#17 秋口 ヒョウコ ラッカの想い
ラッカがフラの街に来てから数日が経った。
ラッカはシルバーホームに住むようになってから、本来ならカナが連盟からの斡旋で時計塔の仕事についたように、寺院の掃除の仕事に就く予定だった。しかしレキがこのような状態になってしまったことと、ネムが今まで仕事を休み、レキの介抱に忙しくなったことから、ラッカの保護者はクウだったが、ラッカもネムと同じくレキが回復するまでサポート役として面倒を見ることの許可が下りたのだった
ある日、ネムとラッカはレキを車椅子に乗せ、外に散歩に出た。季節はすっかり秋になっていて、クウも職場での賃貸の契約期間更新の時期になり、シルバーホームに同居していた
「レキ、大丈夫?」
ラッカが車椅子を押して外に出ながらレキに話しかける。レキは相変わらず何も話さなかったが、自傷行為ももうしなくなっていた。ただどこか遠い夢を見ているよな表情をいつも浮かべていた
「ラッカが来てくれて助かったよ。あたしとカナ二人でいつも観てたから大変だった。時々クウが来てくれたのがすごく助かったんだけど、そういえばこなくなったやつがいるよのね」
「え?もう一人誰かいたの?」
ラッカが不思議そうにネムに問いかける。
「うん、レキがさ、こうなっちゃったのはクラモリがいなくなってからだって話はしたよね。自傷行為するまえは元気が無くなってっただけで普通に仕事にも行ってたんだけど、その時レキを止めてくれて、お見舞いにもきてくれてたんだけど・・。」
ネムがそう話していると、向かいから一人の男性がこちらに向かって歩いてきた
「あ、ヒョウコ!」
「え?ヒョコさん?」
そう、それはヒョウコだった。噂をすれば影。ちょうど今ネムが話していた本人とばったり出会ってしまった。ラッカは壁を越えて以来、会うのは初めてだった
「おう、ネム。あ、えーとそれにボロ屋敷の癖っ毛の、えーとラッカっていったかな?久しぶりだな。もうこっちにきたのか。」
「あ、こんにちは。お久しぶりです」
ラッカはぺこりとお辞儀をして挨拶をする。ネムは引いていた車椅子の手をガタガタと震わせ下唇を噛んでいた。らっかにとって、ネムが怒りをあらわにしているのがわかった
「ヒョウコ!どうしてもうこなくなっちゃったの?レキが以前よりずっと酷くなってこんなになっちゃってるんだよ?以前はきてくれたでしょ!?あなたは、あなたはレキが心配じゃないの!?」
ネムがとても強い口調でヒョウコに言葉をぶつける。ヒョウコは帽子のつばを深く被り、こちらを見ようとしない。そして次の瞬間口を開いた
「ネム、すまなかった。俺はレキがこうなったことは悲しい。けど、本当はこの事実を受け入れられなかった。もうレキは元に戻らないんじゃないかってずっと思ってた。それに・・・。」
ヒョウコはつばを深くかぶり涙ぐんだような口調でこう話す
「俺はもうレキにしてやれることはなにもないんだよ。あとはお前たちの問題だ。ここは壁の外だけど、もう俺はレキに何もしてやれない」
「そんなことない!」
ラッカが言い返す
「レキだって、ヒョウコさんが来てくれたら嬉しいよ!ヒョウコさんが一緒に頑張って支えてくれたら元に戻るかもしれない。だから、そんなこと言わないで一緒にレキを救う方法を考えてよ!またあの時みたいに!」
ラッカは壁の中でミドリとヒョウコがレキの手助けをしてくれたのを思い出した。そして最後の最後にヒョウコとミドリにレモンのスフレでお返ししたことも
「あの時はあの時さ、今は違う。とにかくもう俺はダメなんだ!」
そう言ってヒョウコはそのままきた道を戻って走り去っていった。ラッカは慌ててヒョウコの後を追った。
「ラッカ!」
「ネム、ごめん、レキのことよろしく!私、ヒョウコさんと話してくる!」
ラッカはそう言ってネムにレキを託すと一目散に逃げていくヒョウコを追いかけた。晴れた秋の日の日中、ラッカはただヒョウコと話がしたくて必死だった