だからあんまりこの街に詳しくないからわからないなあ。ごめんね。連盟に聞けば詳しい事教えてもらえるんじゃないかな」


「連盟?灰羽連盟ですか?」


「ああ、グリの街ではそう呼ぶらしいね。フラの街では白羽連盟っていうんだよ。そのままだけどね。トーガに会ったことはあるだろう?トーガはもともとこっちの街の連盟の人だからね」


なるほど。だんだんこの世界の事がわかって来た。


「フラの街?ここの街はそういう名前なのですか?」


「うん。グリの街と姉妹都市だよ。灰羽が生まれるようになるまでは壁もトーガも連盟もなかったから街の人たちも仲良く交流してたもんさ。グリの街の構造はこのフラの街を模倣して作られたんだ」


そうか。ここはグリの街と姉妹都市なのか。道理で街並みも雰囲気も似ているなと思ってた。


「グリの街に詳しいんなら大体わかるよね。来たばかりならまずは連盟に行って色々手続きを先に済ませた方がいいと思うよ。それじゃあ仕事があるからまたね。汽車に乗るときはいつでも来なよ」


そう言って車掌は汽車の中に入っていった。随分と親切な人だ。街の歴史や連盟のこと、壁についてなど詳しく教えてくれた


「まあとりあえず連盟に行ってクウのことを聞いてみるか」


そう思い、レキはまた街の中央広場に戻って行った。


「グリの街と変わらないならここから連盟は遠くないな。けど、一人で行って大丈夫だろうか?それに位置も本当に前の時と変わらないんだろうか?」


そうレキが考え込んでいると、どこかでみたことのある、懐かしい顔ぶれの少女が一人猫と戯れていた


金髪でおかっぱ、少し背が低くて、明るく天真爛漫な振る舞い。そして背中には巣立った証としてのきれいな白羽がそれが彼女の探していた人物であることを物語っていた


「クウ・・・。」


巣立ちを迎えてから、クラモリに続きレキは再びオールドホームの灰羽の一員に再会した。

#3 クウ 白羽連盟 トーガ

「クウ!」



レキは声を張り上げてクウの名前を呼ぶ。猫と遊んでいたクウはその手を止め、自分の名前を呼んだ方に目を向けた



「レキ、ひっさしぶりー!」



クウは満面の笑顔で手を高々と上げ、そう返事をした。クウ、クラモリと同じで何も変わってない。全て壁の中と同じ


レキは嬉しさのあまり、急いでクウに駆け寄り抱きついた。クウ、クウ、同じオールドホームの仲間。クラモリに続いて、巣立ちをしてから再び会うことができるなんて、まるで夢のようだった



「レキ、レキが一番最初に来てくれたんだね。あたし、早くみんなが来ないかなって少し不安だったから来てくれて嬉しいよ。」



「あたしもクウに会えて嬉しい。よかった。ちゃんと壁の外でもまた会えたね。元気だった?」



「うん、元気だよ!早くみんな来ないかなってずっと楽しみにしてた!」



「そうか。クウも不安だったんだね。こっちもさ、クウがいなくなってからみんな凄くショックでさ。あたしが巣立ちの日の説明をしてもカナなんか怒り出すし、ラッカなんか一番落ち込んでて泣き出しちゃったりしたんだよ」



「そっかあ。あたし、みんなにちゃんとお別れ言わなかった。だってみんなすぐに来ると思ったから。だけどラッカには、ラッカにだけは最後少しだけお別れみたいなものを言えた気がするんだよね。あたしもラッカに早く会いたいな」



「あ、そういえばレキ、まだ仕事決まってないでしょ?けど手帳はもうもらったの?」



「ああ、実はついさっき起きたばかりでまだ連盟にも行ってないんだ。」



「そうだよね。じゃあさ、まずは連盟に行こうよ。あたしが連盟まで案内してあげる。そのあとさ、あたしの働いてるお店があるからそこでご飯食べようよ!クラモリも誘ってさ」



