最終話 オールドホームの灰羽達

「レキ!レキ!」


ラッカは一心不乱にシルバーホームに向かった。何か言い知れぬ不安がラッカの胸を覆い尽くしていた。


家にたどり着き、中に入る。電気が消えている。慌てて電気をつけて部屋を確認すると、ネムがベッドにもたれかかって眠っていた。


しかし部屋を見渡してもレキの姿がない。ベッドからは起きた跡があり、布団がめくれていた


ネムネム!」


ラッカは慌ててネムを揺すって起こす。ネムはいるがレキはいない。一体どこにいったのだろう?


「あ、ラッカ、お帰り。帰ってきたんだね。」


ネムネム、レキがいないの。レキはどこ?」


「え?レキなら私より早く眠ったからベッドに寝かせてそのまま眠ったけど、あれ?」


ネムがベッドをみるとレキがいない。たしかに自分より先にベッドに入ってねむっていたはず。起きてどこかにいったのか?


「それに、クウとカナはどこ?レキをどこかに連れていったの?」


「あの二人は見てないよ。どこかに行っているのかしら?」


ラッカは慌てて時計をみる。時刻は11時半を回っていた。


ネムネム、フラの街の終わりの列車の時間はわかる?」


「列車?たしか、隣の街からでる最終列車が11時の最後くらいだったから、たどり着くのはちょうど12時くらいだと思う。それってもしかして・・・?」


「レキはきっと大門広場の先にある駅に行ったと思う!すぐに行かなきゃ!」


ラッカとネムが慌てて外に出る。カナが乗っている自転車を借りようと思ったが、自転車がない。仕方ないので二人は慌てて走っていった


「はあはあ」


ラッカは息を切らし、途中で靴擦れがして足を痛めたが、御構い無しに駅に向かった。ネムも必死だった。


「だーかーらー、三ケツはきついって、あたしは行き漕いだんだからクウが漕いでよ!って思ったけどんなこと言ってる場合じゃないね!あたしに任せといて!」


「カナ!ごめん!今はカナに頼るしかない。よろしく!」


カナが全身全霊をかけて自転車を漕いでいる。どうやら連盟から呼び出された用が済んだようだった


カナはその信じられない脚力で駅まで向かった。そして中央広場にたどり着くと、自転車を降りて慌ててクウに託す!


「あたし、行くところがある!上手く行くかわかんないけど、やってみる!あとはクウたちで先行って!」


カナはクウに自転車を託すと、時計塔の中に入っていった。クウは自転車を漕いでそのまま駅まで向かった

 

その頃、ようやくラッカとネムは大門広場の近くにまでたどり着いて、駅の近くまで来ていた。そしてレキを見つけた


ネム!あそこにレキがいるよ!ほら、路線に立ってる!」


レキは一人でフラの街の大門広場の先にある駅の路線に立ちすくんでいた。話師はラッカに言った。「レキは再び本来の姿に戻ろうとしている」と、それがこの答えだった


二人がレキを見かけて声をかける!「レキ!」しかしレキは一向に動こうとしない。そして次の瞬間、はるか先ではあるが、列車の汽笛が聞こえ、最後の電車が来ようとしていた


「レキ!レキ!お願い!そこから動いて!このままだとまた同じことになる!」


ラッカは列車がレキにたどり着くよりもはるか遠い場所からレキに訴えた。しかしレキは生気を失ったようにそこに立ちすくんでいた。


「もうダメ!間に合わない!」


ネムがとても悲しい声でそう言った


すると次の瞬間、突然大きな鐘がなった。ガラーンガラーンと。これはフラの街の時計塔の鐘だった


「時計の鐘?カナ?」


そう、それはカナが時計塔で働いているのを生かして、鐘を鳴らしたのだった。列車に乗っていた車掌はその音に驚いて慌てて外を見た。すると次の瞬間なにかがピカッと光って目の前に人影が見えた


車掌は慌ててブレーキを踏む。人が両手を掲げて路線の真ん中にいる。いや、人ではない、白羽だ


間一髪で列車はレキの前で止まり、レキは助かった。レキの目の前にいるのはクウだった


「クウ!」


ラッカが駆け寄るとそこにはレキの前にクウが立っていた。クウはとっさにレキの前に立ちふさがって、列車を止めてくれたようだった。


「どうやら間に合ったみたいね。よかった!カナが頑張ってくれたおかげね」


ラッカとネムはどこか懐かしい声を聞いた。クウとレキの他にもう一人白羽がいる。それはカナではなかった


「ヒカリ!」


ラッカがそう叫ぶとそこにはヒカリが立っていた。ヒカリ、とても懐かしい。その姿はまったく変わってなかった


「ヒカリ?いつこっちに?というかさっきの光ったのは」


「ああ、ええと、トーガが光臨の材料で私にくれたの。きっと役に立つからもって行きなさいって。名前がヒカリだったからかな?けど、列車が来る前にうまく光ってくれて助かったわ」

「おーい、大丈夫か?」


列車から車掌が降りてくる。レキがフラの街に来た時に色々教えてくれた心優しい人だ。五人の白羽の無事を確認して声をかけた


「こんなことろに白羽が五人も!?それにこんな遅くにどうしたんだ?あ、そこで倒れているのはいつかの無賃乗車しようとした白羽じゃないか!」


レキはクウが列車を止めた後、そこに倒れていた。どうやら気を失っているようだった


「とりあえず、五人とも怪我はないようだね。いやはや突然鐘は鳴るわ、何か光るわ、人影がいるわで驚いたけどまあよかった。もう最終便だから乗客は一人もいないから助かったよ。」


