エピローグ 1 その後

次の日、ラッカはいつもより早く目が覚めた。ネムもクウもカナもヒカリもまだよく眠っていて起きていない。あれ?レキがいない。たしかラッカはレキの一番近くで眠っていたはず

キッチンの方から、なにやら音が聞こえる。誰かが朝食を作っていた

「レキ?」

「ああ、ラッカ、目が覚めた?結構長い間さ、みんなになにもしてあげられなかったから、今日は私が作ろうと思ってさ」

「レキ・・。」

ラッカはレキのご飯を作っている姿をみてとても安心した。レキ、あの、オールドホームにいたときの姿と一緒。たしか最後に見たのはヒカリと一緒にレモンのスフレを作っていたっけ


「おはよー、二人とも早く起きたんだねって、レキが作ってるの?」


「ああ、カナ、おはよう。もう目が覚めた?早いね」


「うん、今日は年始だし、仕事は休みだから、ゆっくりしようとおもってるんだけど。ただま、まあたぶんね」


「え?なに?あっ、そうか」


そういえば昨日の夜、無断で時計塔の鐘を深夜に鳴らしてしまったことを思い出した。グリの街では年越しの鐘を鳴らす習慣があるが、こちらではたしかない。もう寝ている人もいただろうし、もしかしたら住民に多大な迷惑をかけてしまったのかもしれない


「まあ、レキのこともあるしさ、あとで連盟まで行ってみよう」


カナは自分で何をしでかしたのか、理解をしていた。しかし昨日はただただ夢中になっていて、何も考えていなかった。この先、なにか罰を受けるかもしれない


そしてネムとクウとヒカリも目が覚め、6人で食卓を囲んだ。この感じ、とても懐かしい。ああまた誰も欠けることなくこの6人で団欒を楽しめるとは


「とりあえずさ、レキが元に戻ったことはいいんだけど、連盟より先に病院に行って、検査してもらいましょう。先生も心配してたし、レキがどこもおかしくないかみてもらうことが先ね」


ネムがそう言ってレキを病院に連れて行くことを進める。年始でほとんどの機関は休暇をとっていたが、病院はやっていた


「じゃあさ、ラッカとネムでレキを病院まで連れ添ってよ。んでさあ、あたしは連盟に位あかなくちゃいけないから、あの、そのヒカリとクウ付き合ってくれるよね?」


時計塔の鐘を無断で鳴らしたことで、カナはもしかしたら職場を追放されるかもしれない、しかし理由をよく話せばわかってくれるかもしれない

「もちろんよカナ。だってカナのお陰でレキも助かったんだし、こうなったのは覚悟の上よ」


「うん!クウもカナに感謝してるー。カナ最後すっごく頑張ってくれたもんね。あたしとヒカリも頑張って一緒に謝るよ」


「みんな、ありがとう。私のために・・・。」


レキは五人がここまで自分のために四苦八苦してくれたことに大いに感謝をしていた。そしてここの場所こそが、自分にとって居場所なんだと再認識できた。自分はここにいていいのだと。それはかつてレキがラッカに言ったことだった


朝食を済ますと、レキとラッカとネムは病院へ、カナとヒカリとクウは連盟に向かった。それぞれ色々な複雑な思いはあったが、今はレキが元に戻ったことに歓喜を感じていた

 

病院に着き、レキの顔を見ると医者はとても驚いていた。全く反応を示さなかったレキがここまで普通に歩いてくるとは。色々な検査をすませると、体から全く異常がないことがわかり、もうどこも心配がないことを告げた

「元気になってよかった!あれから心配していたが、ここまでよくなってくれるとは。白羽には不思議な力があるのかもしれない。よかった!これで明日からちゃんと働けます!」

 

医者にそう言われ、診断書をもらい、働ける許可証を受け取ると3人はとても笑顔になり、帰路につく。ラッカもネムもレキがまったく問題なく帰れることにとても大きな喜びを感じていた

 

「レキ、元気になってよかったね!私、本当にうれしい!」

 

「うん、ラッカのおかげだよ!二人とも本当にありがとう」

 

「レキ、よかった。ラッカ、ありがとう。本当にラッカのおかげ」

 

そうやって3人が喜びながら家に着くと、とある二人組が家の前で待ち受けていた


「あ、ヒョコさん、ミドリさん」

 

