#22 過ぎ越しの祭り 暗澹 願い

フラの街にも冬がやってきた


街全体が過ぎ越しの祭りのムードになって、あらゆる場所に鈴の実の市がたった。ラッカはちょうどこの時期にレキが巣立ちをしたのを思い出した


「今年ももう終わりだね。そういえばさ、去年はあたし、マスターと二人で越したけど、今年はみんなで越せるから嬉しい。みんながきたのって年を越してからだったからね」


クウがそう言って祭りのことを嬉しそうに話す。そういえば昨年は壁の中で五人で過ごしたっけ。


「レキ、レキ、覚えてる?あれからちょうど一年たったんだよ。あの時、レキが自分を捨てそうだったけどレキ、最後に助けてって言ってくれたね。私はあの約束を守るから。何があっても今度は私があなたを守るからね」


ラッカはそう言ってレキに話しかける。レキは何も反応を示さなかったが少し安堵のような表情を浮かべていた


「そういえばさ、過ぎ越しの祭りって壁の外にもあるんだね。グリの街だけだと思ってたけど」


カナがそう言うと一番最初に壁を越えたクウが答える


「うん、もちろんあるよ。だってグリの街はフラの街の姉妹都市だからね。あたしも最初に来た時は驚いたけど、まあそりゃそうかって思ったよ」


「そういえばさ、ラッカが来た年はクウはいなかったっけ。今度はヒカリがいないから過ぎ越しはまた五人か」


カナがそう言って少し残念そうにつぶやく。カナの中で六人一緒に入れた時間が一番楽しかった。クウがいなくなったときはどれだけ寂しかったか


「そうだね。私が来た時はみんないたから、私もあのメンバーで過ぎ越ししたかったな。いつか六人揃ってみんなでできるといいね。あけど来年はきっとヨミとヤミもいるから八人か」


ラッカがそう言って嬉しそうに嬉しそうに語る。ラッカにとってオールドホームの灰羽は家族同然。いや、家族そのものだった


そしてあくる日、とうとう祭りの日がやってきた。

 

みんなは各々に鈴の実を買うと祭りを楽しんだ。去年と違い、チビ達やヒカリはいなかったが、代わりにクウがいた。もし、チビ達がいたら、レキももう少しよくなっていただろうか?ラッカはそんな風に考えていた。


そしてラッカは車椅子でレキをひいていたが人混みの中で移動が大変だったので、家に連れて帰って安静にすることにした


「私、レキと一緒に家に戻るね。ちょっと、今の状態だとレキにここは辛いと思うから。」


ラッカがそういうと、みんなは少し心配になった。


「ラッカ一人で大丈夫?」


ネムは不安そうに尋ねる


「うん、ありがとうネム。私はまだ仕事していないから鈴の実を届ける人もいないし、ネムは色々いるでしょ?だから安心して祭りを楽しんで」


そういうとラッカはシルバーホームにレキを連れて帰っていった。ネムはなんとなく不安と気がかりがあったがラッカに任せることにした


ネム、大丈夫だよ。ラッカに任せよう。レキもきっとよくなるよ」


カナがネムにそう言って語りかける。今はこれがカナにできる気配りだった。クウは相変わらず一人で楽しそうにしていたが、それはネムの不安を取り除くために振舞っていたのかもしれない


シルバーホームに帰って、明かりをつけると、ラッカは椅子にもたれかかった。そしてがっくりとうなだれ、一人で考え込んでしまった


「レキ、どうしたらよくなるのかな?それともずっとこのままなのかな?あたしに何かできることはないのかな?」


ラッカはレキを見つめながらそう考えていたが、レキは相変わらず無表情だった。いつまでこの状態が続くのか


そう言ってラッカがレキの身の回りの世話をしていると、あっという間に夜になった。そして鐘の音が鳴り、いよいよ本番が始まったようだ


「過ぎ越しの祭りが始まった。みんな、無事に渡せたんだろうか?私は、私は今、何をすればいいんだろう?」


ラッカが一人で考え込んでいると、入口の方から扉が開く音がした


「誰?」


ラッカが驚き、入口の方を見ると、そこにはネムがいた。さっき鐘の音が鳴ったばかりなのに、こんなに早く帰ってきたのか


ネム、どうしたの?なんでこんなに早く?もう祭りは終わったの?」


「ラッカ、ちょっと話したいことがあってきたの。先に一人で帰ってきた。鈴の実を職場の人に渡すのは後でもできる。」

 

ネムはそういうととても深刻そうな雰囲気で話し始めた。当然内容はレキのことだった。ラッカはネムがレキを治す方法を何かしっているのではないかと思い、真摯になってその話を聞き始めた

#23 ネムの想い 話師 深夜

ネムにとって、レキとの関係はなによりも複雑だった。一番近くにいて、一番長く時間を過ごした仲間であった。


「ラッカ、私はね、レキの保護者になってからは、そんなに時間が経ってなかった。この街にきて、クラモリがいなくなったのが春で、ラッカがきたのが夏の終わり頃。だから二つの季節をまたいだくらい。だけど、クラモリが行っちゃってからは元気が無くてね」

 

「私、壁の中でもレキに何もしてあげることができなかった。クラモリがみたいに救うこともできなかったし、ヒョウコみたいに無茶もできなかった。ただ見守ることしかできなかった。」


「そしてそれは壁の外でも同じ。クラモリがいなくなって私がレキの保護者になってからレキはおかしくなって、罪憑きの症状が出てこんなになってしまった。レキがこうなったのも全部私の力不足が原因。」


