ラストエピローグ シルバーホームの白羽達

「では、以上で手続きは終了です。ご苦労様でした。違う場所でも頑張ってください」


「ありがとうございました。色々とお世話になりました。あの双子がこちらに来たらまたその時はよろしくお願いします。」


ラッカはぺこりとお辞儀をすると、連盟を後にした。トーガはラッカの後ろ姿を見て、何か寂し気な様子を見たが、新しい世界に心揺れるようにも見えた


ラッカはシルバーホームに着くと、急いで自分の荷物の整理をまとめた。いるものといらないものの最終確認。何度確認しても今まで自分が住んでいた家を後にするのは不安が残るものだ


「ラッカ、手続きはもう終わった?」

「レキ、あ、うん。もう本当にこれでここも最後なんだね」

部屋の中にレキが入ってくる。レキの荷物ももうまとめられていた。レキはラッカの整理を待っていた。他のみんなは今までお世話になった職場に最後のあいさつに行っているようだ。そしてこの家を後にするのはラッカが最後だったので、一応レキもここに残り、ラッカとともに出ることにした

「オールドホームと同じように、こことももうお別れか・・・。」


レキが正常に戻ってから月日は流れ、冬の始まりに到来していた。ちょうどクウがこちらにきてから2年がたった頃だ


「大丈夫だよ、ヨミとヤミがこっちに来るときにはまたみんなで戻ってくるんだし。その時またここに集まれるでしょ。白羽同窓会って感じかな?クラモリさんも呼びたいね」

「ああ、私もその双子に会ってみたいし、クラモリも呼べたらいいね。あと、ショータとかハナやダイもそのうち来るのかな?」

「きっと来るよ。みんな元気かな?小さい子たちもあの双子には懐いていたし、またみんなで一緒にご飯食べれたらいいね」

 

クウが白羽になってからちょうど二年がたち、手帳の更新の時期がやってきた。更新にはいくらかお金がかかるのと、手帳の手当てが白羽としてではなく、フラの町の住人としての更新になってしまうので、むしろランクダウンしてしまうことになっていた。しかしクウの灰羽としての勤務年数がもう切れてしまっているので、それも仕方ない現実だった

「それが嫌でしたら、この街から出て、違う街で新しく手帳を取得してください。そうすることでまた同じように手帳を取得できます。残念ですが、このフラの街からはいつか白羽は出ていかなくてはならない規則ですので」


トーガに手帳に関する説明を受ける六人。色々と話し合った結果、クウは違う街に旅立つことを決意した。他の五人はまだ手帳の有効期限があったので、せっかくなら今回はみんなで一緒にいこうということになった

「けどさ、六人みんなで同じ街に行って、部屋借りるのってちょっと大変じゃない?行動も取りにくいし」

「そうね、たしかに六人全員はきついよね。けどクウ一人でっていのも大変だし、どうしようか」

カナとヒカリが今後について話し合う。他のみんなも街から旅立つことに異論はなかったが、どうするか話し合っていた。

「あたしさ、行ってみたいところがあるんだ!」

突然クウが切り出した

「ここからさ、もう少し北の方に行った待ちなんだけど、美味しいコーヒーが盛んな待ちなんだよね。あたし、せっかくカフェで働いてるし、どうせ行くならそっちの方に行きたい!」

「いいわね!じゃあさ、あたしもクウと一緒にいくよ!クウ、将来カフェをやりたいんだよね?あたしもパン屋で働いてるし、クウと一緒にお店開けたらいいよね!」

「あ、そうだ!ヒカリもパン屋じゃん!じゃああたしと一緒にいこうよ!もしかしたら同じ職場で働けるかもね!」


「ああ、たしかにクウとヒカリは職種同じだったね。いいかもね。二人で働ければ」

「そういえばさ、あたしも行きたいところあるんだよね。」


クウとヒカリの次に今度はカナが切り出す

「こっからさ、東の方に行ったところに、大きな時計塔のある街があるんだって。グリの街やフラの街の時計塔じゃなくてもっと全然でっかくてさ、あたし、どうせ出るならそこに行きたいんだ。今の親方からも聞いてたし、いつか行きたいと思ってたからね」


「じゃあ、私はカナと一緒に行こうかしら」

続いてネムが切り出す

「その時計塔のある街ってたしか大きな図書館あるでしょ?ここよりもっとずっと大きな街だから。たしか同じ街よね。私もいつかそこに行ってみたいと思ってたのよ」


「あ、そうか!じゃあネムはあたしと二人で行くことに決まりだね!」


「ということで私達は行くところが決まったわ。レキ、あなたも行きたい場所あるんじゃないの?」


「へ?私?」

ネムがレキにそういうと、レキ は狐に驚きを隠せない表情をしていた

「レキ」

ラッカがレキにニッコリと笑いかけ、寄り添った。ラッカはすでに知っていた。レキがどこに行こうとしているのかを


「私、レキがどこに行きたくてもそこに一緒に行くよ。レキ、私はレキについていく。だって、私たちは互いにもう離れられないからね」

「ああ、そうだね。うん。私も行きたいところ、ちゃんとあったね。」


「じゃあさ、これでもう行くとこ全員決まりだね!早速さ、連盟に手続きしに行こうよ!クウ一人で行かせるわけには行かないしさ!」

カナがそう言って、すぐに連盟に手続きをしに行った。クウ、ヒカリ、カナ、ネムの手続きはすぐに終わったが、レキとラッカの手続きはなかなか終わらなかった。それは二人が罪憑きの相互保護者だったからだった。二人は今後とも離れられない存在となっていた