「あ、ああうん。あのさ、クラモリから聞いたんだけど、クウが眠っているあたしをあそこの家まで運んでくれたの?」



「運んだのはあたしじゃないよ!トーガだよ!レキが来たって知らせを連盟から聞いたからすぐにクラモリの家に運んでほしいってあたし言ったんだ。クラモリが一番レキに会いたがってたからね!」



「そう。クウ、色々とありがとう。」



レキは、自分がなぜ壁を越えてからの記憶がなく、眠りについたのかがわからなかった。それだけが何か引っかかっていたが、クラモリもクウもその事について特に知っていることはなさそうだった


そうしてレキはクウに連れられて連盟のある場所にまで行った。グリの街と違って、途中で滝や川がなかったため、わりとすぐに連盟の寺院についた



この街の寺院も灰羽連盟の寺院と同じで石造りの筒状の建物だった。しかし前と違い、建物の背に岩山はなく、一つの塔のようにそびえ立っていた



「ここが、寺院・・・。」



そして寺院の入り口には、こう表記されている看板があった



『異種族管理事務局 白羽連盟』



寺院の中に二人で入ると、中にトーガがいた。トーガ、やはりこちらの街の人間だったか。そしてつぎの瞬間、驚くべきことに、こう言った



「ああ、オールドホームの元灰羽ですね。こないだ壁を越えてやってきたばかりの白羽ですね。手帳をもらいに来たのですね。ささ、こちらへどうぞ」



トーガが喋った??



グリの街では、街の住人ですら話すことや触ることは不可能だったはずのトーガ。しかし言葉を発したのだ。



「はい、その度はお世話になりました!あたし、付き添いできました。クウです!」



「え、ちょっと、クウ!話して大丈夫なの?」



「うん、問題ないよ。こっちでは壁の中とルールが違うからね。白羽は壁の外では普通の人間と変わらない扱いだし、トーガもここの管理の人って言うだけで街の人とも普通に交流してるよ」



そうか、街の様子が壁の中と似ていたから気づかなかったが、自分はもう灰羽ではないし、ここは壁の外で独自のルールがあるのか



そしてトーガについていき、寺院の中庭に入ると、レキは手帳を渡された。そしてそこには『白羽連盟』という文字が記載されていた。



「レキ、あなたの灰羽歴は7年でしたね。7年間、壁の中でご苦労様です。こちらの手帳は7年間無償で使用できますので、期間が切れたら更新をお願いします」



「え?どういうことですか?」



「はい、グリの街で灰羽としての期間が壁の外での保証の期間となっております。クウは2年でしたね。レキは7年となっています。もし期間がきれましたら更新の手続きをしないと使用ができなくなってしまうのでご注意ください。」



「そ、そうなんですか。ありがとうございます。」



そういって、レキは手帳を受け取ると、街に戻っていった。あの何も話さない交易のために街にきていたトーガがあんな口調で話すとは。レキは驚いていた



「トーガって意外と親切でしょ。壁の中だとなんか怖いイメージあったけど、こっちだとなぜかあたしたちに優しいんだよね」



「あ、ああ。そうだね。ちょっと驚いた」



レキはトーガにもクウにも色々と尋ねたいことがあったのだがやめておいた。なにか聞いてはならないような気もしたし、時間が経てばいずれわかるだろうと思い、胸にしまいこんで後にした。


そしてレキは再びクラモリのいる家に戻ると、クラモリを連れ出して、三人で街へ向かった。クウの働いているお店に三人で食事をしにいく約束だった。



壁を超えてから、クラモリに会え、そしてクウにも会えたことで、レキは心の底から幸福を感じていた。この街についてから色々不明な部分もあったが、この時レキはただただ幸せの中にいた。

 