ネム・・。」


「だけど、ラッカが来てから、レキは少しずつよくなっていった。自傷行為もしなくなったし、外にも出ることができた。けど相変わらず、元には戻らなかったけど。」


「そしたらラッカが、私に変わってレキの保護者になるってい言ってくれて、私はすごく安心したの。ここから何か変わるかもしれない。レキも元に戻るかもしれない。だけどレキは元に戻らなかった。」


「うん、ネム、私もそれは責任を感じている。たしかにレキは私が来た頃より、ずっとよくなった。だけど元に戻るにはまだ何かが足りない。だから私は、その足りないカケラが何なのか、それをすごく知りたくて」


「ラッカ・・・。」


ネムは少しうつむいたようにして沈黙した。ラッカにはネムがどういう心境でいるのかが少しだけ理解できた。きっと自分と同じようにネムも責任を感じているのだ。


「ラッカ、ラッカ、ごめんなさい。私、私じゃレキを救えなかった。そしてあなたが現れて、壁の中ではレキを救った。私はあなたに頼ることしかできなかった。」

ネムは少しだけ涙ぐんでラッカにそういった。ラッカはネムの気持ちがよくわかった。自分に何もできない葛藤というのは辛いものだ。


「ううん、そんなことない、ネム。私だけの力じゃない、みんながいたからここまで来れたきっとレキだってネムに感謝してると思う。レキに元気になって欲しいのはみんな一緒だよね。どうにか、レキを元に戻せればいいんだけど。」


「もしかしたら、話師が何か知ってるかもしれないね。」


ラッカはそれを聞くととても驚いた。話師?話師というと壁の中の?


「話師って灰羽連盟の、グリの街にいた話師のおじいさん?ネム、あの人に会ったの?」


「うん、カナがこっちに来てからレキの羽の下部が灰白色になってね、それで慌てて白羽連盟に聞きに行ったら、グリの街まで特別に案内してくれて、そこでまた話すことができたの。それで灰羽について色々なことを教えてもらえた」


ネムはラッカに話師から教えてもらった灰羽の事実や罪憑きのことをラッカに話した。ラッカはそれを聞くと、いてもたってもいられないような状態になった


「こっちに来てからも、話師のおじいさんに会えるなら、私は会いたい!きっと何かレキがよくなることを少しでも知ってるかもしれない。もう夜だけど、今から会えないかな?」


「連盟にいって、トーガに聞いてみないとわからないわね。もう遅いし、明日でもいいんじゃない?」


ネム、ごめん、私今すぐ行きたい。少しでも早く、レキを元に戻してあげたい。だから、今から連盟にいって、話師に会えないか聞いてきてもいいかな?」


ネムはラッカの気迫に圧倒され、同意を出した。ラッカはどうにかしてレキを助けたい一心で向かうことを決意した。


「わかった。もう9時を回ってるけど、ギリギリまだ連盟が取り合ってくれるかもしれないね。レキは私が面倒を見てるからラッカ行っておいで。私もレキを直したい。クウもカナもそう思ってるから」


ネム、ありがとう!私、話師のおじいさんに会ってくる!」


過ぎ越しの祭りの夜。もうそろそろ深夜に差し掛かった時間だというのにラッカはシルバーホームを飛び出した。ただただレキを救いたい一心で。そしてこの行動がのちに何を意味するのかは、この時はまだわかっていなかった。そしてラッカが飛び出してから少したってから、夜便でシルバーホームに手紙が届いたのだった

#24 ラッカと話師 本来の姿 クウとカナ

シルバーホームを飛び出したラッカ。一目散に白羽連盟の寺院に向かう。夜遅くにカナの使っていた自転車があったが、カナがいなかったので借りることができず、走って行くことにした。

寺院につくと、夜遅くだったが、そこにはトーガがいた。トーガはラッカをみて驚いた。こんな夜遅くに一体どうしたのだろう?


「ああ、ラッカ。つい先ほど夜便で送らせていただきましたがもう届いたのですか?実はまだこちらには」


「すみません!トーガ!私、灰羽連盟の話師に今すぐ会いたいんです!」


トーガが何かいいかけたが、息を切らせたラッカがすごい剣幕で迫ってくる。トーガは圧倒され、こちらの言うことを話す前にラッカに遮られてしまった

ラッカは事情を説明すると、まだこの時間でも話師に会うことはできるか交渉した。トーガはラッカのその様子を見て、何が何だかわからないうちに許可を出した


「もう夜分も遅いので、なかなか厳しいかと思いますが、まだギリギリこちらに呼ぶことは可能だと思います。では案内します。」


トーガはそう言ってラッカをネムの時と同じようにグリの街まで案内した。壁が見えてくるとラッカはとても懐かしい気持ちになってきた。


門の前までくると、トーガは門を叩き、ネムの時と同じように小部屋に案内した。そしてそのルールや経緯をラッカに説明した。

「壁の中ではさわれば罰を受けましたが、こちらでは大丈夫ですよ。では話師を呼んできますね」


「ありがとうございます。」


ラッカはぺこりとお礼をすると、その小部屋に座って話師を待った。一定時間待つと、そこに話師が現れ、ラッカにこう言った


「ラッカ、よくここまできた。ネム以外でここにこれた白羽は、お前だけだ。こんな夜遅くにくるとは、一体どうしたのだ?」


「お久しぶりです。話師のおじいさん、実は」


「言わずともわかる。レキのことだろう?だが、お前はもう答えを知っているはずだ。」


「え?それは一体どう言うことですか?」


ラッカは話師のそう言われ、少々戸惑ってしまった。話師は自分の心を見抜いていると言うのか?自分ですら気づくことのない、自分の中にある真相に


「残念だが、私がお前に教えてやれることは何一つない。答えは自分で見つけるものだ。」


「えと、その」


ラッカは話師の話が理解できなかった。もう自分は答えを知っている?そしてそれを教えることはない?一体どう言うことなのだろう?


