#5 白羽の規則 保護者 そして春

家につくと、その日1日、色々なことがあって、レキは気疲れしたのかすぐに眠りについた。今いる部屋が自分の部屋なのか?そこは使っていいのかなどの疑問はもちろんあったが、クラモリがそばにいる安堵がレキをすぐに眠りへと誘った。

 

次の日、レキが目覚めると部屋のテーブルにはパンやサラダが並べられていた。


 

 

「あ、レキ、もう起きたの。よかった。ぐっすり眠っていたからまだ起きないかと思ってた」

 


 

ああ、そうだった。もうここはオールドホームではなく、壁の外だったか。1日経ってもレキはまだ自分が壁の外にいる感覚を掴めなかった。


 

 

「レキ、今コーヒーいれるね。あなたも飲む?」

 

 

「あ、ああ。もちろん。コーヒーは大好きだよ。クラモリ、ありがとう」


 

 

オールドホームでは自分がよく入れていたコーヒーをクラモリが今は入れてくれた。落ち着いたこの空間の幸せのひとときだった。そういえば、ミドリに言われてからか?もうレキはタバコを吸っていなかったが、自分でもそのことに気づいていなかった。

 

 

「そういえばレキ、昨日はクウと一緒に連盟に手帳をもらいにいったんでしょう?手当は貰えたの?」

 

 

「手当?手当ってなんのこと?」

 

 

「ああ、やっぱりもらってなかったのね。レキはまだこの街に来たばかりで仕事をしてないでしょう?灰羽だったときに働いていた分の手当よ。まあ、もうグリの街で働いていないから、壁の外で仕事が見つかるまでにもらえるお金のことね」

 

 

そうか、ここではもう手帳のページではなく実際にお金をもらって生活できるのだった。レキはすっかりそのことを忘れていた。



「私も聞きたいことがあるから今日、もう一回連盟に一緒に行きましょう。また手続きがあるかもしれないから」

 

 

クラモリがそう言うと、二人は朝食を済ませ、すぐさま連盟へと向かった。連盟に着くと、トーガが入り口におり、招き入れてくれた

 


 

「ああ、クラモリ、それにレキ。よく来てくれましたね。どうされました?」

 

 

「あの、レキの分の手当はどうなっているのでしょうか?」

 

 

「ああ、そういえばレキはまだ手当を申請していませんでしたね。こないだは手帳だけをとりにきましたね。一緒にいたのがクラモリではなく、クウだったので、クラモリに何か事情があって、まだ来れないのかと思っていました」

 

 

トーガが何かクラモリに事情を説明していたが、レキは理解できなかった。手当をもらう際に、なぜクラモリの申請が必要なのだろう?クウは付き添いで来ただけだったのに。

 


 

そしてなにやらクラモリとトーガが話し合っていて、クラモリがトーガから封筒のようなものを受けといっていた。中には紙幣と貨幣が入っているようで、受け取る際に、小さな金属音が聞こえた

 

 

「では、以上で申請は終了です。わざわざお越しいただいてすみません。また何かあればご相談ください」

 


 

トーガがそう言うと、クラモリはレキを連れてまたあの家まで帰っていった。しかしレキにとっては不可解な点が多く、まだ色々と聞きたいことが山ほどあった。

 

「クラモリ、あたしはまだここに来てばかりだから、街のことや白羽のことは全然わからないんだけど、なにかあたしに隠していない?もう隠し事はやめてほしい。あたし、壁の中でもクラモリが居なくなってとっても辛かった。だから本当のこと、話してほしい」

 

 

「レキ、ごめんね、色々レキにはわからないことがあるよね。だから私、ちゃんとレキに話そうと思う」


 

 

そう言うとクラモリは重い口を開き、レキに話し始めた。

 


 

「まずはじめに、私はこの街で仕事をしていないの。ここから汽車で少し離れた街で暮らしているのよ。今は一時的にフラの街に戻って来ているから、休暇手当で暮らしているの」

 

 

クラモリからそう言われると、レキは汽車の車掌に言われたことを思い出した。そういえば白羽がこの街にいるのは珍しいと、そして一時的に戻って来ただけかい?と聞かれたことも。

 

 

「このフラの街はね、巣立ちを迎えた灰羽が、外の世界での最初の街として生活する場なんだけど、一定期間を過ごすと違う場所に行かなくてはならない決まりなの。」

 

 

「え?それはどういうこと?」

 

 

「例えば白羽がこの街で暮らし続けることになれば、街は白羽でたくさんになってしまうでしょ?そうすると白羽への手当が多く支払われたり、新しい白羽が来ると住処を提供しなくてはならなくなるし、それに」

 

 

「それに?」

 

 

「なによりもグリの街にはもう戻れないし、壁に触ると罰を受けたでしょう?それと同じで、白羽になっても私たちはもう壁に近づいてはいけないことになっているの」

 

 

そうか。それでこの街に白羽がいるのが珍しいことだったのか。

 

 

「けど、クラモリはいつまでこの街にいるの?いつまでいていいことになってるの?」


 

 

「私たちは、期間や日数でここにいられるわけじゃないの。壁の中と同じで、巣立ちの日が来たらそこから旅立つ日がくるのよ」

 

 

「レキが巣立ちを迎えたっていう知らせを聞いて、私は慌ててこの街に戻ってきた。私は誰よりもあなたに一番に会いたかった。そしてクウに出会って色んなことを聞いたわ。レキが元気だって言う話をきけて嬉しかった。そしてトーガも、もしレキが目覚めたらよろしくお願いしますってレキをここまで運んでくれた」

 

 

クラモリはそう言うと、突然立ち上がって窓の外を眺めた。そういえば昨日は晴れていたが、今日はどうも空が曇っていて、暗い感じだった。

 

 

「そしてね、レキ、あなたは罪憑きだった。だけど私はあなたを残して壁の外へ巣立ってしまった。罪憑きだった灰羽は、白羽になっても誰かの保護下にいなければいけない。だから連盟は巣立ったレキを眠らせて保護者が現れるのを待った。そこでクウが1番に連絡を受けていたから私を指名してくれたの」

 

 

そうだったのか。だから巣立ってからの記憶がなかったのか。

 

 

「じゃ、じゃあさ、クラモリは前の時みたいにもういなくなったりしないんだね?たとえ自分のいた街に戻ったとしても、また絶対に会えるよね?」

 

 

「もちろんよ、レキ。もう寂しい想いはあなたにさせないから」

 

 

クラモリから一部始終を聞くと、レキは本当に安心した。色々あった胸のつかえがとれた気がした。クラモリはもういなくならない。そしていつかは自分のいる街にもどるけど、今はここにいる。それだけ聞くと、もうレキに不安の気持ちはほとんどなくなっていた。

 

 

それからレキは、クラモリと同じ家で生活を始めた。運良くすぐに仕事は見つかった。前の街では子供達の面倒を見る仕事だったが、今度は家政婦で家事の仕事だった。街の大きなお屋敷に勤め、主人はとても親切だった。レキにとって、毎日がとても新鮮で、もう悩むことはなにもなかった。クラモリとクウとの三人で過ごす新しい街の暮らしは幸せそのものだった。そうしてあっという間に時はたち、冬が終わり春がやってきた。