番外編 『青羽連盟』

港町トトに着いたラッカとレキ。そこでフラの街にもあった異種族管理事務局を訪れた

 

「はじめまして。フラの街から新しく来た白羽のラッカとレキといいます。すみません、クラモリという白羽を探しているのですが、心当たりありませんか?」


「ああ、クラモリさんね。彼女はこの街にいるけれど、離れの離島に住んでるんだよ。ここからだと船で半日はかかるけど、もう今日は船はないなあ、ごめんね。明日の朝になったら船があるから、また明日来てください。新しく来た白羽なら宿は無償で貸してあげれるからさ」

 

事務の人にそういわれ外に出る二人。そして船着場から海を眺めた。

 

ラッカは目を瞑り、両手を広げて風を感じた。これが海か。そしてこれが潮の香り

 

「グリの街にいたときに、クウに教えてもらった。鼻がツンとしたら冬の始まりって言われたけど、ここは冬なのに夏の気候みたい。あったかいね」

 

「ああ、港町、海の近場っていうのはそうらしいね。暖かい気候なんだとか」

 

二人が海を眺めていると、遠くに島が見えた。あそこがクラモリさんのいる島か。ただこの港からは少し遠いらしく、霞んで見えた

 

 

ラッカが遠くにある島を眺めていると、レキはふと近くにある孤島に気づく。ずいぶんと小さな島だ。クラモリのいる島よりはるか近くにあるが、船などは出ていないようだった

 

「すみません、あの島には船は出ていないのですか?」

 

なぜかその島が引っかかりレキは船着場に行き、尋ねた。そうすると船守が二人をみてこう答えた

 

「ああ、あそこは聖域の島だね。立ち入り禁止だよ。といってもここからは絶対に入れないけどね」

 

「聖域の島?立ち入りができないのですか?無人島ですか?」

 

無人島だけどさ、それよりも昔からあそこの島を回っている海流があまりにも早すぎて大型船でもない限り入れやしないよ。小型の船だと戻されてしまうさ。大型船でも相当なリスクを背負わないと入れないし、過去に入島した人はいたみたいだけど何もない島だったからあそこに行く人なんてまずいないさ。小型の船で行こうとして流されて帰れなくなった人がいてから危険だからあそこの海域には近づかないよう禁止条例がでたのさ」

 

「そうなんですか。ではもうずっとあそこの島には立ち入った人はいないのですか?」

 

「そうだね。ここからだとわからないけどあの近くは海流が早すぎて命の危険すらあるから絶対に近づかないように言われてるよ。魚ですら流されるくらい強いからね。あそこにいける唯一の存在は鳥くらいかな?」

 

「鳥・・・。」

 

レキは鳥という言葉に反応した。港から島を眺めているとウミネコが海を渡り、島に着陸していた。ウミネコ、白い鳥。ああ、そうだ海辺の鳥だ

 

その日二人はトトの街の宿屋に泊まった。明日は朝一で船に乗り、クラモリのいる離れ島に行く。もう切符を買ってしまったのだ

 

夜中になり、ラッカが目を覚ますとレキがいない。どこにいったのだろう?ただラッカはなんとなく察していた

 

宿を出て船着場へ行く。やはりレキが一人で立って海を眺めていた。その日は月が出ていて綺麗な夜だった。月明かりのに照らされ、レキの白い羽はキラキラと輝いていた。

 

「レキ」

 

ラッカはレキに話しかける。レキはくるりと振り返り、ラッカを見てこういった。

 

「ああ、ラッカ、起きてたんだね。ごめんね一人で抜けてきちゃって。昼間さ、あの島のこと立ち入り禁止っって言ってたでしょ?それでさ、あの海を越えることのできる唯一の存在は鳥だって」

 

「うん、そうだね。レキ、どうしてもあの島が気になるんでしょ?あの島に行くの?」

 

ラッカがそう聞くとレキはこくりとうなずいて自分の羽を優しく撫でた

 

「ラッカ、灰羽だった時を覚えてる?グリの街の壁を越えた時」

 

「うん、覚えてるよ。鳥は唯一壁を越えれる存在だってカナが言ってたもんね」

 

レキとラッカは互いに目を合わせるとにっこりと微笑みあった。そしてグリの街で壁を越えた時と同じように羽を広げた。大海原を二人の白羽が飛び立っていった

 

二人は島にたどり着くと、不安で仕方なかった。無人島なので当然ながら明かりもなければ人もいない。真っ暗な夜の孤島で月明かりだけが頼みの綱だった

 

ただ、レキはなんとなく感じ取っていた。ここには人はいないが何かがある。そしてこの島に入れるのは人間ではなく、今のレキとラッカのような白羽、つまり「異種族」であるということに


島の内部に入っていくと、なにやらあかりが見えた。森の木々の中から漏れている明かりを目指して二人は進んだ。そして明かりが突然閃光を放ち、二人はその光に飲み込まれた

 

 

 

 

 


気がつくと、二人は見たこともない部屋のベットで目が覚めた。その部屋は全体が青と白でできていてトトの街の宿と同じような作りをしていた

 

「えとここは?」


二人は顔を見せ合い、無事であることに気づいた。どうやらあの孤島の森の中にあった光に飲み込まれて気を失ってしまったようだ。そして二人はなんとなく気付いていた。ここは元いた世界ではないということに

 

ガチャリと扉が開き、人が入ってきた。いや、人ではない。二人はそれを直感で感じ取っていたが、見た目でもそれはわかった


「どうやら目が覚めたみたいだな。久しぶりの来客だ。よく来たね。いらっしゃい」


「え?カナ?」


ラッカはその話しかけてきた人を見てそう言った。カナに少し似ている。けど違う。カナより髪が短いし、男の子だ。そして髪の毛と目の色、そして生えている羽が、青い?