「しかし、ここに来たからには私もお前に何も教えずに行くわけには行くまい。さて、何が聞きたい。話してごらんなさい。」


話師がそう言うと、ラッカは今まであったことやネムのこと、レキがどうしたら元に戻るか、それを聞きにくる話をした。そして話師はそれに対してただひたすら頷いて話を聞いていた


「ラッカ、壁の中のルールや灰羽の存在、そしてグリの街のことはネムから聞いているな。あとは私に教えられることはない。しかし一つだけ教えよう。レキは自分の本来の姿に再び戻ろうとしているのだ。」


「本来の姿!?」


話師がそう言うと部屋にある時計を見て時刻を確認した。もう11時を回っていた。


「いかん、もう過ぎ越しの日ももうあと一時間を切った。さて、私の教えられることはここまでだ。もうこれ以上言わなくてもわかるだろう?すぐに戻りなさい!」


話師はそう言うと慌ててラッカを部屋から追い出した。部屋から出たラッカはなにかを悟ったようにシルバーホームまで走り出した。同時に何かおおいなる不安を抱えていた


「レキ、レキ!」


自分のきた道を一心不乱に走って帰るラッカ。とにかく一刻でも早く帰りたかった

 

「まーたっくさ、こんな時間に呼び寄せるなんて、連盟もどうかしてるよ。明日でいいじゃんね。」


「ダメだよ!明日じゃもう年が明けちゃうじゃん!やっぱり今日じゃなきゃ」


カナがクウを自転車の後ろに乗せ、二人乗りをして連盟まで向かっていた。カナは不平不満がたらたらだったがそこはクウに説得され、向かうことにしたのだ


「って、あそこにラッカがいるよ!おーいラッカ!」


連盟のすぐ近くまできた時に、クウがラッカに気づき、声をかけ手を振った。ラッカは何かに取り憑かれたようにひっしに走っていて、二人に気づかなかった。


「えと、ラッカなんかすげー急いでるね。」


カナがそう言うと、二人は連盟までついて自転車を降り、寺院の中に入っていった。


「ふいー、やっと着いたね。帰りはクウが漕いでよ。」


「うん、いいよ。けどカナが漕いだ方が早いとおもう。あたしはカナほどは早く漕げないから」


そんなこんなで寺院に入るふたり、トーガは二人を招き入れ、奥へと案内した。

 

 

最終話 オールドホームの灰羽達

「レキ!レキ!」


ラッカは一心不乱にシルバーホームに向かった。何か言い知れぬ不安がラッカの胸を覆い尽くしていた。


家にたどり着き、中に入る。電気が消えている。慌てて電気をつけて部屋を確認すると、ネムがベッドにもたれかかって眠っていた。


しかし部屋を見渡してもレキの姿がない。ベッドからは起きた跡があり、布団がめくれていた


ネムネム!」


ラッカは慌ててネムを揺すって起こす。ネムはいるがレキはいない。一体どこにいったのだろう?


「あ、ラッカ、お帰り。帰ってきたんだね。」


ネムネム、レキがいないの。レキはどこ?」


「え?レキなら私より早く眠ったからベッドに寝かせてそのまま眠ったけど、あれ?」


ネムがベッドをみるとレキがいない。たしかに自分より先にベッドに入ってねむっていたはず。起きてどこかにいったのか?


「それに、クウとカナはどこ?レキをどこかに連れていったの?」


「あの二人は見てないよ。どこかに行っているのかしら?」


ラッカは慌てて時計をみる。時刻は11時半を回っていた。


ネムネム、フラの街の終わりの列車の時間はわかる?」


「列車?たしか、隣の街からでる最終列車が11時の最後くらいだったから、たどり着くのはちょうど12時くらいだと思う。それってもしかして・・・?」


「レキはきっと大門広場の先にある駅に行ったと思う!すぐに行かなきゃ!」


ラッカとネムが慌てて外に出る。カナが乗っている自転車を借りようと思ったが、自転車がない。仕方ないので二人は慌てて走っていった


「はあはあ」


ラッカは息を切らし、途中で靴擦れがして足を痛めたが、御構い無しに駅に向かった。ネムも必死だった。


「だーかーらー、三ケツはきついって、あたしは行き漕いだんだからクウが漕いでよ!って思ったけどんなこと言ってる場合じゃないね!あたしに任せといて!」


「カナ!ごめん!今はカナに頼るしかない。よろしく!」


カナが全身全霊をかけて自転車を漕いでいる。どうやら連盟から呼び出された用が済んだようだった


カナはその信じられない脚力で駅まで向かった。そして中央広場にたどり着くと、自転車を降りて慌ててクウに託す!