#4 カフェ 仕事 冬

「ついたーここだよー」



クウに案内され、着いたのは中央広場の近くにあった小さなカフェだった。グリの街にいた時、クウが働いていたカフェととてもよく似ていた



「あたし、グリの街では2年しか働いてなかったけど、それが結構ここで役に立ってるんだ。今は接客メインだけどさ、マスターがいい人で料理も色々教えてくれるから仕事が楽しいんだ。オールドホームではレキが結構ご飯作ってくれたじゃん?レキもご飯屋さんで働くの向いてると思うんだけどな。」



「まあ、そうだったの。レキ、料理上手だったんだね。今度あたしもレキに何か作ってもらおうかしら」



「うん、チビ共の世話と、オールドホームの家事全般やってたからね。まあ寮母のばーさんもいたし、カナとかヒカリも色々手伝ってくれたからさ」



レキにとって今はあの頃がとても懐かしく感じた。その後にラッカがやってきて人数が6人になってから、食卓がとても明るくなって、けれどそのあとクウが居なくなってって色々あったなと



お店のドアを開けると、カウンターがあって、円形のテーブルがいくつか並んで居た。
外にはテラスもいくつかあり、お洒落なカフェだった



「おおーいらっしゃい、おや?クウ、今日は友達と一緒だね。一人はえーとたしかこないだ来てくれたクラモリさんだったかな?ん?もう一人は初めて見るね」



「あ、新生子です。レキっていいます。クウがいつもお世話になっています。よろしくお願いします」



「新生子?ああ、最近グリの街からきた新しい白羽ってことだね。いえいえ、こちらこそよくきてくれたね」



グリの街では、新しく繭から生まれた灰羽を新生子というが、こちらでは違うのか。ではなんというのだろう?



「こっちの街ではね、新生子って言葉はもう使わないの。特定の言葉はないから、新しくきた白羽って感じかな?」



クラモリがレキに詳しく説明してくれる。なるほど、たしかに新生子というのはおかしな表現だった。



「いやあ白羽が三人もきてくれるなんて嬉しいな。クウの知り合いっていうのも嬉しいし、じゃあさ、えーとレキさんだっけ?今日はクウが二人目の仲間を連れてきた祝いだ!タダにしておくから好きなもの食べていきなよ!」



「え?そんなの悪いです。あたし、お金もってますから払います」



クラモリが慌てて仲介に入る。前にあった汽車の車掌といい、この街も親切な人が多い。それも白羽だからだろうか?とレキは思った



「いいっていいって、いつもクウがここで頑張ってくれてるからね。今日くらいは遠慮しないで」



「わーい、マスター!どうもありがとう!」



「あ、ありがとうございます」



レキとクラモリは慌てて頭を下げる。クウはこんな親切な人に雇われているのか。と少し羨ましくなった



三人は席に着くと、クウがおススメの料理を頼んでくれた。それははグリの街の料理店で食べた料理と味も見た目もよく似ていた



「クウはここで働いてるんだね。そういえばクラモリはどこで働いているの?」



「え、あ、あたしは今ちょっと休暇中なの」



「休暇中?やっぱり体の調子があんまりよくないの?大丈夫」



「え、あ、うん。大丈夫よ。体の調子じゃなくてね、今はちょっと休職しているの。仕事場はフラの街じゃないから、今は連盟から手当をもらって休んでいるの」



「この街で働いてないの?ということはここから汽車に乗って通っているの?」



「え、えーと、まあそんな遠いところじゃないんだけど、今は休暇しているの。色々事情があってね。また仕事場に戻る日がくるんだけど、今はわけあってね。」



レキは、クラモリが何か自分に隠しているような気がしてならなかった。話している時、若干辛そうに下をむきながら話していたし、なにか後ろめたさのようなものがあったのがわかった



「まーいいじゃんレキ!あたしもクラモリがいてくれて心強いしさ、さー食べよ!」


レキは何か自分の中で引っかかるものがあったが、今はクウもいることだし、聞くのをやめておいた。そして三人で食事を楽しんだ。グリの街で、クラモリが巣立ちをして以来、初めての一緒の食事だった