「ははは、誰だよカナって。ごめんごめん驚かせたかな。はじめまして、俺の名前はコバルト。君たち、向こうの世界から来たんだろ?」

 

「向こうの?世界?」

 

「そ、向こうは人間界。こっちは魔界って感じかな。つまりは異世界ってやつ?俺はこっちの世界の魔族みたいなもんさ」

 

二人はその青年の説明に状況が掴めなかった。つまり元いた世界。トトの街やフラの街のある世界でなく、まったく違う空間に来てしまったということか?

 

「ああ、そうなんだ。はじめまして。私の名前はレキ。そしてこっちはラッカ。あたしたちは」


灰羽、だろ?」

 

 

レキが説明をしかけたとき、コバルトは割って入った。灰羽?今は白羽だが、この人は灰羽のことをしっているのか?

 

「はい、あなた、灰羽を知っているの?」


「ああ、うん。こっちの世界では都市伝説みたいなもんさ。閉鎖空間に閉じ込められた白くも黒くもない、灰色の街にいる不思議な力を持った灰羽の話をね。」


「そして壁を越えると羽が白くなって白羽となる。君たち今は白羽だね。この世界にこれたのも君たちが人間ではなく不思議な力を持った異種族だからさ」

 

この青年はどうやら灰羽についても白羽についてもよく熟知しているようだった。この世界のことはまだなにもわからないが、二人はなんとなくここが危険な場所ではないと察知はしていた

 

「ま、とりあえず話をするのもなんだし、お茶でも飲みな。君たちのためにせっかく入れておいたからさ」

 

コバルトがそういうとティーポットとお茶が用意されていた。それは青と白でできていてとても綺麗だった

 

レキはポットからお茶を注ぐとその色の驚いた。青い!青い色の液体がティーカップに注がれているのだ

 

「ああ、驚かせちゃったかな。それはバタフライピーっていう名前のお茶さ、この街で一番取れる名産物なんだ。みんな好んでのんでるだよ」

 

「ここは本当に青いものが多いんですね。あなたは灰羽のことも白羽のことを知っているようですが、あなたのその羽、青色ですよね?あなたは一体何者なんですか?」


「俺も、君たちと同じく転生者さ、元は人間だったんだよ」

 

「テンセイ・・・」

 

転生という言葉を聞いた二人。そういえばなんとなく微かに、自分たちが灰羽になる前の記憶がある。自分たちがどうやって灰羽となったのかも

 

「夢に出てきた内容で名前を決めるんだろ?確かそう聞いたことがあるよ。まあ、俺たちは色の名前で名前を決めるんだけどな」

 

コバルトがそういうと、自分の子羽を一つ取って二人に見せた。真っ青な羽。そして暗めの青だった

 

「な?色がコバルトブルーだろ?だから俺の名前はコバルト。あんたたちの羽の色、ピュアホワイトだな。うちにいるやつと同じ色だ」

 

コバルトがそういうとガチャリと扉が開き、また誰かが入ってきた。それは目も髪も全身真っ白でラッカと同じ年齢くらいの少女だった

 

「あ、おはよう。目が覚めたみたいだね。いらっしゃい。」

 

二人はその少女をみて驚いた。全身が真っ白だけど、コバルトや自分たちと違って羽が生えてない。人間なのか?

 

「あ、どうもはじめまして。コバルトから話は聞いてると思いますが、私の名前はピュア。この街にいる唯一の白魔族です。あなたたちは人間界からきた、別の異種属で魔族ではないですよね。でもこちらへ来たのも何かのご縁ですから、どうぞゆっくりしていってください」

 

自身で人間ではない、自分は魔族だと言っている時点で二人はなんとなく事情があると察し、それ以上はなにも聞かなかった。そして次の瞬間、また扉が空いて誰かが入ってきた


「あ、どうもどうも。お目覚めされましたか、どうぞごゆっくりしていってくださいませ」

 

「ね、猫?」

 

青い、いや全身水色をし、腹の部分だけ白い猫が白いハット被り、白い靴と白いマントを携え、ステッキを持もち、帽子を取って叮嚀にお辞儀をするとそう言った。背丈はまったく普通の猫と変わらないのだが、二足歩行で立って歩いている。

 

「どうもはじめまして。わたくし、ライト・ブルー・キャットと申します。本来LBCと言うものですが、この青魔族の中でライトブルーであるのはわたくしだけですのでどうぞライトとお呼びくださいませ」

 