「あたし、行くところがある!上手く行くかわかんないけど、やってみる!あとはクウたちで先行って!」


カナはクウに自転車を託すと、時計塔の中に入っていった。クウは自転車を漕いでそのまま駅まで向かった

 

その頃、ようやくラッカとネムは大門広場の近くにまでたどり着いて、駅の近くまで来ていた。そしてレキを見つけた


ネム!あそこにレキがいるよ!ほら、路線に立ってる!」


レキは一人でフラの街の大門広場の先にある駅の路線に立ちすくんでいた。話師はラッカに言った。「レキは再び本来の姿に戻ろうとしている」と、それがこの答えだった


二人がレキを見かけて声をかける!「レキ!」しかしレキは一向に動こうとしない。そして次の瞬間、はるか先ではあるが、列車の汽笛が聞こえ、最後の電車が来ようとしていた


「レキ!レキ!お願い!そこから動いて!このままだとまた同じことになる!」


ラッカは列車がレキにたどり着くよりもはるか遠い場所からレキに訴えた。しかしレキは生気を失ったようにそこに立ちすくんでいた。


「もうダメ!間に合わない!」


ネムがとても悲しい声でそう言った


すると次の瞬間、突然大きな鐘がなった。ガラーンガラーンと。これはフラの街の時計塔の鐘だった


「時計の鐘?カナ?」


そう、それはカナが時計塔で働いているのを生かして、鐘を鳴らしたのだった。列車に乗っていた車掌はその音に驚いて慌てて外を見た。すると次の瞬間なにかがピカッと光って目の前に人影が見えた


車掌は慌ててブレーキを踏む。人が両手を掲げて路線の真ん中にいる。いや、人ではない、白羽だ


間一髪で列車はレキの前で止まり、レキは助かった。レキの目の前にいるのはクウだった


「クウ!」


ラッカが駆け寄るとそこにはレキの前にクウが立っていた。クウはとっさにレキの前に立ちふさがって、列車を止めてくれたようだった。


「どうやら間に合ったみたいね。よかった!カナが頑張ってくれたおかげね」


ラッカとネムはどこか懐かしい声を聞いた。クウとレキの他にもう一人白羽がいる。それはカナではなかった


「ヒカリ!」


ラッカがそう叫ぶとそこにはヒカリが立っていた。ヒカリ、とても懐かしい。その姿はまったく変わってなかった


「ヒカリ?いつこっちに?というかさっきの光ったのは」


「ああ、ええと、トーガが光臨の材料で私にくれたの。きっと役に立つからもって行きなさいって。名前がヒカリだったからかな?けど、列車が来る前にうまく光ってくれて助かったわ」

「おーい、大丈夫か?」


列車から車掌が降りてくる。レキがフラの街に来た時に色々教えてくれた心優しい人だ。五人の白羽の無事を確認して声をかけた


「こんなことろに白羽が五人も!?それにこんな遅くにどうしたんだ?あ、そこで倒れているのはいつかの無賃乗車しようとした白羽じゃないか!」


レキはクウが列車を止めた後、そこに倒れていた。どうやら気を失っているようだった


「とりあえず、五人とも怪我はないようだね。いやはや突然鐘は鳴るわ、何か光るわ、人影がいるわで驚いたけどまあよかった。もう最終便だから乗客は一人もいないから助かったよ。」


「すみません、ご迷惑をおかけしました。この子がちょっとここまで飛び出してきてしまったもので」


ネムが頭を下げて謝る。車掌は初めてレキを見た時から何か色々事情があるんだなと悟っていたので咎める気にはならなかった


「ああ、いいよいいよ無事なら。運行にも問題はないしね。まあ連れて帰ってゆっくりおやすみ。って、もう年が明けちゃったけどね」


ラッカとネムは気を失ったレキを抱え、家に帰ろうとした。そうすると、やっとこさという感じで、疲れ切ったカナが姿を表した。


「ぜえぜえ。どうやらどうにか間に合ったようだね。レキ、無事だったみたいだね。よかった。あーあ。あたしもう自転車こいでクッタクタ。早く帰って休みたいからクウが自転車こいであたしを後ろに乗っけてよ」


「カナ、時計塔の鐘を鳴らしてくれたのね。けど、一体どうして!?」


「ああ、うん、実は11時過ぎにクウと家に帰ったら手紙が入っててさ、開けたら新しい灰羽が来たっていうからヒカリしかいないって思ってすぐに迎えに行ったんだよ。したらトーガがなんか問答無用でヒカリにそれ渡して駅までいけっていうからさ。」


「行こうってったのはクウだよ!カナはもう遅いから明日にしようって言ったじゃん!それじゃあ年が明けちゃうからダメだっていってさ、そしたら連盟に着く前にラッカがなんかすごい勢いで走ってたから不安になってあたしたちも行くことにしたんだ!」


「まあまあ、とにかく間に合ってよかったわね。カナが三人乗りでも頑張ってこいでくれて鐘を鳴らしてくれたおかげ。こんな夜中に鳴らしたからきっとみんなびっくりして起きちゃったかもね。私たち、罰を受けるかもしれないけど、レキが助かったんだから本当によかった!」

「ヒカリ・・。みんな、ありがとう。」


ラッカは涙を流してお礼を言った。とにかくヒカリがこっちに来てくれたことが嬉しくてたまらなかった。そして家に帰ってレキをベッドに寝かせた


「ラッカ、あなた、羽が」


「え?」


ネムがラッカの羽を見て何か気づいた。羽の色が?白ではない?何か輝いている?