「マスター!ご馳走さま!どうもありがとう!」



クウが元気よくマスターに挨拶をする。マスターも嬉しそうだった



「こちらこそ、よくきてくれたね。またいつでもおいでよ」



「どうもご馳走さまでした。また来させていただきます。よろしくおねがいします」



クラモリが丁寧にお礼を言うとレキもそれに続いた。こちらの街にきてから三人でする食事はとても楽しいものだった



「あたし、このお店の二階に住み込みで住んでるんだ、ほら!」



そういってクウが指を指すと、外にある二階に続く階段の先にある扉の手前の表札に一本の白い羽が刺さっていた。自分が起きた家と同じだった。あれが白羽の住んでる証なのか?



そしてその後、クウが街を案内し、三人で色々と回った。本当はクラモリの方がこの街にいた期間が長いのだが、クウが張り切ってレキを案内するものだから、クラモリは静かに見守って居た



そして、1日街を回ると、夕方になったので、クウは自分の住処に帰っていった。



「クウ、今日は色々とありがとう。お昼もご馳走になっちゃって。また食べにくるよ」



「こちらこそありがとう!またレキに会えて嬉しい!あたしもあの家に遊びに行くね!」



そして日が落ちて、夕方になると、レキはクラモリと一緒に、あのレキが目覚めた家に戻っていった。そうか、自分が巣立ったのは冬だったから日が落ちるのも早かった。寒さに震えるレキにクラモリはそっと手を握った



「レキ、今日は楽しかったね。色々とありがとう」



クラモリがそう言うと、レキは彼女の手の暖かさに感動していた。そしてこの幸せがずっと続くものだとこの時は信じてやまなかった

#5 白羽の規則 保護者 そして春

家につくと、その日1日、色々なことがあって、レキは気疲れしたのかすぐに眠りについた。今いる部屋が自分の部屋なのか?そこは使っていいのかなどの疑問はもちろんあったが、クラモリがそばにいる安堵がレキをすぐに眠りへと誘った


 

次の日、レキが目覚めると部屋のテーブルにはパンやサラダが並べられていた。


 

 

「あ、レキ、もう起きたの。よかった。ぐっすり眠っていたからまだ起きないかと思ってた」

 


 

ああ、そうだった。もうここはオールドホームではなく、壁の外だったか。1日経ってもレキはまだ自分が壁の外にいる感覚を掴めなかった


 

 

「レキ、今コーヒーいれるね。あなたも飲む?」

 

 

「あ、ああ。もちろん。コーヒーは大好きだよ。クラモリ、ありがとう」


 

 

オールドホームでは自分がよく入れていたコーヒーをクラモリが今は入れてくれた。落ち着いたこの空間の幸せのひとときだった。そういえば、ミドリに言われてからか?もうレキはタバコを吸っていなかったが、自分でもそのことに気づいていなかった

 

 

「そういえばレキ、昨日はクウと一緒に連盟に手帳をもらいにいったんでしょう?手当は貰えたの?」

 

 

「手当?手当ってなんのこと?」

 

 

「ああ、やっぱりもらってなかったのね。レキはまだこの街に来たばかりで仕事をしてないでしょう?灰羽だったときに働いていた分の手当よ。まあ、もうグリの街で働いていないから、壁の外で仕事が見つかるまでにもらえるお金のことね」

 

 

そうか、ここではもう手帳のページではなく実際にお金をもらって生活できるのだった。レキはすっかりそのことを忘れていた。



「私も聞きたいことがあるから今日、もう一回連盟に一緒に行きましょう。また手続きがあるかもしれないから」

 

 

クラモリがそう言うと、二人は朝食を済ませ、すぐさま連盟へと向かった。連盟に着くと、トーガが入り口におり、招き入れてくれた

 


 

「ああ、クラモリ、それにレキ。よく来てくれましたね。どうされました?」

 

 