二人は礼儀正しい猫を見て驚いた。猫が喋っただけでなく、ここまできちんと挨拶できるとは。きっと上流階級で育てられた猫に違いない

 

(猫が喋ってる。きっとクウが見たら喜ぶだろうな。なんか変なの)

 

その後ラッカとレキは二人と一匹に連れられ街にでた。全体が白と青でできた颯爽とした街だった。空には白い雲と青い空。海辺の近くということで海は真っ青で街の建物は白と青。そして街にいるのは人間ではなく、ドラゴンやウルフや鳥族といった魔族だった


「ここは、ファンタジーの世界?グリの街でネム読んでた書物にそっくり。けど、普通は異種族は異種族同士で集まって暮らしているものだけど」

 

「ここは青の聖域の街というか島だからね。青魔族っていう魔族のエリアなのさ。こっちの世界は君たちのいる世界で読んだお伽話とは違い、色によって分かれているのさ」

 

「え?それはどういうことですか?」

 

「ドラゴンはドラゴン、ウルフはウルフ、ミノタウロスミノタウロス、みたいに同じ種族同士で固まっている訳ではなく、「色」で暮らしているってことだよ。だから外には違う色のドラゴンやミノタウロスがいるよ」

 

「ちなみにライトは獣族の獣人。ピュアは悪魔族。俺は鳥族さ。」

 

 

「ここは青の世界でさ、違う色の魔族は暮らしてはいけないことになっているんだよ。けれど唯一どの世界も行き来できるのは「白」の力を持った魔族だけ。だからピュアはここにいるのさ。白魔族はもう昔に滅んだんだけどね」

 

「君たちがこの世界に来れたのは、きっと「白」の恩恵だろう。白い羽をもつ白の力を持った人間ではない種族が稀にこの世界に来ることがあるのさ」

 

コバルトがそういうと、レキは少し俯きながらこう返した

 

「私、私はこの世界にきてなにがしたかったのだろう。ただ、なんとなく、人間にはいけない、私たち白羽しか入ることのできない聖域に何かに吸い寄せられるように私とラッカは来た。コバルト、あなたが私たちを引き寄せたの?それだったらそれは何のために?」

 

「君たちがこの世界にきたのは偶然か必然か、それはまあいい。けど一つ言えることはさ、俺は君たちに会えて嬉しかった。白羽は幸せの象徴だ。そしてもともと人間だったことも知ってる。俺も同じ。元は人間だった。そしてこの世界に転生してきた。「青」の羽を持つ異種族として。けどもし俺が君たちの世界にこの姿で転生することができたらさ、きっと『青羽連盟』が生まれていただろうね」

 

「けど、私はこの世界に来るつもりはなかった。私たちは元の世界に帰らなくちゃいけない。行かなくちゃいけないところがあるんだ」

 

レキがそういうとラッカはレキの手をそっと握った。レキ、ここの世界が怖いわけではない。しかし行かなくてはいけない場所があるのに、ここにいつまでいることになるのだろうかと少し不安になっていた

 

「そうだね。レキ、ラッカ。君たちは君たちのいる世界に帰らなくちゃいけない。あんまりここに長く滞在はできないね。じゃあさ、元の世界に送り返してあげる。この世界のこと、誰も信じないだろうけど人間には内緒な。まあ人間には来れない場所だけどさ」

 

「ラッカ、レキ、短い間だったけどありがとう。白羽に会えてうれしかった。またいつか会えたらよろしくね」

 

「うむ。わたくしも楽しかったです。ではではお達者で」


二人とと一匹がそういうとこの世界に来た時と同じ光がピュアの手から放たれた。ラッカとレキはここに来た時と同じように気を失った


二人が気がつくと、そこは元にいた宿屋だった。二人は同時に目を覚まし、外にでた

 

外に出ると世が開けて朝になっていた。時間を見ると8時を回っている。では夜から二人は朝まで眠っていたことになる


「なんかさ、狐につつまれたような感じだね。あの世界は夢だったのかな?」

 

宿屋の主人に聞いてみても夜に宿から誰も抜け出した痕跡もないと言っていた。では二人は外にでて島に飛んで行かなかったということになる

 

それから二人はまた同じように船着場から島に羽を使って飛ぼうとしたが飛ぶことはできなかった。どうやら必要な時以外、羽は機能しないようだった

 

「全部、夢だったのかなあ?あの喋る猫も。真っ白な女の子も。そして青い羽を持ったあの人も」


「あれ?ラッカ?羽が?」

 

レキがラッカの羽の異変に気づく。白い羽の中に一枚だけ、違う色の羽が混ざっていたのだ。そしてそれはレキにもあった

 

レキがその羽を引き抜くとそれは青い羽だった。そして絵を描いていた経験から、これは塗ったり染めたのではなく、元からこの色の羽として生えてきたことになっていると言うことに気付いていた


「やっぱり夢じゃなかったんだね。また、いつか会えるかもね」

 


二人は朝食を食べ終え、予約した時間の船に乗った。クラモリのいる離島に向けて出発した。あの「青」の世界は何だったのか?あの青い羽をした青年にはまた会えるのか?そんなことを考えながら二人はその場を後にした