「白色に発光してるんじゃないね。あれは銀色?」


ヒカリが何かに気づいてそう言った。そしてラッカだけではない、レキの羽の色も白ではなく、薄く銀色の輝きを放っていた。どうやら二人の羽は共鳴しているような感じだった


そして少し銀色に輝くと光はやがて失われ、元に戻った。ネムが慌ててレキの羽を見る


「戻ってる。灰白色から、白に!」


レキの羽は完全に白色に戻った。そして次の瞬間、レキは目を覚ました


「ラッカ?」


レキは起き上がるとラッカの方を見てそう言った。ラッカはレキに言われて驚いて返事をする


「レキ!レキ!私がだれかわかる?ここがどこかわかる?」


「うん、もちろん、あなたの名前はラッカ。私がつけた名前だよ。ここはシルバーホームでしょ?あと、そこにいるのはネム、カナ、クウ、え?あとヒカリも!?」


「レキ!元に戻ったの!?ちゃんと話せるの?」


「うん、ネム、ごめん。なんか長い夢を見ていたようだったよ。どこか暗い、繭の中で見た夢のような時間をずっと見ていたような感じで何もできなかったのを覚えてる。だけど、ラッカがずっとそばにいてくれたのも覚えてる。」


「けど、最後の最後でたしかみんな来て、そしてヒカリが来て、五人が私の手を引っ張ってくれたような感じがあったのを覚えてる。なんか、あんまり覚えてないけど、みんなに助けられたみたいだね。ありがとう」


レキが元に戻ったのを見て、五人は盛大に喜んだ。ラッカはレキに抱きつき、涙を流した


「レキ、レキ、戻ってよかった。もう戻らないかと」


「大げさだなあ、ラッカは。あとさ、ラッカもネムも自分たちで抱え過ぎだよ。な?」


カナがそう言ってクウとヒカリにコンタクトをとる。二人はにっこり笑っていた


「うん、でもレキが治ってよかった!あたし、ずっと心配してた。」


ネム、壁の中でもレキに言ったけど、手伝えることがあったら言ってって言ったでしょ。仲間なんだから」


「ああ、ごめん。けど、ヒカリが来てくれて助かったよ。ありがとう。あたしもラッカも、自分たちだけで抱え込みすぎてたのかもしれない。」

「けど、レキとラッカの羽はなんで銀になったのかしら?不思議だね」

ヒカリがそう言って不思議がって考えていると、ネムがその疑問に答えた


「あと図書館の本で読んだけどさ、もともと罪憑きだった灰羽が、こっちにきてきちんと元に戻った時、羽が銀色に輝いたんだって。だから、その出来事からとって、ここはシルバーホームって呼ばれたみたいね。」



ラッカは話師の言ってた、「お前はもう答えを知っている」というのを思い出した。あれはなんだったのか?あの時は理解ができなかったが、今は理解できた。レキが元に戻るために必要だったカケラ。それはレキが一番幸せだった時間のかけがえのない仲間。そう、「オールドホームの灰羽

」であるということに


「レキ!元気になってよかったね!今夜はもう疲れたから寝ましょう。」


そしてその夜、六人は疲れ果てて泥のように眠りこけた。ラッカはレキの手を握りしめて二人で眠った。

 

 

こうして、レキにかかった罪憑きの呪いは解け、レキは元に戻った。その呪いを解いたのは壁の中ではラッカであったが、壁の外ではラッカだけでない。ネム、クウ、カナ、そしてヒカリ。この五人の力があったからこそレキは再び元に戻った。そしてここから、またこの壁の外での六人の生活が始まろうとしていた


白羽連盟 ここに完結!

ウソウソもうちょっとだけ続きます

 

エピローグ 1 その後

次の日、ラッカはいつもより早く目が覚めた。ネムもクウもカナもヒカリもまだよく眠っていて起きていない。あれ?レキがいない。たしかラッカはレキの一番近くで眠っていたはず

キッチンの方から、なにやら音が聞こえる。誰かが朝食を作っていた

「レキ?」

「ああ、ラッカ、目が覚めた?結構長い間さ、みんなになにもしてあげられなかったから、今日は私が作ろうと思ってさ」

「レキ・・。」

ラッカはレキのご飯を作っている姿をみてとても安心した。レキ、あの、オールドホームにいたときの姿と一緒。たしか最後に見たのはヒカリと一緒にレモンのスフレを作っていたっけ


「おはよー、二人とも早く起きたんだねって、レキが作ってるの?」


「ああ、カナ、おはよう。もう目が覚めた?早いね」


「うん、今日は年始だし、仕事は休みだから、ゆっくりしようとおもってるんだけど。ただま、まあたぶんね」


「え?なに?あっ、そうか」


そういえば昨日の夜、無断で時計塔の鐘を深夜に鳴らしてしまったことを思い出した。グリの街では年越しの鐘を鳴らす習慣があるが、こちらではたしかない。もう寝ている人もいただろうし、もしかしたら住民に多大な迷惑をかけてしまったのかもしれない


「まあ、レキのこともあるしさ、あとで連盟まで行ってみよう」


カナは自分で何をしでかしたのか、理解をしていた。しかし昨日はただただ夢中になっていて、何も考えていなかった。この先、なにか罰を受けるかもしれない


そしてネムとクウとヒカリも目が覚め、6人で食卓を囲んだ。この感じ、とても懐かしい。ああまた誰も欠けることなくこの6人で団欒を楽しめるとは


「とりあえずさ、レキが元に戻ったことはいいんだけど、連盟より先に病院に行って、検査してもらいましょう。先生も心配してたし、レキがどこもおかしくないかみてもらうことが先ね」


ネムがそう言ってレキを病院に連れて行くことを進める。年始でほとんどの機関は休暇をとっていたが、病院はやっていた


「じゃあさ、ラッカとネムでレキを病院まで連れ添ってよ。んでさあ、あたしは連盟に位あかなくちゃいけないから、あの、そのヒカリとクウ付き合ってくれるよね?」


時計塔の鐘を無断で鳴らしたことで、カナはもしかしたら職場を追放されるかもしれない、しかし理由をよく話せばわかってくれるかもしれない

「もちろんよカナ。だってカナのお陰でレキも助かったんだし、こうなったのは覚悟の上よ」


「うん!クウもカナに感謝してるー。カナ最後すっごく頑張ってくれたもんね。あたしとヒカリも頑張って一緒に謝るよ」


「みんな、ありがとう。私のために・・・。」


レキは五人がここまで自分のために四苦八苦してくれたことに大いに感謝をしていた。そしてここの場所こそが、自分にとって居場所なんだと再認識できた。自分はここにいていいのだと。それはかつてレキがラッカに言ったことだった


