#11 灰白色 グリの街 葛藤

ネムは連盟に着くとすぐさまトーガに事情を話した。レキの羽の下部が少し灰色じみている。カナが指摘した時にちらっとみただけだが、ネムはその箇所がどんな意味をなしているかをなんとなく察していた。



「あれは、レキが繭から生まれてきた時、羽が黒かった部分の箇所です!当時は灰羽だったの羽の色は灰色と黒でしたが、今回は、白と灰色だから気づきませんでしたが、あれはどういうことなんですか!?」



そう、レキの羽が灰色じみていた箇所は、かつてレキが罪憑きとして生まれてきた時に、羽が黒かった部分だった。


「ああ、灰白色ですね。罪憑きだった灰羽が、こちらの街に来てから起こる現象です。特に問題はありませんが、ただ自分を見失ってしまうこともあるかと思います」



トーガは冷静に話をする。灰白色?そういえばはっきりと灰色ではなく、白と灰色の中間のような色だった。だからカナも見間違えたのか。



「どういうことですか!?ああなると、もう元には戻らないのですか!?何か、何か手立てはないのですか!?」



ネムが取り乱したようにトーガに迫る。トーガはその様子に全く動じることなく冷静に対処していた。



ネム、落ち着いてください。我々ではなんとも説明はし難いです。なので今回のことは特例として、きちんとあなたに説明できる人の元へお連れします」



トーガはそういうと、寺院からネムを連れ出し、街とは反対方向に歩いて行った。こちらは街とは関係ない方向では?ネムは不思議に思ったが、とにかくレキの症状を治すために着いて行った。



それなりに距離を歩くと、横に長く広がっている壁が見えてきた。今まで街の中にいたから気がつかなかったが、街から出た先にあんな広い壁があるとは。



「我々は、定期的にこちらから歩いてあの中に交易に行きます。もちろん中には交易以外の目的であの中に入るトーガもいます。ネム、あの場所を覚えていますか?」


 

「まさか、あれはグリの街!?」



「その通りです。そろそろ門が見ててきましたね。あの門の先に大門広場があります。一度街から出てしまった者はもう中には入れないのですが、今回のようなケースは別です。といっても我々以外は中には入れないし、壁には近づけないので、ある特別な場所で話してもらいます」



トーガがそういうと、門のそばまでやってきて、門を叩いた。門番が小窓からトーガを確認すると、門番は大きな門ではなく、外からしか見えないとなりにある小さな扉を開けた。




「さて、街の中には入れませんが、こちらの部屋は街と街の外の中間の場所になります。今回のようなケースの特例の部屋です。ここは我々の許可がなければ街の中の人も外の人も入ることができません。あと、灰羽だった時は壁にさわれば罰を受けましたが、今はもう心配しなくても大丈夫ですよ。ではある人物を呼んで参りますので、そちらの部屋でお待ちください」



トーガはそういうと、門番に大門を開けさせ、街の中まで入って行った。ネムは言われた通り、大門の横にある小さな扉を開けなかに入った。中はとても小さな部屋で、机と椅子があるだけだった。ここは、壁の中なのか?


 

しばらく待つと、トーガが誰かを連れて戻ってきた。それは、あの灰羽連盟の話師だった。



トーガは話師と手話でやりとりをすると、部屋から出て行った。ネムはその様子をみてとても驚いた。まさか壁を越えてからまた再び話師に会うことになるとは。



ネム、白羽として、今はフラの街にいるようだな。お前がここにきた理由は分かっている。レキのことだろう?もうここは壁の中でもない。お前も灰羽ではない。灰羽だっとときのルールはないので、何も遠慮することはない。話したいことを話しなさい」



話師がそういうと、ネムは驚きを隠せない中、今の現状を話し始めた。白羽として巣立ったが、クラモリがいなくなるとレキの様子がおかしくなったこと、そして羽の下部が灰白色になっていたこと、あれは、罪憑きだった時の黒い羽の箇所と同じだったこと、それによって今後なにか支障はないか、またはレキを元に戻せないかといったことだった。


「そうか、レキは再び壁の外でも罪憑きの呪いが発動したのか・・・。それは致しかたない。罪憑きであったものが背負う運命のようなものだ」


「けど、今はもうレキは白羽です!なぜ壁を越えてもこのようなことが!?」


そうネムが言うと話師は一息つき、緩やかに話し始めた。


ネム、お前は壁を越えれば天国に行けると思ったのか?壁の中はあくまで灰羽が巣立つまでの場所でしかない。そして罪憑きはその呪いから逃れる術はない。壁の外に出ればその力は弱まるが、行きていく上で背負っていかなくてはならいないものだ」


 
「レキの事情は連盟を通して聞いた。レキは壁の中で犯した過ちを再び繰り返そうとした。しかし今回はヒョウコにそこを救われたようだったな。レキは自警団に捕まりはしなかったが、してはならないことをしたのだ。それが羽に現れているのだ」


「けれど、レキはクラモリにせっかく会えたのに、この仕打ちはあまりにひどいと思いませんか?」


ネムは話師の話を聞いてそれを理解していたが、レキを庇いたい一心で個人の感情論をぶつけた。


「レキにとって、クラモリはまるで母親のような存在だった。壁の中でクラモリを失ったレキはこの街を屍のようにさまよっていた。ネム、長年一緒にいたお前にも見守ることしかできなかったな。そしてレキにはラッカが現れた」



「ラッカにとって、レキはあの街での全てだった。そしてレキにとってもラッカはまるで我が子のような存在であったのだ。そしてレキは壁を超える我が子を置き去りにして、自分の元からいなくなった母親に会いにいったようなものだ」

 

「ではもしラッカが壁を越え、フラの街にきたときにレキがいなくなったらどうなる?レキはラッカの指標となる存在だった。レキはクラモリがいなくなった同じ辛さを自分のエゴでラッカに味あわせるようなことを自分でしてしまった。それを理解しながらレキは白羽のルールを破ったのだ」



「当然、レキの心に罪憑きの時の呪いが覆い被さってきたのだ。壁の外なので白羽にとってはその色は黒でも灰色でもなく、灰白色だが。それが今のレキの出した答えだ」


話師がそう話すとネムは自分自身の無力に言葉を失った。レキにとってはやはりラッカがどうしても必要なのだ。ではでは、自分にはレキを救うことはできないのか?誰よりもレキの身を案じてきたのに。


「私は、今クラモリに変わってレキの保護者です。私では力不足ですか?私ではレキを救うことはできないのですか?」

 

ネム、お前の気持ちはわからなくはない。しかしお前にできることとできないこととあるだろう。それは壁の中でも外でも同じことだ」



灰羽になっても、白羽になっても、このような苦しみや柵から抜け出せない。私たちは一体なんなのですか!?なぜ私たちは街から出ることはできないのですか!?灰羽とは、白羽とは、壁とは、呪いとは一体!」



ネムは大きな声を上げて話師に訴えた。どうして灰羽はこのような現状から抜け出すことができないのか?もう壁を越えたはずなのに。




「よかろう、お前はもうグリの街の住人ではない。だから街には戻れない。お前には特別灰羽とこの街や壁の歴史やルールについて教えてやろう」



ネムの苦しみを理解していた話師はそう言うとこれまでに街の住人と灰羽が歩んできた歴史を語り始めるのだった。