番外編 クウのとなりのトトロ

 

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ガタンガタン

クウとヒカリを乗せた列車は北の方角に向かって動く

「あーあ、とうとうみんなともお別れだね。ねえねえ、これから行く街ってグリとかフラの街よりずっと寒いんでしょ?今はまだ夏だからあんまり気にしてないけど、冬に備えなくっちゃね」

 

「うーん、そうね。それよりあたしたちちゃんと職場見つかるかしら。ちょっと不安」

 

クウのわくわくをよそにヒカリは職場の心配をする。これから二人で街に行って新しい環境で生活をしていかなくてはならないのだが、この二人で大丈夫だろうか?

 

クウがどうも列車に馴染めないようでソワソワしながら窓の外を見ていた。グリの街では見れない外の広大な景色がクウの心をくすぐった。早く新しい街に行って色々なものを見てみたい。そんなことを考えてながら列車に乗っていると、突然列車がストップした

 

キキーという音と共に列車は止まる。どうやらなにか不慮の事故が起きたようだ

 

ガヤガヤしながら乗客が出てくる。どうやら路線上に何か障害物があり、それに接触してしまったようで急遽列車は止まることとなったのだ

 

「乗客の皆さま、申し訳ございません。不慮の事故がありまして、等列車は再開の目処を見合わせております。損傷が激しいので、今日中にの再開は厳しいでしょう。ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」

 

車掌がでてきて乗客に挨拶をする。これから行く街とフラの街とのちょうど中間地点に投げ出された二人。どうやら列車がとまった場所はかなりの田舎で一番近くの村は歩いて何キロもかかるようだ

 

ガヤガヤと乗客が降りて村へ向う。当然二人も後に続くのだが、クウが列車の前から動こうとしない。どうしたのだろう?

 

「クウ、どうしたの?今日はもう列車は動かないみたいだからあたしたちも早くいきましょ。もたもたしてるとすぐに夜になっちゃうわよ」


「んー、ヒカリ、ここの路線の周りの中にある森さ、なんか不思議な感じしない?なんとなく。なんかあるよ」

 

クウが何か奇妙なものを感じ取った。もちろんヒカリもそれを感じていた。人間ではない二人にはわかる。なにか、森の中になにかあると

 

ヒカリは反対したが、クウがどうしても行くと行って聞かないので森の中に入った。そして二人が感じ取っていた不思議な違和感の場所に、何やらもやのようなものが見える。クウはそれに気づき。そのもやに一目散にかけて行った

 

「ちょっとクウ!大丈夫?なにあの白いもや?煙じゃないし、あたしなんか怖いわ!」

 

「平気平気!二人で入れば怖くないよ。とりあえずあそこになにかある!行ってみよう」

 

クウはそう言ってその中に飛び込んだ。ヒカリもあとに続いて中に入った。そしてそのもやを抜けると、同じように森が広がっていたのだが、なんと辺りは急に真っ暗になった

 

「な、なにここ?え?真っ暗?さっきまで昼だったのに?どういうこと!?」

 

もやを抜けた先の世界は真夜中だった。ヒカリはそれに驚き、ただ怖がった。クウは大はしゃぎでその夜の森を駆け回った


「すごーい!いきなり夜になった!わーい変なの!きっとさ、ここは違う世界なんだよ。だってほら!あそこみて!」

 

ヒカリの不安とは対照的にクウは楽しそうだ。グリの街から巣立った時のように、違う世界に来れたことが楽しくてたまらなかった。

 

「はあ、クウはいいよね、能天気で。ほんと子供ねー。ん?あれ、明かりが見えるね、それに家?なんか変わった家ね」

 

「フラの街とかさ、あっちの方にはあんな形の家なかったでしょ?ひとつだけぽつんとしてる。とりあえずあそこ行ってみようよ。」

 

ヒカリの心配をよそにクウは一目散に光の見える家にかけてゆく。ヒカリはおそるおそるクウについていく。クウは怖くないのだろうか?

 

その平家のような家に着く二人。書斎があり、眼鏡をかけた男性が明かりの中で何か書き物をしていた


「こんばんはー!すみません、あたしたち道に迷っちゃって。ええと、ここはどこなんでしょうか?」

 

クウが中にいた男性に声をかける。男性はびっくりしてクウの方をみる。羽の生えた二人の少女が突然夜中に話しかけてきた。


「ああ、こんばんは。いらっしゃい。二人はどこからきたのかな?村の子かな?んー、その羽、結構不思議な感じだね。」

 

考古学者であるタツオは白羽である二人から何かを感じ取った。この二人はこの世界の住人ではない。どこか違う世界から来たのだろう。そしてこの世界にいる守神ともまた何か違う存在であると。

 

「はい、あたしクウっていいいます!こっちはヒカリ!あたしたち森を歩いてたら迷っちゃって。とりあえずここに来たんです。もう少ししたら戻らなくちゃいけないんですけどよかったら少しだけここにいてもいいですか?」

 

「え?ちょっとクウ!いきなり図々しいじゃない!あーすみません、この子ちょっとこういう性格でして」

 