朝食を済ますと、レキとラッカとネムは病院へ、カナとヒカリとクウは連盟に向かった。それぞれ色々な複雑な思いはあったが、今はレキが元に戻ったことに歓喜を感じていた

 

病院に着き、レキの顔を見ると医者はとても驚いていた。全く反応を示さなかったレキがここまで普通に歩いてくるとは。色々な検査をすませると、体から全く異常がないことがわかり、もうどこも心配がないことを告げた

「元気になってよかった!あれから心配していたが、ここまでよくなってくれるとは。白羽には不思議な力があるのかもしれない。よかった!これで明日からちゃんと働けます!」

 

医者にそう言われ、診断書をもらい、働ける許可証を受け取ると3人はとても笑顔になり、帰路につく。ラッカもネムもレキがまったく問題なく帰れることにとても大きな喜びを感じていた

 

「レキ、元気になってよかったね!私、本当にうれしい!」

 

「うん、ラッカのおかげだよ!二人とも本当にありがとう」

 

「レキ、よかった。ラッカ、ありがとう。本当にラッカのおかげ」

 

そうやって3人が喜びながら家に着くと、とある二人組が家の前で待ち受けていた


「あ、ヒョコさん、ミドリさん」

 

家の前にはヒョウコとミドリが佇んでいた。どうやらレキの帰りを待っているかのようだった


「おお、レキ、よくなったんだってな。おめでとう。ま、色々心配したけど、やっぱりちゃんと元に戻ってよかったぜ」

 

「ああ、ヒョウコ、ありがとう。こっちでも色々迷惑かけたね。また助けてもらったりして、ありがとう。あの、そのえと」

 

「おい、ほら、ミドリ、お前からもなんか言えって。せっかくここまできたんだから」

 

ヒョウコがそういうと、ミドリはどうも恥ずかしそうに前に出てきて、手に持っていたものをレキに渡した。それは小さな紙箱だったが、中に何が入っているかは分からなかった

 

「えと?これは?」


「ピスタチオは何色でしょう?」


そういうとミドリはなにも言わずそのまま去っていった。

 

「お、おい!ミドリ!えーあと、すまん。とりあえず、レキ、元気になってよかった!退院ではないけど、おめでとうってそんな感じだよ。実はさ俺とミドリ、期限が切れたわけじゃないんだけど、もうこの街から出て行く約束しちゃってさ」


「え?それはどういうこと?」

 

ラッカがヒョウコに聞き返す


「街を出て行かなくちゃいけないのはある一定の期間が過ぎたらだろ?けど、俺たちさ、レキが元気になるのを最後に出て行きますから、それまでの期間はちゃんと働くし、レキと、その仲間に何かあったら俺たちが責任とりますからって連盟に約束しちゃったんだよな。だからもう多分あと数日で出て行かなきゃいけなくなるからさ」


「え?え?それって」


「列車の事故あっただろ?まあ、一応おれは壁の中でも前科持ちだし、こっちでも何があっても大した事ないから、まああんまり気にすんなって、ミドリは照れてるだけだからさ、じゃあな、レキ!ネムもラッカも元気でな!」


「ヒョウコ!」


そういうとヒョウコはミドリのあとを追いかけ行ってしまった。3人はそこに呆然として立ちすくんでいた。とりあえずシルバーホームに帰ると、ミドリから受け取った紙箱を開いた

 

「えと、これは?」

 

「ピスタチオのケーキね」

 

ネムが確認してそういう。綺麗な緑色のピスタチオのケーキが六つ入っていた

 

(ピスタチオは何色でしょう?)

 

3人はミドリの言葉を思い出した


「ミドリ、ヒョウコ、私のために、こんな・・・」

レキはあの二人の心遣いに深く感謝をし、涙を流した。壁の中でもあんなに無茶をしてくれたのに、外にまできてこんな

 

三人がそうやって過ごしていると、クウとカナとヒカリが帰ってきた。どうやら連盟での話が終わったようだった

 

「ただいまーって、あれ?ケーキあるじゃん!いいなーこれどうしたの?ねー食べようよ!」

 

クウが帰ってくるなり大喜びでケーキに食いつく。クウの性格からか、特に変わった様子はなかったようだ

 

「カナ、連盟に行ってきたのね。大丈夫だった?何かあった?」


「ああ、まあ一応やっぱりね、電車を止めたことと、深夜に鐘を勝手に鳴らしたことで一応処分しなくちゃいけないってことで注意はうけたよ。だけどさ、誰かが代わりに責任を取ってくれたみたいで、あたしたち、処分なしで済んだよ。それにさ」


「それに」


「なんかトーガがとっても親切にしてくれたの」


ヒカリが嬉しそうに答える

 

「レキに何かあったのは自分たちの責任だから、レキのことで問題を起こしたことは我々で処分を決めます。当然住民から苦情が出たことは事実ですが、ヒョウコとミドリが代わりにその処分をうけたいと行って街を出て行くそうです。まああの二人はもうレキが元気になったら出て行くことを決めていたようですし、特に問題はないでしょう。あとは我々が貴方達シルバーホームの白羽を責任を持って最後まで守りますので、どうぞこの街で暮らしてくださいって!」

