#23 ネムの想い 話師 深夜
ネムにとって、レキとの関係はなによりも複雑だった。一番近くにいて、一番長く時間を過ごした仲間であった。
「ラッカ、私はね、レキの保護者になってからは、そんなに時間が経ってなかった。この街にきて、クラモリがいなくなったのが春で、ラッカがきたのが夏の終わり頃。だから二つの季節をまたいだくらい。だけど、クラモリが行っちゃってからは元気が無くてね」
「私、壁の中でもレキに何もしてあげることができなかった。クラモリがみたいに救うこともできなかったし、ヒョウコみたいに無茶もできなかった。ただ見守ることしかできなかった。」
「そしてそれは壁の外でも同じ。クラモリがいなくなって私がレキの保護者になってからレキはおかしくなって、罪憑きの症状が出てこんなになってしまった。レキがこうなったのも全部私の力不足が原因。」
「ネム・・。」
「だけど、ラッカが来てから、レキは少しずつよくなっていった。自傷行為もしなくなったし、外にも出ることができた。けど相変わらず、元には戻らなかったけど。」
「そしたらラッカが、私に変わってレキの保護者になるってい言ってくれて、私はすごく安心したの。ここから何か変わるかもしれない。レキも元に戻るかもしれない。だけどレキは元に戻らなかった。」
「うん、ネム、私もそれは責任を感じている。たしかにレキは私が来た頃より、ずっとよくなった。だけど元に戻るにはまだ何かが足りない。だから私は、その足りないカケラが何なのか、それをすごく知りたくて」
「ラッカ・・・。」
ネムは少しうつむいたようにして沈黙した。ラッカにはネムがどういう心境でいるのかが少しだけ理解できた。きっと自分と同じようにネムも責任を感じているのだ。
「ラッカ、ラッカ、ごめんなさい。私、私じゃレキを救えなかった。そしてあなたが現れて、壁の中ではレキを救った。私はあなたに頼ることしかできなかった。」
ネムは少しだけ涙ぐんでラッカにそういった。ラッカはネムの気持ちがよくわかった。自分に何もできない葛藤というのは辛いものだ。
「ううん、そんなことない、ネム。私だけの力じゃない、みんながいたからここまで来れたきっとレキだってネムに感謝してると思う。レキに元気になって欲しいのはみんな一緒だよね。どうにか、レキを元に戻せればいいんだけど。」
「もしかしたら、話師が何か知ってるかもしれないね。」
ラッカはそれを聞くととても驚いた。話師?話師というと壁の中の?
「話師って灰羽連盟の、グリの街にいた話師のおじいさん?ネム、あの人に会ったの?」
「うん、カナがこっちに来てからレキの羽の下部が灰白色になってね、それで慌てて白羽連盟に聞きに行ったら、グリの街まで特別に案内してくれて、そこでまた話すことができたの。それで灰羽について色々なことを教えてもらえた」
ネムはラッカに話師から教えてもらった灰羽の事実や罪憑きのことをラッカに話した。ラッカはそれを聞くと、いてもたってもいられないような状態になった
「こっちに来てからも、話師のおじいさんに会えるなら、私は会いたい!きっと何かレキがよくなることを少しでも知ってるかもしれない。もう夜だけど、今から会えないかな?」
「連盟にいって、トーガに聞いてみないとわからないわね。もう遅いし、明日でもいいんじゃない?」
「ネム、ごめん、私今すぐ行きたい。少しでも早く、レキを元に戻してあげたい。だから、今から連盟にいって、話師に会えないか聞いてきてもいいかな?」
ネムはラッカの気迫に圧倒され、同意を出した。ラッカはどうにかしてレキを助けたい一心で向かうことを決意した。
「わかった。もう9時を回ってるけど、ギリギリまだ連盟が取り合ってくれるかもしれないね。レキは私が面倒を見てるからラッカ行っておいで。私もレキを直したい。クウもカナもそう思ってるから」
「ネム、ありがとう!私、話師のおじいさんに会ってくる!」
過ぎ越しの祭りの夜。もうそろそろ深夜に差し掛かった時間だというのにラッカはシルバーホームを飛び出した。ただただレキを救いたい一心で。そしてこの行動がのちに何を意味するのかは、この時はまだわかっていなかった。そしてラッカが飛び出してから少したってから、夜便でシルバーホームに手紙が届いたのだった