「あの、レキの分の手当はどうなっているのでしょうか?」

 

 

「ああ、そういえばレキはまだ手当を申請していませんでしたね。こないだは手帳だけをとりにきましたね。一緒にいたのがクラモリではなく、クウだったので、クラモリに何か事情があって、まだ来れないのかと思っていました」

 

 

トーガが何かクラモリに事情を説明していたが、レキは理解できなかった。手当をもらう際に、なぜクラモリの申請が必要なのだろう?クウは付き添いで来ただけだったのに

 


 

そしてなにやらクラモリとトーガが話し合っていて、クラモリがトーガから封筒のようなものを受けといっていた。中には紙幣と貨幣が入っているようで、受け取る際に、小さな金属音が聞こえた

 

 

「では、以上で申請は終了です。わざわざお越しいただいてすみません。また何かあればご相談ください」

 


 

トーガがそう言うと、クラモリはレキを連れてまたあの家まで帰っていった。しかしレキにとっては不可解な点が多く、まだ色々と聞きたいことが山ほどあった

 

 

「クラモリ、あたしはまだここに来てばかりだから、街のことや白羽のことは全然わからないんだけど、なにかあたしに隠していない?もう隠し事はやめてほしい。あたし、壁の中でもクラモリが居なくなってとっても辛かった。だから本当のこと、話してほしい」

 

 

「レキ、ごめんね、色々レキにはわからないことがあるよね。だから私、ちゃんとレキに話そうと思う」


 

 

そう言うとクラモリは重い口を開き、レキに話し始めた

 


 

「まずはじめに、私はこの街で仕事をしていないの。ここから汽車で少し離れた街で暮らしているのよ。今は一時的にフラの街に戻って来ているから、休暇手当で暮らしているの」

 

 

クラモリからそう言われると、レキは汽車の車掌に言われたことを思い出した。そういえば白羽がこの街にいるのは珍しいと、そして一時的に戻って来ただけかい?と聞かれたことも

 

 

「このフラの街はね、巣立ちを迎えた灰羽が、外の世界での最初の街として生活する場なんだけど、一定期間を過ごすと違う場所に行かなくてはならない決まりなの。」

 

 

「え?それはどういうこと?」

 

 

「例えば白羽がこの街で暮らし続けることになれば、街は白羽でたくさんになってしまうでしょ?そうすると白羽への手当が多く支払われたり、新しい白羽が来ると住処を提供しなくてはならなくなるし、それに」

 

 

「それに?」

 

 

「なによりもグリの街にはもう戻れないし、壁に触ると罰を受けたでしょう?それと同じで、白羽になっても私たちはもう壁に近づいてはいけないことになっているの」

 

 

そうか。それでこの街に白羽がいるのが珍しいことだったのか

 

 

「けど、クラモリはいつまでこの街にいるの?いつまでいていいことになってるの?」


 

 

「私たちは、期間や日数でここにいられるわけじゃないの。壁の中と同じで、巣立ちの日が来たらそこから旅立つ日がくるのよ」

 

 

「レキが巣立ちを迎えたっていう知らせを聞いて、私は慌ててこの街に戻ってきた。私は誰よりもあなたに一番に会いたかった。そしてクウに出会って色んなことを聞いたわ。レキが元気だって言う話をきけて嬉しかった。そしてトーガも、もしレキが目覚めたらよろしくお願いしますってレキをここまで運んでくれた」

 

 

クラモリはそう言うと、突然立ち上がって窓の外を眺めた。そういえば昨日は晴れていたが、今日はどうも空が曇っていて、暗い感じだった

 

 

「そしてね、レキ、あなたは罪憑きだった。だけど私はあなたを残して壁の外へ巣立ってしまった。罪憑きだった灰羽は、白羽になっても誰かの保護下にいなければいけない。だから連盟は巣立ったレキを眠らせて保護者が現れるのを待った。そこでクウが1番に連絡を受けていたから私を指名してくれたの」

 

 