 

「え?トーガが?」

 

ネムが不思議そうにその答えを受け取る

 

(トーガ、やっぱり、私達のこと、気にかけてくれてたんだ。なんだか、ルールばかり重信じてる人たちだと思ってたけど、優しい一面もあるのね)


こうして、この六人のフラの街での新しい生活が始まった。レキは依然と同じ、家政婦で働き、ラッカも寺院の掃除を
した。そしてあっという間に月日は流れ、再び冬がやってきた

 

 

ラストエピローグ シルバーホームの白羽達

「では、以上で手続きは終了です。ご苦労様でした。違う場所でも頑張ってください」


「ありがとうございました。色々とお世話になりました。あの双子がこちらに来たらまたその時はよろしくお願いします。」


ラッカはぺこりとお辞儀をすると、連盟を後にした。トーガはラッカの後ろ姿を見て、何か寂し気な様子を見たが、新しい世界に心揺れるようにも見えた


ラッカはシルバーホームに着くと、急いで自分の荷物の整理をまとめた。いるものといらないものの最終確認。何度確認しても今まで自分が住んでいた家を後にするのは不安が残るものだ


「ラッカ、手続きはもう終わった?」

「レキ、あ、うん。もう本当にこれでここも最後なんだね」

部屋の中にレキが入ってくる。レキの荷物ももうまとめられていた。レキはラッカの整理を待っていた。他のみんなは今までお世話になった職場に最後のあいさつに行っているようだ。そしてこの家を後にするのはラッカが最後だったので、一応レキもここに残り、ラッカとともに出ることにした

「オールドホームと同じように、こことももうお別れか・・・。」


レキが正常に戻ってから月日は流れ、冬の始まりに到来していた。ちょうどクウがこちらにきてから2年がたった頃だ


「大丈夫だよ、ヨミとヤミがこっちに来るときにはまたみんなで戻ってくるんだし。その時またここに集まれるでしょ。白羽同窓会って感じかな?クラモリさんも呼びたいね」

「ああ、私もその双子に会ってみたいし、クラモリも呼べたらいいね。あと、ショータとかハナやダイもそのうち来るのかな?」

「きっと来るよ。みんな元気かな?小さい子たちもあの双子には懐いていたし、またみんなで一緒にご飯食べれたらいいね」

 

クウが白羽になってからちょうど二年がたち、手帳の更新の時期がやってきた。更新にはいくらかお金がかかるのと、手帳の手当てが白羽としてではなく、フラの町の住人としての更新になってしまうので、むしろランクダウンしてしまうことになっていた。しかしクウの灰羽としての勤務年数がもう切れてしまっているので、それも仕方ない現実だった

「それが嫌でしたら、この街から出て、違う街で新しく手帳を取得してください。そうすることでまた同じように手帳を取得できます。残念ですが、このフラの街からはいつか白羽は出ていかなくてはならない規則ですので」


トーガに手帳に関する説明を受ける六人。色々と話し合った結果、クウは違う街に旅立つことを決意した。他の五人はまだ手帳の有効期限があったので、せっかくなら今回はみんなで一緒にいこうということになった

「けどさ、六人みんなで同じ街に行って、部屋借りるのってちょっと大変じゃない?行動も取りにくいし」

「そうね、たしかに六人全員はきついよね。けどクウ一人でっていのも大変だし、どうしようか」

カナとヒカリが今後について話し合う。他のみんなも街から旅立つことに異論はなかったが、どうするか話し合っていた。

「あたしさ、行ってみたいところがあるんだ!」

突然クウが切り出した

「ここからさ、もう少し北の方に行った待ちなんだけど、美味しいコーヒーが盛んな待ちなんだよね。あたし、せっかくカフェで働いてるし、どうせ行くならそっちの方に行きたい!」

「いいわね!じゃあさ、あたしもクウと一緒にいくよ!クウ、将来カフェをやりたいんだよね?あたしもパン屋で働いてるし、クウと一緒にお店開けたらいいよね!」

「あ、そうだ!ヒカリもパン屋じゃん!じゃああたしと一緒にいこうよ!もしかしたら同じ職場で働けるかもね!」


「ああ、たしかにクウとヒカリは職種同じだったね。いいかもね。二人で働ければ」

「そういえばさ、あたしも行きたいところあるんだよね。」


クウとヒカリの次に今度はカナが切り出す

「こっからさ、東の方に行ったところに、大きな時計塔のある街があるんだって。グリの街やフラの街の時計塔じゃなくてもっと全然でっかくてさ、あたし、どうせ出るならそこに行きたいんだ。今の親方からも聞いてたし、いつか行きたいと思ってたからね」


「じゃあ、私はカナと一緒に行こうかしら」

続いてネムが切り出す

「その時計塔のある街ってたしか大きな図書館あるでしょ?ここよりもっとずっと大きな街だから。たしか同じ街よね。私もいつかそこに行ってみたいと思ってたのよ」


「あ、そうか!じゃあネムはあたしと二人で行くことに決まりだね!」


「ということで私達は行くところが決まったわ。レキ、あなたも行きたい場所あるんじゃないの?」


「へ?私?」

ネムがレキにそういうと、レキ は狐に驚きを隠せない表情をしていた

「レキ」

ラッカがレキにニッコリと笑いかけ、寄り添った。ラッカはすでに知っていた。レキがどこに行こうとしているのかを


「私、レキがどこに行きたくてもそこに一緒に行くよ。レキ、私はレキについていく。だって、私たちは互いにもう離れられないからね」

「ああ、そうだね。うん。私も行きたいところ、ちゃんとあったね。」


「じゃあさ、これでもう行くとこ全員決まりだね!早速さ、連盟に手続きしに行こうよ!クウ一人で行かせるわけには行かないしさ!」

カナがそう言って、すぐに連盟に手続きをしに行った。クウ、ヒカリ、カナ、ネムの手続きはすぐに終わったが、レキとラッカの手続きはなかなか終わらなかった。それは二人が罪憑きの相互保護者だったからだった。二人は今後とも離れられない存在となっていた