ラッカが全ての支度を終え、二人は駅に向かった。道中、フラの街のを巡回すると、なんだかグリの街ですら懐かしい想いを抱えて二人は歩いていた


「おそーい!いつまで待たせんの!」


カナが駅前でずいぶんとご立腹。自分たちが想像していた以上に時間が掛かったので、イライラしていた


「ああ、ごめん、思ったよりラッカの手続きがかかってさ、もう他にやり残すことはないからさ」


「そうなのね。じゃあとうとうこの街とも本当にお別れね。」


ネムがそう言って、街を後にする。そしてとうとう六人は列車に乗り込み、フラの街を出発した。


「やあ、とうとうこの街をでるのかい?今日は祝いだね」


「あ、ありがとうございます。」


いつかレキに親切にしてくれたあの車掌が六人の座っている車両にきて話しかけた。街から出る時はいつでも聞いてくれと言ってくれた心優しい人だ


レキは経緯を説明し、各々が違うところに行くことを話した。そうすると、この先に分岐点となる大きな駅があるからそこでそれぞれ乗り換えればいいということも教えてくれた。そしてとうとう乗り換えの駅にたどり着いた


「じゃあ、道中気をつけてね。お達者で」


車掌にそう言われると六人は駅を降りた。その駅は今まで六人が見たこともない大きな駅で、人で溢れかえっていた

「うわーすごいでっかいね!こんなに多くの人がいるんだ」


「本で読んだけど、ここは貿易都市みたいね。それぞれの街に行く列車がでるまでまだ時間があるから、あそこのカフェでお昼を食べましょう」

ネムがそういうと、駅中にあるカフェで六人は昼食を取った。そしてとうとうクウとヒカリのいく先の街の列車の出る時刻となった


「じゃあ、みんな元気でね。またフラの街に呼ばれた時、六人で集まりましょ」

ヒカリはそういうとニッコリ笑って後にした。ラッカはいてもたってもいられない表情だった


「クウ!」

ラッカがクウの手を掴む。クウは振り返ってニッコリ笑った


「ラッカ、またね!」


そういうとクウはヒカリに続いて列車の中に入っていった。列車は出発をし、二人の姿は見えなくなっていった


「行っちゃったな。次はあたしとネムか」

そして一定時間がたつと、今度は東行きの列車の出発時刻になった。カナは列車の中に入るとなにも言わずあとにした

「ラッカ、レキのこと、よろしくね。レキ、またいつか会いましょう」


ネム、あたし、あたし」


レキが少し下を向くとネムは優しく微笑んだ。

「なにも言わなくていいよレキ、カナ?あなたはいいの?挨拶」


「あ、あたしは特にないよ。じゃあまたね。」

そして列車が走り出し、二人はいってしまった。残ったのはレキとラッカだけになった


「レキ、みんないっちゃったね。寂しいけど、これでよかったんだよね。またすぐきっと会えるよ」

「ラッカ、うん。そうだね」

 

そしてとうとうレキとラッカが乗る列車がきて出発時刻になった。列車は出発して、二人は無言でなにも言わなかった


「私たちがこれからいく街ってさ、海があるんでしょ?海ってはじめて見るね」

「うん、海ってグリの街にあった川や滝と違ってもっと大きい水辺なんだってね、私もすごく楽しみにしてる。まあここからいくのは港町だけどね」


「うん、そこにクラモリさんがいるんでしょ?あたしも会うの楽しみだな!あったらなに話そう?レキがこんな元気ですっていったら安心するよね!」

そう、ラッカとレキの向かっている街はクラモリのいる港街トトだった。クウとヒカリは北へいき、カナとネムは東へ行った。そしてこの二人は南へ。三者とも方向がバラバラだったのだ

そしてとうとう列車は止まり、二人は目的地に着いた。その港から見える海の光景は絶景だった


「わあーすごーい!海ってこんなに広いんだね!それに真っ青だね。」

「うん、海の見える街で暮らしているんだねクラモリは。グリの街には海はなかったから新鮮だね」

「レキ」


「ん?なに?」


「これからもよろしくね」

「ああ、うん。ラッカ、ありがとう」


こうして、二人はクラモリのいる海の見える街に辿り着いた。ここにたどり着くまで、苦難の連続であった二人にとって、新しい世界はものすごく新鮮だった。ここから何かはじまるかもしれない。いや違う、ここからはじめなくてはいけない、そして再び、また新しく来る壁を越える灰羽のためにも、手本とならなくてはいけないのだ


さてさて、壁に覆われた「グリの街」という閉鎖的な空間の特殊な存在と呼べる「灰羽」という少女達の物語から壁を越えてから新たに変わった「白羽」という少女達の物語。微かな変化こそあったものの、壁の中と考えや行動はほとんど変わらず、そしてここにそれを記す。灰羽が巣立つときと違い、白羽が巣立つのはきちんとした期間が決まっていたことだが、この「シルバーホームの白羽たち」は硬い絆で結ばれたいた。そして六人は再会の日を待ち遠しに、日々、自分たちの仕事に精を出すのであった


FIN