そうだったのか。だから巣立ってからの記憶がなかったのか

 

 

「じゃ、じゃあさ、クラモリは前の時みたいにもういなくなったりしないんだね?たとえ自分のいた街に戻ったとしても、また絶対に会えるよね?」

 

 

「もちろんよ、レキ。もう寂しい想いはあなたにさせないから」

 

 

クラモリから一部始終を聞くと、レキは本当に安心した。色々あった胸のつかえがとれた気がした。クラモリはもういなくならない。そしていつかは自分のいる街にもどるけど、今はここにいる。それだけ聞くと、もうレキに不安の気持ちはほとんどなくなっていた

 

 

それからレキは、クラモリと同じ家で生活を始めた。運良くすぐに仕事は見つかった。前の街では子供達の面倒を見る仕事だったが、今度は家政婦で家事の仕事だった。街の大きなお屋敷に勤め、主人はとても親切だった。レキにとって、毎日がとても新鮮で、もう悩むことはなにもなかった。クラモリとクウとの三人で過ごす新しい街の暮らしは幸せそのものだった。そうしてあっという間に時はたち、冬が終わり春がやってきた

#6 新しい白羽 シルバーホーム あらたな生活

こうしてフラの街にも冬を終え、春がやってきた。外は暖かくなっており、羽袋はもう必要なく外出ができた。



そしてある日、レキとクラモリの住居に一通の手紙が届いた。そこにはこう記されていた



「クラモリ、レキへ

新たに壁を超えた灰羽が来られたし、ただ今、白羽連盟で保護中。至急、寺院まで来られたし 白羽連盟」



レキはそれを読むと慌ててクラモリの元へ飛んでいった。すぐにでもこの事実を伝えたかった


 

「クラモリ!!」



「まあどうしたの?レキ、そんなに慌てて」



「連盟から手紙がきたんだ!新しく壁を越えきた灰羽が今連盟にいるんだって!きっとオールドホームの灰羽だよ!すぐに行こう!」



レキは新しい仲間が再び壁を越えた事実を知って興奮を隠せずにはいられなかった。次は誰がきたんだろう?ネムだろうか?それともカナ?ヒカリ?とにかくレキはすぐにでも確認したくてたまらなかった



「まあまあ、レキ、そんなに慌てないで。クウもきっと会いたがってるからクウも誘って三人で行きましょう」



「もう来てるよー!」



外から元気のいい声がして来た



「レキー!クラモリー!あたしのところにも手紙が来てたよー。お陰で今日急遽仕事の休みもらえたよ!レキも今日仕事休みでしょ?すぐに行こうよー」



そとからクウの声が聞こえてくる。レキはそうとう大きな声で話していたので、聞こえていたのだ。そして三人は準備をしてすぐに連盟へと向かった



連盟につくと、トーガとの交渉そっちのけで、クウとレキは寺院の中まですっ飛んで言った。クラモリはあとを追うようにゆっくりと向かった。二人と違って、嬉しさの中にどこさ寂しげのある表情を浮かべていた


「というわけでネム、あなたの灰羽歴は9年でしたね。ではこちらの手帳を差し上げます。9年間ご使用できますが、それ以降は更新しないと使えなくなってしまいますのでご注意ください。そしてこちらはお仕事が見つかるまでの手当となっております」



「ありがとうございます。」



「住居については、この街にあなたと灰羽だったときに暮らしていた白羽が数名いますので、そちらにお住まいください。もし、職場での住まいをご希望でしたら、そのときはこちらまでご相談ください。今はあまり必要ないと思いますが」



トーガとネムがやり取りをしていると二人の白羽がすごい勢いで入ってきた



「あ、ネムだ!」



「やっぱりネムだったか!きっとそうだとおもったんだ!」



「レキ、それにクウ!あなたたち、どうしてここに?」



ネムが驚いて二人を見ていると、トーガがネムに説明を始めた



「ああ、レキ、それにクウ。よく来てくださいました。新しい白羽はこの通りネムです。クウは職場の空き部屋に暮らしていますが、今はレキはクラモリとシルバーホームに暮らされていますね。ネムもそちらをご希望ですか?」



「クラモリっ!?」



トーガの話を聞くとネムは驚きの表情を隠せなかった。クラモリがこの街にいる?そしてレキと一緒に住んでいる??