ラッカが全ての支度を終え、二人は駅に向かった。道中、フラの街のを巡回すると、なんだかグリの街ですら懐かしい想いを抱えて二人は歩いていた


「おそーい!いつまで待たせんの!」


カナが駅前でずいぶんとご立腹。自分たちが想像していた以上に時間が掛かったので、イライラしていた


「ああ、ごめん、思ったよりラッカの手続きがかかってさ、もう他にやり残すことはないからさ」


「そうなのね。じゃあとうとうこの街とも本当にお別れね。」


ネムがそう言って、街を後にする。そしてとうとう六人は列車に乗り込み、フラの街を出発した。


「やあ、とうとうこの街をでるのかい?今日は祝いだね」


「あ、ありがとうございます。」


いつかレキに親切にしてくれたあの車掌が六人の座っている車両にきて話しかけた。街から出る時はいつでも聞いてくれと言ってくれた心優しい人だ


レキは経緯を説明し、各々が違うところに行くことを話した。そうすると、この先に分岐点となる大きな駅があるからそこでそれぞれ乗り換えればいいということも教えてくれた。そしてとうとう乗り換えの駅にたどり着いた


「じゃあ、道中気をつけてね。お達者で」


車掌にそう言われると六人は駅を降りた。その駅は今まで六人が見たこともない大きな駅で、人で溢れかえっていた

「うわーすごいでっかいね!こんなに多くの人がいるんだ」


「本で読んだけど、ここは貿易都市みたいね。それぞれの街に行く列車がでるまでまだ時間があるから、あそこのカフェでお昼を食べましょう」

ネムがそういうと、駅中にあるカフェで六人は昼食を取った。そしてとうとうクウとヒカリのいく先の街の列車の出る時刻となった


「じゃあ、みんな元気でね。またフラの街に呼ばれた時、六人で集まりましょ」

ヒカリはそういうとニッコリ笑って後にした。ラッカはいてもたってもいられない表情だった


「クウ!」

ラッカがクウの手を掴む。クウは振り返ってニッコリ笑った


「ラッカ、またね!」


そういうとクウはヒカリに続いて列車の中に入っていった。列車は出発をし、二人の姿は見えなくなっていった


「行っちゃったな。次はあたしとネムか」

そして一定時間がたつと、今度は東行きの列車の出発時刻になった。カナは列車の中に入るとなにも言わずあとにした

「ラッカ、レキのこと、よろしくね。レキ、またいつか会いましょう」


ネム、あたし、あたし」


レキが少し下を向くとネムは優しく微笑んだ。

「なにも言わなくていいよレキ、カナ?あなたはいいの?挨拶」


「あ、あたしは特にないよ。じゃあまたね。」

そして列車が走り出し、二人はいってしまった。残ったのはレキとラッカだけになった


「レキ、みんないっちゃったね。寂しいけど、これでよかったんだよね。またすぐきっと会えるよ」

「ラッカ、うん。そうだね」

 

そしてとうとうレキとラッカが乗る列車がきて出発時刻になった。列車は出発して、二人は無言でなにも言わなかった


「私たちがこれからいく街ってさ、海があるんでしょ?海ってはじめて見るね」

「うん、海ってグリの街にあった川や滝と違ってもっと大きい水辺なんだってね、私もすごく楽しみにしてる。まあここからいくのは港町だけどね」


「うん、そこにクラモリさんがいるんでしょ?あたしも会うの楽しみだな!あったらなに話そう?レキがこんな元気ですっていったら安心するよね!」

そう、ラッカとレキの向かっている街はクラモリのいる港街トトだった。クウとヒカリは北へいき、カナとネムは東へ行った。そしてこの二人は南へ。三者とも方向がバラバラだったのだ

そしてとうとう列車は止まり、二人は目的地に着いた。その港から見える海の光景は絶景だった


「わあーすごーい!海ってこんなに広いんだね!それに真っ青だね。」

「うん、海の見える街で暮らしているんだねクラモリは。グリの街には海はなかったから新鮮だね」

「レキ」


「ん?なに?」


「これからもよろしくね」

「ああ、うん。ラッカ、ありがとう」


こうして、二人はクラモリのいる海の見える街に辿り着いた。ここにたどり着くまで、苦難の連続であった二人にとって、新しい世界はものすごく新鮮だった。ここから何かはじまるかもしれない。いや違う、ここからはじめなくてはいけない、そして再び、また新しく来る壁を越える灰羽のためにも、手本とならなくてはいけないのだ


さてさて、壁に覆われた「グリの街」という閉鎖的な空間の特殊な存在と呼べる「灰羽」という少女達の物語から壁を越えてから新たに変わった「白羽」という少女達の物語。微かな変化こそあったものの、壁の中と考えや行動はほとんど変わらず、そしてここにそれを記す。灰羽が巣立つときと違い、白羽が巣立つのはきちんとした期間が決まっていたことだが、この「シルバーホームの白羽たち」は硬い絆で結ばれたいた。そして六人は再会の日を待ち遠しに、日々、自分たちの仕事に精を出すのであった


FIN