「すみません、ご迷惑をおかけしました。この子がちょっとここまで飛び出してきてしまったもので」


ネムが頭を下げて謝る。車掌は初めてレキを見た時から何か色々事情があるんだなと悟っていたので咎める気にはならなかった


「ああ、いいよいいよ無事なら。運行にも問題はないしね。まあ連れて帰ってゆっくりおやすみ。って、もう年が明けちゃったけどね」


ラッカとネムは気を失ったレキを抱え、家に帰ろうとした。そうすると、やっとこさという感じで、疲れ切ったカナが姿を表した。


「ぜえぜえ。どうやらどうにか間に合ったようだね。レキ、無事だったみたいだね。よかった。あーあ。あたしもう自転車こいでクッタクタ。早く帰って休みたいからクウが自転車こいであたしを後ろに乗っけてよ」


「カナ、時計塔の鐘を鳴らしてくれたのね。けど、一体どうして!?」


「ああ、うん、実は11時過ぎにクウと家に帰ったら手紙が入っててさ、開けたら新しい灰羽が来たっていうからヒカリしかいないって思ってすぐに迎えに行ったんだよ。したらトーガがなんか問答無用でヒカリにそれ渡して駅までいけっていうからさ。」


「行こうってったのはクウだよ!カナはもう遅いから明日にしようって言ったじゃん!それじゃあ年が明けちゃうからダメだっていってさ、そしたら連盟に着く前にラッカがなんかすごい勢いで走ってたから不安になってあたしたちも行くことにしたんだ!」


「まあまあ、とにかく間に合ってよかったわね。カナが三人乗りでも頑張ってこいでくれて鐘を鳴らしてくれたおかげ。こんな夜中に鳴らしたからきっとみんなびっくりして起きちゃったかもね。私たち、罰を受けるかもしれないけど、レキが助かったんだから本当によかった!」

「ヒカリ・・。みんな、ありがとう。」


ラッカは涙を流してお礼を言った。とにかくヒカリがこっちに来てくれたことが嬉しくてたまらなかった。そして家に帰ってレキをベッドに寝かせた


「ラッカ、あなた、羽が」


「え?」


ネムがラッカの羽を見て何か気づいた。羽の色が?白ではない?何か輝いている?


「白色に発光してるんじゃないね。あれは銀色?」


ヒカリが何かに気づいてそう言った。そしてラッカだけではない、レキの羽の色も白ではなく、薄く銀色の輝きを放っていた。どうやら二人の羽は共鳴しているような感じだった


そして少し銀色に輝くと光はやがて失われ、元に戻った。ネムが慌ててレキの羽を見る


「戻ってる。灰白色から、白に!」


レキの羽は完全に白色に戻った。そして次の瞬間、レキは目を覚ました


「ラッカ?」


レキは起き上がるとラッカの方を見てそう言った。ラッカはレキに言われて驚いて返事をする


「レキ!レキ!私がだれかわかる?ここがどこかわかる?」


「うん、もちろん、あなたの名前はラッカ。私がつけた名前だよ。ここはシルバーホームでしょ?あと、そこにいるのはネム、カナ、クウ、え?あとヒカリも!?」


「レキ!元に戻ったの!?ちゃんと話せるの?」


「うん、ネム、ごめん。なんか長い夢を見ていたようだったよ。どこか暗い、繭の中で見た夢のような時間をずっと見ていたような感じで何もできなかったのを覚えてる。だけど、ラッカがずっとそばにいてくれたのも覚えてる。」


「けど、最後の最後でたしかみんな来て、そしてヒカリが来て、五人が私の手を引っ張ってくれたような感じがあったのを覚えてる。なんか、あんまり覚えてないけど、みんなに助けられたみたいだね。ありがとう」


レキが元に戻ったのを見て、五人は盛大に喜んだ。ラッカはレキに抱きつき、涙を流した


「レキ、レキ、戻ってよかった。もう戻らないかと」


「大げさだなあ、ラッカは。あとさ、ラッカもネムも自分たちで抱え過ぎだよ。な?」


カナがそう言ってクウとヒカリにコンタクトをとる。二人はにっこり笑っていた


「うん、でもレキが治ってよかった!あたし、ずっと心配してた。」


ネム、壁の中でもレキに言ったけど、手伝えることがあったら言ってって言ったでしょ。仲間なんだから」


「ああ、ごめん。けど、ヒカリが来てくれて助かったよ。ありがとう。あたしもラッカも、自分たちだけで抱え込みすぎてたのかもしれない。」

「けど、レキとラッカの羽はなんで銀になったのかしら?不思議だね」

ヒカリがそう言って不思議がって考えていると、ネムがその疑問に答えた


「あと図書館の本で読んだけどさ、もともと罪憑きだった灰羽が、こっちにきてきちんと元に戻った時、羽が銀色に輝いたんだって。だから、その出来事からとって、ここはシルバーホームって呼ばれたみたいね。」



ラッカは話師の言ってた、「お前はもう答えを知っている」というのを思い出した。あれはなんだったのか?あの時は理解ができなかったが、今は理解できた。レキが元に戻るために必要だったカケラ。それはレキが一番幸せだった時間のかけがえのない仲間。そう、「オールドホームの灰羽

」であるということに


「レキ!元気になってよかったね!今夜はもう疲れたから寝ましょう。」


そしてその夜、六人は疲れ果てて泥のように眠りこけた。ラッカはレキの手を握りしめて二人で眠った。

 

 

こうして、レキにかかった罪憑きの呪いは解け、レキは元に戻った。その呪いを解いたのは壁の中ではラッカであったが、壁の外ではラッカだけでない。ネム、クウ、カナ、そしてヒカリ。この五人の力があったからこそレキは再び元に戻った。そしてここから、またこの壁の外での六人の生活が始まろうとしていた


白羽連盟 ここに完結!

ウソウソもうちょっとだけ続きます