ネム・・・。」



二人に少し遅れてクラモリが寺院の中に入ってきた。ネムはクラモリを見るなり涙を浮かべ、クラモリに慌てて駆け寄った



「クラモリ・・・。」



クラモリはネムを強く抱きしめると、二人は涙を流しあった。この場に言葉は必要なかった。ただただ再び再会できたことに心からの喜びを感じていた



そして四人はレキとクラモリの住む住居へと帰っていった。ネムはレキと同様、レキやクウに会えることをすごく楽しみにしていたのだが、まさかクラモリにまでこんな早く会えるとは思わずに、ただ喜びに震えていた



ネムも大きくなったね。最初見たときちょっと誰かわからなかった。また私はあなたに会えて嬉しい」



「私もクラモリに会えて嬉しい。クラモリ全然変わってなくて驚いた。クウにもまた会えたし、こんな嬉しいことはないよ」



「うん、あたしもまたネムがきてくれて嬉しい!カナもヒカリもラッカも早くこないかなー」



「そういえば、レキ、レキはここでクラモリと暮らしてるんでしょ?クウだけ別なの?」



ネムが不思議がって尋ねる



「うん、あたしがきたときはこの街に白羽がいなかったから、連盟に灰羽だったときの経歴だけ話したらすぐにお店紹介してもらえたんだよ!オールドホームと違ってこんな綺麗な住処あったんだね。」



「もともと人間が住んでいた住処だったんだけど空き家になってたところにクラモリが住むことになったんでしょ?今はクラモリの名義で借りてるんだよね。それにしてもシルバーホームなんてさ、じーさんばーさんが住んでそうな名前でなんかやだね」



レキが呆れたようにそういうと、ネムは一つ気づいたことがあった



「そういえばレキ、タバコもうやめたんだね。いつも食事中でも吸ってたから気づかなかった」



「ほんとだー、レキがタバコ吸ってない。なんかへんなの!ははは」



クウも一緒になって笑う。そんなこんなで楽しく話が繰り広げられていたが、クラモリは少し浮かない表情を浮かべていた。レキはそれにうっすら感づいていたが、このときは口に出さなかった



それから何日かして、すぐにネムの職場が見つかった。またグリの街のときと同じ図書館司書の仕事だった。やはりもともと壁の中で働いていた情報が連盟に記録されているので、すぐに紹介がでて仕事に就くことができた。ネムは職場に住み込みで働くことを希望せず、レキとクラモリと三人で住むことを決めた。そしてまたあの三人一緒の同居生活が始まった。シルバーホームは、オールドホームほど広くはなかったけれど、裏に空き家が何件もあったため、何人でも住むことができた。クウは相変わらず職場に住み込みだったがよく遊びにきた。そしてて数日が経つと、クラモリの元に再び一通の手紙が届いた

#7 契約 巣立ち 規則

クラモリは手紙を手にすると、恐る恐る開封した。そしてそこにはこう記されてあった



「クラモリへ 本日夕方の5時までに寺院まで来られたし。もし姿を表さない場合は強制退去を命じる 白羽連盟」



クラモリはその手紙の読むと、じんわりと涙を浮かべ、肩を落とした



「ああ、とうとうこの最後通知がきてしまった。私は今日、もうここの街を出て行かなくてはならない」



クラモリはそういうと、すぐに寺院まで向かった。朝ごはんを作っていたレキがクラモリの姿が見えず不審に思い、周囲を探したが姿が見当たらない



ネムネム、ちょっと起きて」



レキは慌ててネムを起こし、現状を伝えた。クラモリが見当たらないのだが、朝ごはんも食べずにどこに行ったのだろう?



