#2 フラの街 白羽 クウ


自分がいた建物を出て街へと駆けて行くレキ。広い草原の一本道を走って行く。道の右側の土地には大きな田んぼが広がり、左側にはグリの街にもあった、風力発電の風車がいくつもそびえ立ち、風に揺られくるくると回っていた。

数分走ってだけで街にたどり着く。建物から数百メートルくらいの距離だった。

「えっと、街にクウがいるって聞いて慌てて飛び出してきたのはいいけど、さて、どうやってさがすかね」


レキはクラモリと話した後何も考えずに街に飛び出した。とにかくクウに会いたい一心で。しかしそれはあまりに無計画だった。


「こんなことならクラモリに街を案内してもらえばよかった。」

レキは少し後悔しながら街を探索する。なるほど、この街もグリの街と同じような建物が並んでいて、商店街がある。カフェもあるし洋服屋も雑貨屋もあった。

そして街の中心街に行くとグリの街にもあった噴水のある広場があった。同じだ。全く同じ。グリの街と同じ形の噴水だ。

「あれは、前にもあった。おんなじだ。それにあまりグリの街と雰囲気が変わらないな」

そう言ってレキはまるで狐につつまれたように歩き回る。本当にここは壁の外なのか?灰羽のときにいた世界とほとんど変わらなかった。


しかし次の瞬間、レキは信じられないものを目の当たりにする。そう、ここがはっきりと壁の外だと認識できるものだった。


「あれは・・ワダチ」

そう、それは街の外に通じている汽車だった。灰羽になる前に、レキはこれに飛び込んで自分を捨てたことを思い出した。グリの街にはこの乗り物はなかった。しかしたしかにはっきりと、それを見たのだ。

生前にあった記憶はないものの、自分がそこに身を投げたことをはっきりと自覚した。そしてそれが原因で罪憑きとして生まれ、苦しんだことに。


「けれど、そんな私を彼女は、ラッカは救ってくれたんだ」

ラッカの事を思い出すレキ。巣立つ事が出来ずに人々から忘れられてしまう存在になるかもしれなかった自分。そしてそれから救われたいがためにいい灰羽を目指し、彼女に優しく振る舞った。そして最後にその彼女から救われた。


レキは、汽車を見るなり、そこで自分を捨てた恐怖と、そこから自分を救ってくれたラッカに対する感謝の気持ちが交錯した。そして再びラッカに会える日を強く望んだ。


そうすると、汽車の一室から車掌が降りてきた。車掌はレキに気づき、そばにやってきて話しかけてきた。

「珍しいな。この街に白羽がいるとは。ああ、まだ新しくきたばかりかい?それとも一時的に戻ってきた感じかな?それとも今から旅立ちかい?」


車掌はレキにそう尋ねる。レキはこの世界のことはまるで知らなかったので、言っていることがよく分からなかった。


「あ、すみません。じつは今日、こちらの世界にやってきたばかりで」


「ああ、そうなのか。珍しいなとは思ったよ。今は街を探索中かな?」


「あ、いえ、同じ灰羽、いえ、白羽の女の子を探しているんですが。ご存知ないですか?」


この世界では灰羽ではなくシロバネと呼ぶという事を初めて知ったレキ。白羽が珍しいならクウも簡単に探せるかもしれない。そう思いレキは尋ねた。


「小さい女の子の白羽?ちょっと僕は汽車の車掌だからあんまりこの街に詳しくないからわからないなあ。ごめんね。連盟に聞けば詳しい事教えてもらえるんじゃないかな」


「連盟?灰羽連盟ですか?」


「ああ、グリの街ではそう呼ぶらしいね。フラの街では白羽連盟っていうんだよ。そのままだけどね。トーガに会ったことはあるだろう?トーガはもともとこっちの街の連盟の人だからね」


なるほど。だんだんこの世界の事がわかって来た。


「フラの街?ここの街はそういう名前なのですか?」


「うん。グリの街と姉妹都市だよ。灰羽が生まれるようになるまでは壁もトーガも連盟もなかったから街の人たちも仲良く交流してたもんさ。グリの街の構造はこのフラの街を模倣して作られたんだ」


そうか。ここはグリの街と姉妹都市なのか。道理で街並みも雰囲気も似ているなと思ってた。


「グリの街に詳しいんなら大体わかるよね。来たばかりならまずは連盟に行って色々手続きを先に済ませた方がいいと思うよ。それじゃあ仕事があるからまたね。汽車に乗るときはいつでも来なよ」


そう言って車掌は汽車の中に入っていった。随分と親切な人だ。街の歴史や連盟のこと、壁についてなど詳しく教えてくれた。


「まあとりあえず連盟に行ってクウのことを聞いてみるか」


そう思い、レキはまた街の中央広場に戻って行った。


「グリの街と変わらないならここから連盟は遠くないな。けど、一人で行って大丈夫だろうか?それに位置も本当に前の時と変わらないんだろうか?」


そうレキが考え込んでいると、どこかでみたことのある、懐かしい顔ぶれの少女が一人猫と戯れていた。


金髪でおかっぱ、少し背が低くて、明るく天真爛漫な振る舞い。そして背中には巣立った証としてのきれいな白羽がそれが彼女の探していた人物であることを物語っていた。


「クウ・・・。」


巣立ちを迎えてから、クラモリに続きレキは再びオールドホームの灰羽の一員に再会した。