クウとヒカリがそう言って話すとタツオはにっこりと笑いこう答えた

 

「いえいえ、お構いなく。奥で子供たちが寝ているからあまり大きな音はたてれないけど、よかったらゆっくりしていってね


タツオがそういうとヒカリとクウは部屋に上がり込んだ。タツオは書くのをやめ、二人にお茶を出した。二人はお茶を飲むと少し気分が落ち着いた

 

クウとヒカリはフラの街や白羽のことは一切話さなかった。ただ道に迷ったということだけを話してもう少ししたらここから出ていくということだけを話した。タツオも何か事情があるのだろうと思い、それを感じとって必要以上のことは聞かなかった

 

「ねえ、おじさん子供がいるんだよね?奥の部屋にいるの?あたしあってみたい」

 

「ああ、もうクウ!こんな夜遅くに失礼よ。流石に失礼じゃない!起こしたらまずいって」

 

「ああ、いいよいいよ。大きい方がサツキ、小さい方がメイって言うんだけど子供たちも二人を見たら飛び起きて喜ぶかもね。まあ、あんまり気持ちよさそうに眠っていたら起こすのはやめてあげてね」

 

タツオがそういうとクウは一目散にサツキとメイの寝ている部屋にかけていった。ヒカリはなんとなく不安に駆られクウに続いた。しかし奥の部屋に行っても布団から起きた跡があり、誰もいない

 

「あれえ、あのおじさん子供がいるって言ったのに誰もいない。」

 

「ホントねえ。こんな夜中にどこかにいったのかしら?」

 

二人が首を傾げていると外に何かいるのを感じ取り、庭へ目をやった。そこにはサツキとメイがパジャマで裸足のまま柵の周りを回っていた

 

「あ、きっとあの子たちがさっきのおじさんの子供ね。一人はクウより少し小さい子で。もう一人はダイやハナよりもっと小さい子ね。それにしてもあんなところで二人だけでなにをやってるのかしら?こんな夜中に」

 

ヒカリが二人に気付いて目をやる。クウはなには話さずただじっとその様子を眺めていた


「クウ?どうしたの?あの二人が何かやってるのか、わかるの?」

 

「え?そうじゃなくて、あの子たちと一緒に回ってるの、あれ?なんだろう?タヌキかな?それにしては大きすぎるし、ミミズクにも見えるよね」

 

クウがそういうとヒカリはさらに首を傾げた。クウは一体なにを言っているのか?タヌキ?ミミズク?そんなのがどこにいるというのか?


「なに言ってるの?クウ。そんなのどこにもいないじゃない。ただあの子たちが柵の周りを回ってるだけでしょ?あれ何かのおまじないなのかな?まあこの世界もよくわからない世界だけど、変わった子たちよね」

 

「え?なんか灰色の大きいのと青色の小さいのと白のすごく小さいのといるじゃん?あれ、こっちの世界にしかいない珍しい動物かな?」

 

クウのいうことの意味がヒカリにはさっぱりわからない。一体クウは何を言っているのか?そんなのどこにもいない。ただサツキとメイが柵を回っているだけだ

 

「ねえ、クウ。あたしちょっとさっきのおじさんに聞きたいことがあるから戻るね。とりあえずここに長くいるわけにもいかないし。あの子たちが二人だけで一体何やってるかもよくわからないし。」

 

そういうとヒカリはタツオの書斎に戻っていった。そしてその時クウは何かに気づいた

 

(ヒカリには見えないんだ)

 

そう、あの三匹の不思議な生き物はクウには見えている。そしてあの子たちにも見えている。けどヒカリには見えていない。その時気づいた。人間だから見える。白羽だから見えないわけではない。あれはきっと

 

クウは何かを悟ると一目散にそこへかけて行った。そしてサツキとメイ、そしてあの不思議な三匹のの近くまで行くとこう言った

 

「ねーねー、何してるの?」

 

クウの声に気づいたサツキとメイ。そしてあの三匹の不思議な動物。灰色の一番でかいのが声のする方へと目を向けるとクウと目があった

 

クウはその不思議な生き物と目が合うと何かを感じ取った。ああ、これはこの世界にしかいない、動物ではない。何か不思議な力を持ったこの世界の守神だと

 

「あれー、あの人羽が生えてる!へんなのー!」

 

「あ、ホントだ。って、メイ、いきなりそんなこと言ったら失礼でしょ!こんばんは。はじめまして。あたしはサツキ。で、こっちがメイ。あなたは誰?」

 

「はじめまして!あたしの名前はクウ!君たちがサツキとメイだね!お父さんから聞いてるよ!で、えっとそこにいる、大きいのは?」

 

クウにそう言われて驚くサツキ。突然背中から羽の生えた自分より少し年上の人がトトロを見てそう言った。えと、この人にはトトロ、見えてるの?