ネムも慌てて起きてクラモリを探す。シルバーホームにはどこにも姿がない。ひょっとして・・・。連盟に行ったのでは?と二人は思った



「本日中なのですか?どうしても今日中に出て行かなくてはなりませんか?」



「はい、最初にそういう契約であの住居にあなたは住まれていましたよね?残念ですがこれは規則ですのでお願いいたします」



「けど、ネムはまだ来て日が浅いですし、何よりレキは私がいなくなったらきっと困惑すると思います」



「クラモリ、それはレキの問題であってあなたの問題ではありません。それはレキが乗り越えることです」



トーガと寺院の中で懸命に交渉をするクラモリ。どうにかしてこの街から巣立つ日数を増やせないだろうかと真摯に願っていた



「クラモリ、あの住居は本来レキの白羽手帳の保証で暮らせています。本来はレキの住処です。ただレキは罪憑きだったので、あたなの保護下という契約で無償化していました。休暇手当も同じです。契約はネムが来るまでの約束でしたよね。もうあの住居はネムが契約者となるのであなたをここにとどめておくことはできません」



「わかりました。では本日5時までですね。支度をして汽車で街から出て行く準備を致します」



「よろしくお願いいたします。これも規則ですので。」



クラモリはトーガとの交渉の末、やはり日数を伸ばせないことを知るととぼとぼとシルバーホームに帰ってきた。白羽連盟には、ネムがきてレキの保護者になるまでの契約ということで街に暮らせたのだった



シルバーホームに戻ると、クラモリは入り口に刺さっていた白い一本の羽を引き抜いた。今日からここは自分の契約ではなく、ネムの契約になる。経緯を話して、ネムに新しく引き継いでもらわなくては



部屋に戻ると、朝ごはんのパンやサラダとスープが置かれていた。どうやらレキとネムは仕事に向かったらしく、自分の分の朝食を用意してくれていたのだ



「レキ・・・。ネム・・・。」



クラモリは両手で顔を覆うと涙を流して崩れ落ちた。とうとうこの日がきてしまった。しかし、自分のいた街に戻らなくてはならない。もともといた街にも自分を待ってくれている人がいたのだ



そして1日が終わり、夕方になると、レキとネムが帰宅した。クラモリは重苦しい雰囲気の中、二人に事実を告げた。いつか来るとは思っていたが、レキはその事実を聞くとショックを隠せなかった



「け、けどさ、また会えるんだよね?またこの街に戻って来れるんだよね?」



「ごめんなさいレキ、もうこの街に戻ってくる理由がない限り、私はもう戻れない。ネムがくるまでの約束で連盟に取り次いでもらってたから。私は私のいた街にもどらなくてはいけないの」



「クラモリの住んでいる街ってここから遠いの?すぐでしょ?」



「ここから、汽車と船を乗り継いで二日はかかるわ。けど、レキとネムはまだこの街の仕事の契約があるからこの街からまだ巣立つことはできないのよ。レキ、ネム、ごめんね。私はもうすこしあなた達と一緒にいたかった」



そしてクラモリは身支度をし、シルバーホームの入り口にネムの白羽を刺すよう指示した。そしてとうとう、汽車の夕方の最終便の時間になり、二人はクウを誘い見送りに行った。



「クラモリ、まったねー!」



クウはとても元気にクラモリを見送ったが、ネムは涙を流して見送った。レキは表情一つ崩さず見送っていた。そしてクラモリは汽車に乗って街から旅立ってしまった



クラモリがいなくなってから、また灰羽だった頃の、レキとネムの二人だけの同居生活が始まった。クウは気を使ってよく家に遊びに来て二人を元気付けた。ネムは悲しみに暮れていたが、内心ではレキに心配をしていてそれどころではなかった。レキは何事もなかったように振る舞ったが、日々、やつれていくようになっていった