家の前にはヒョウコとミドリが佇んでいた。どうやらレキの帰りを待っているかのようだった


「おお、レキ、よくなったんだってな。おめでとう。ま、色々心配したけど、やっぱりちゃんと元に戻ってよかったぜ」

 

「ああ、ヒョウコ、ありがとう。こっちでも色々迷惑かけたね。また助けてもらったりして、ありがとう。あの、そのえと」

 

「おい、ほら、ミドリ、お前からもなんか言えって。せっかくここまできたんだから」

 

ヒョウコがそういうと、ミドリはどうも恥ずかしそうに前に出てきて、手に持っていたものをレキに渡した。それは小さな紙箱だったが、中に何が入っているかは分からなかった

 

「えと?これは?」


「ピスタチオは何色でしょう?」


そういうとミドリはなにも言わずそのまま去っていった。

 

「お、おい!ミドリ!えーあと、すまん。とりあえず、レキ、元気になってよかった!退院ではないけど、おめでとうってそんな感じだよ。実はさ俺とミドリ、期限が切れたわけじゃないんだけど、もうこの街から出て行く約束しちゃってさ」


「え?それはどういうこと?」

 

ラッカがヒョウコに聞き返す


「街を出て行かなくちゃいけないのはある一定の期間が過ぎたらだろ?けど、俺たちさ、レキが元気になるのを最後に出て行きますから、それまでの期間はちゃんと働くし、レキと、その仲間に何かあったら俺たちが責任とりますからって連盟に約束しちゃったんだよな。だからもう多分あと数日で出て行かなきゃいけなくなるからさ」


「え?え?それって」


「列車の事故あっただろ?まあ、一応おれは壁の中でも前科持ちだし、こっちでも何があっても大した事ないから、まああんまり気にすんなって、ミドリは照れてるだけだからさ、じゃあな、レキ!ネムもラッカも元気でな!」


「ヒョウコ!」


そういうとヒョウコはミドリのあとを追いかけ行ってしまった。3人はそこに呆然として立ちすくんでいた。とりあえずシルバーホームに帰ると、ミドリから受け取った紙箱を開いた

 

「えと、これは?」

 

「ピスタチオのケーキね」

 

ネムが確認してそういう。綺麗な緑色のピスタチオのケーキが六つ入っていた

 

(ピスタチオは何色でしょう?)

 

3人はミドリの言葉を思い出した


「ミドリ、ヒョウコ、私のために、こんな・・・」

レキはあの二人の心遣いに深く感謝をし、涙を流した。壁の中でもあんなに無茶をしてくれたのに、外にまできてこんな

 

三人がそうやって過ごしていると、クウとカナとヒカリが帰ってきた。どうやら連盟での話が終わったようだった

 

「ただいまーって、あれ?ケーキあるじゃん!いいなーこれどうしたの?ねー食べようよ!」

 

クウが帰ってくるなり大喜びでケーキに食いつく。クウの性格からか、特に変わった様子はなかったようだ

 

「カナ、連盟に行ってきたのね。大丈夫だった?何かあった?」


「ああ、まあ一応やっぱりね、電車を止めたことと、深夜に鐘を勝手に鳴らしたことで一応処分しなくちゃいけないってことで注意はうけたよ。だけどさ、誰かが代わりに責任を取ってくれたみたいで、あたしたち、処分なしで済んだよ。それにさ」


「それに」


「なんかトーガがとっても親切にしてくれたの」


ヒカリが嬉しそうに答える

 

「レキに何かあったのは自分たちの責任だから、レキのことで問題を起こしたことは我々で処分を決めます。当然住民から苦情が出たことは事実ですが、ヒョウコとミドリが代わりにその処分をうけたいと行って街を出て行くそうです。まああの二人はもうレキが元気になったら出て行くことを決めていたようですし、特に問題はないでしょう。あとは我々が貴方達シルバーホームの白羽を責任を持って最後まで守りますので、どうぞこの街で暮らしてくださいって!」

 

「え?トーガが?」

 

ネムが不思議そうにその答えを受け取る

 

(トーガ、やっぱり、私達のこと、気にかけてくれてたんだ。なんだか、ルールばかり重信じてる人たちだと思ってたけど、優しい一面もあるのね)


こうして、この六人のフラの街での新しい生活が始まった。レキは依然と同じ、家政婦で働き、ラッカも寺院の掃除を
した。そしてあっという間に月日は流れ、再び冬がやってきた