 

「これねー、トトロって言うんだって!今、トトロが何かやってるからあたしたちも見にきたんだ!クウも一緒にやろうよ!」

 

「うん!いいよ!やろやろ!」

 

メイの誘いに大喜びでのるクウ。次の瞬間、トトロが手に持っている傘を高々と上げると柵で仕切られている土から芽が飛び出した

 

「わあー」

 

サツキとメイが驚いてその芽に目を向ける。そして灰色のトトロがさらに手を高々と上げるといくつもの芽が土から芽吹く

 

「わあー、すごい、すごい力を持ってるね」

 

サツキとメイとトトロと一緒に合わせてクウも高々と手をあげる。伸びろ、伸びろもっと伸びろ、天まで届くくらいに

 

そう願いを込めるとぐんぐん芽は成長して大きな大木になった。明かりのある書斎ではタツオとヒカリが何かに気付いてこちらを見る。けどタツオは気にせずそのまま書き物をし、ヒカリも本を読み続けた。

 

大木になってサツキとメイは大喜び。クウも一緒になって喜ぶ。すごい、あんな小さかった芽が大きな大木になったようだ。そして次の瞬間、大きなトトロがどこからか駒を出すとそれを回した。そしてかなりの回転度で回ると宙に浮かび、その上にトトロが乗った

 

青色と白い小さなトトロは大きなトトロの胸のあたりに飛びついてそれにのる。メイもうれしがってお腹の部分に飛びついた。サツキも恐る恐る一緒になって飛びつく

 

「ほらほら、クウもおいでよ!」

 

メイがクウに一緒に抱きつくように促す。クウはトトロと目が合うと何かを悟ったように首を振る

 

「んーん、あたしは平気。このまま風になって空を飛ぶんでしょ。大丈夫。あたしもそれ、できるから」

 

トトロは何かを悟ったのかそのまま空へと高く高く昇っていった。クウも自分の背中に生えている羽を使って空を飛んだ。空を飛ぶのは、グリの町から壁を越えた時以来だ。気持ちいい。スイスイと空をかけて行った

 

「メイ!私達風になってる!」

 

「うん、お姉ちゃん!それにわあーすごい!クウも一緒に飛べるんだね!驚いちゃった!」

 

「うん、二人は今風になってるけど、あたしは鳥になれるんだ!だから一緒に空の旅ができるね!」

 

三匹と何人はその夜、どこまでも空へと駆けていった。そしてひと段落すると、大きな大木の上に座り、そこでオカリナを吹いた

 

クウも一緒になってオカリナを吹く。自分が今何をしているのか理解できていなかったがただ幸せだった。半月のでている月夜の夜に、二人の子供と三匹の森の守神と一緒にオカリナを吹いた

 

その後、トトロはサツキとメイを木から下ろしたが、二人がそのまま眠ってしまったのでそっと寝床まで運んだ。クウはまだ起きていた。言葉は通じなかったが、何かこの生き物と通じるものがあった

 

「二人とも寝ちゃったね。そういえばはじめまして。あたしはクウ。ここじゃない違う場所からヒカリときたんだけど、トトロは二人の守神かな?」

 

クウがそう話しかけるがトトロはなにも言わずただにっこりと笑っていた。そして次の瞬間、大きく声を上げるとどこからともなくさらに大きな動物が一目散でこちらに向かってきた

 

「なにあれ?でーっかいねこ??」

 

ネコバスがそこに到着するとクウの方を見てにっこりと微笑んだ。クウはその迫力に呆気に取られていたが、とても嬉しくなった

 

「うわーでーっかいー!」

 

ネコバスの横の部分が開くとそこにトトロは乗り込んだ。他の二匹もそれに続いた。そしてネコバスと三匹のトトロがクウを見て微笑むとクウは嬉しくなって手を振った

 

「バイバイ」

 

クウがそう言うとネコバスは物凄いスピードで山の奥へかけて行った。こちらの世界に来てからへんな生き物を四匹も見れた

 

一人になった後にクウは妙に眠気を感じた。そして家に戻るとタツオが書きかけの途中で眠っていて、ヒカリが見守っていた

 

「クウ!どこに行ってたの?こんな遅くに」

 

「へへー、内緒」

 

こちらの世界の住人にとって朝から起きていた分、ここは真夜中だったが、フラの街の世界の住人であった二人にとってまだ活動時間だったため、眠る時間ではなかった。とりあえず二人は元いた山の中へ入り、元の世界に戻った。


元の世界に戻ると、そのもやは消えていた。そしてやはり昼間になっていて相変わらず列車は運行を停止しているようで動かなかった。

 

「あーあ、もうどこかで宿を探して休まないとって、え?クウ!」

 

ヒカリがそう言うとクウは樹木の隙間に背もたれを落として眠ってしまった。疲れているのか?

 

「ちょっとクウ!こんなところで寝ないでよ!もう、あーどうしよう?今日中に列車動くのかなあ?」

 

二人が今ここにいる世界ではない別の世界に行ってきたことは事実。そしてあのへんないきものたちに出会ったのも事実。けどそれは向こうではタツオには見えなくてサツキとメイにしか、そしてこちらではヒカリには見えなくてクウにしかみえない生き物なのであったのだった