#3 クウ 白羽連盟 トーガ

「クウ!」



レキは声を張り上げてクウの名前を呼ぶ。猫と遊んでいたクウはその手を止め、自分の名前を呼んだ方に目を向けた。



「レキ、ひっさしぶりー!」



クウは満面の笑顔で手を高々と上げ、そう返事をした。クウ、クラモリと同じで何も変わってない。全て壁の中と同じ。


レキは嬉しさのあまり、急いでクウに駆け寄り抱きついた。クウ、クウ、同じオールドホームの仲間。クラモリに続いて、巣立ちをしてから再び会うことができるなんて、まるで夢のようだった。



「レキ、レキが一番最初に来てくれたんだね。あたし、早くみんなが来ないかなって少し不安だったから来てくれて嬉しいよ」



「あたしもクウに会えて嬉しい。よかった。ちゃんと壁の外でもまた会えたね。元気だった?」



「うん、元気だよ!早くみんな来ないかなってずっと楽しみにしてた!」



「そうか。クウも不安だったんだね。こっちもさ、クウがいなくなってからみんな凄くショックでさ。あたしが巣立ちの日の説明をしてもカナなんか怒り出すし、ラッカなんか一番落ち込んでて泣き出しちゃったりしたんだよ」



「そっかあ。あたし、みんなにちゃんとお別れ言わなかった。だってみんなすぐに来ると思ったから。だけどラッカには、ラッカにだけは最後少しだけお別れみたいなものを言えた気がするんだよね。あたしもラッカに早く会いたいな」



「あ、そういえばレキ、まだ仕事決まってないでしょ?けど手帳はもうもらったの?」



「ああ、実はついさっき起きたばかりでまだ連盟にも行ってないんだ」



「そうだよね。じゃあさ、まずは連盟に行こうよ。あたしが連盟まで案内してあげる。そのあとさ、あたしの働いてるお店があるからそこでご飯食べようよ!クラモリも誘ってさ」



「あ、ああうん。あのさ、クラモリから聞いたんだけど、クウが眠っているあたしをあそこの家まで運んでくれたの?」



「運んだのはあたしじゃないよ!トーガだよ!レキが来たって知らせを連盟から聞いたからすぐにクラモリの家に運んでほしいってあたし言ったんだ。クラモリが一番レキに会いたがってたからね!」



「そう。クウ、色々とありがとう」



レキは、自分がなぜ壁を越えてからの記憶がなく、眠りについたのかがわからなかった。それだけが何か引っかかっていたが、クラモリもクウもその事について特に知っていることはなさそうだった。


そうしてレキはクウに連れられて連盟のある場所にまで行った。グリの街と違って、途中で滝や川がなかったため、わりとすぐに連盟の寺院についた。



この街の寺院も灰羽連盟の寺院と同じで石造りの筒状の建物だった。しかし前と違い、建物の背に岩山はなく、一つの塔のようにそびえ立っていた。


「ここが、寺院・・・。」



そして寺院の入り口には、こう表記されている看板があった。



『異種族管理事務局 白羽連盟』



寺院の中に二人で入ると、中にトーガがいた。トーガ、やはりこちらの街の人間だったか。そして次の瞬間、驚くべきことに、こう言った。



「ああ、オールドホームの元灰羽ですね。こないだ壁を越えてやってきたばかりの白羽ですね。手帳をもらいに来たのですね。ささ、こちらへどうぞ」



トーガが喋った??



グリの街では、街の住人ですら話すことや触ることは不可能だったはずのトーガ。しかし言葉を発したのだ。



「はい、その度はお世話になりました!あたし、付き添いできました。クウです!」



「え、ちょっと、クウ!話して大丈夫なの?」



「うん、問題ないよ。こっちでは壁の中とルールが違うからね。白羽は壁の外では普通の人間と変わらない扱いだし、トーガもここの管理の人って言うだけで街の人とも普通に交流してるよ」



そうか、街の様子が壁の中と似ていたから気づかなかったが、自分はもう灰羽ではないし、ここは壁の外で独自のルールがあるのか。



そしてトーガについていき、寺院の中庭に入ると、レキは手帳を渡された。そしてそこには『白羽連盟』という文字が記載されていた。



「レキ、あなたの灰羽歴は7年でしたね。7年間、壁の中でご苦労様です。こちらの手帳は7年間無償で使用できますので、期間が切れたら更新をお願いします」



「え?どういうことですか?」



「はい、グリの街で灰羽としての期間が壁の外での保証の期間となっております。クウは2年でしたね。レキは7年となっています。もし期間がきれましたら更新の手続きをしないと使用ができなくなってしまうのでご注意ください」



「そ、そうなんですか。ありがとうございます」



そういって、レキは手帳を受け取ると、街に戻っていった。あの何も話さない交易のために街にきていたトーガがあんな口調で話すとは。レキは驚いていた。



「トーガって意外と親切でしょ。壁の中だとなんか怖いイメージあったけど、こっちだとなぜかあたしたちに優しいんだよね」



「あ、ああ。そうだね。ちょっと驚いた」



レキはトーガにもクウにも色々と尋ねたいことがあったのだがやめておいた。なにか聞いてはならないような気もしたし、時間が経てばいずれわかるだろうと思い、胸にしまいこんで後にした。


そしてレキは再びクラモリのいる家に戻ると、クラモリを連れ出して、三人で街へ向かった。クウの働いているお店に三人で食事をしにいく約束だった。



壁を超えてから、クラモリに会え、そしてクウにも会えたことで、レキは心の底から幸福を感じていた。この街についてから色々不明な部分もあったが、この時レキはただただ幸せの中にいた。