#7 契約 巣立ち 規則

クラモリは手紙を手にすると、恐る恐る開封した。そしてそこにはこう記されてあった。



「クラモリへ 本日夕方の5時までに寺院まで来られたし。もし姿を表さない場合は強制退去を命じる 白羽連盟」



クラモリはその手紙の読むと、じんわりと涙を浮かべ、肩を落とした。



「ああ、とうとうこの最後通知がきてしまった。私は今日、もうここの街を出て行かなくてはならない」



クラモリはそういうと、すぐに寺院まで向かった。朝ごはんを作っていたレキがクラモリの姿が見えず不審に思い、周囲を探したが姿が見当たらない。



ネムネム、ちょっと起きて」



レキは慌ててネムを起こし、現状を伝えた。クラモリが見当たらないのだが、朝ごはんも食べずにどこに行ったのだろう?



ネムも慌てて起きてクラモリを探す。シルバーホームにはどこにも姿がない。



「本日中なのですか?どうしても今日中に出て行かなくてはなりませんか?」



「はい、最初にそういう契約であの住居にあなたは住まれていましたよね?残念ですがこれは規則ですのでお願いいたします」



「けど、ネムはまだ来て日が浅いですし、何よりレキは私がいなくなったらきっと困惑すると思います」



「クラモリ、それはレキの問題であってあなたの問題ではありません。それはレキが乗り越えることです」



トーガと寺院の中で懸命に交渉をするクラモリ。どうにかしてこの街から巣立つ日数を増やせないだろうかと真摯に願っていた。



「クラモリ、あの住居は本来レキの白羽手帳の保証で暮らせています。本来はレキの住処です。ただレキは罪憑きだったので、あたなの保護下という契約で無償化していました。休暇手当も同じです。契約はネムが来るまでの約束でしたよね。もうあの住居はネムが契約者となるのであなたをここにとどめておくことはできません」



「わかりました。では本日5時までですね。支度をして汽車で街から出て行く準備を致します」



「よろしくお願いいたします。これも規則ですので」



クラモリはトーガとの交渉の末、やはり日数を伸ばせないことを知るととぼとぼとシルバーホームに帰ってきた。白羽連盟には、ネムがきてレキの保護者になるまでの契約ということで街に暮らせたのだった。



シルバーホームに戻ると、クラモリは入り口に刺さっていた白い一本の羽を引き抜いた。今日からここは自分の契約ではなく、ネムの契約になる。経緯を話して、ネムに新しく引き継いでもらわなくては。



部屋に戻ると、朝ごはんのパンやサラダとスープが置かれていた。どうやらレキとネムは仕事に向かったらしく、自分の分の朝食を用意してくれていたのだ。



「レキ・・・。ネム・・・。」



クラモリは両手で顔を覆うと涙を流して崩れ落ちた。とうとうこの日がきてしまった。しかし、自分のいた街に戻らなくてはならない。もともといた街にも自分を待ってくれている人がいたのだ。



そして1日が終わり、夕方になると、レキとネムが帰宅した。クラモリは重苦しい雰囲気の中、二人に事実を告げた。いつか来るとは思っていたが、レキはその事実を聞くとショックを隠せなかった。



「け、けどさ、また会えるんだよね?またこの街に戻って来れるんだよね?」



「ごめんなさいレキ、もうこの街に戻ってくる理由がない限り、私はもう戻れない。ネムがくるまでの約束で連盟に取り次いでもらってたから。私は私のいた街にもどらなくてはいけないの」



「クラモリの住んでいる街ってここから遠いの?すぐでしょ?」



「ここから、汽車と船を乗り継いで二日はかかるわ。けど、レキとネムはまだこの街の仕事の契約があるからこの街からまだ巣立つことはできないのよ。レキ、ネム、ごめんね。私はもうすこしあなた達と一緒にいたかった」



そしてクラモリは身支度をし、シルバーホームの入り口にネムの白羽を刺すよう指示した。そしてとうとう、汽車の夕方の最終便の時間になり、二人はクウを誘い見送りに行った。



「クラモリ、まったねー!」



クウはとても元気にクラモリを見送ったが、ネムは涙を流して見送った。レキは表情一つ崩さず見送っていた。そしてクラモリは汽車に乗って街から旅立ってしまった。



クラモリがいなくなってから、また灰羽だった頃の、レキとネムの二人だけの同居生活が始まった。クウは気を使ってよく家に遊びに来て二人を元気付けた。ネムは悲しみに暮れていたが、内心ではレキに心配をしていてそれどころではなかった。レキは何事もなかったように振る舞ったが、日々、やつれていくようになっていった。