#22 過ぎ越しの祭り 暗澹 願い
フラの街にも冬がやってきた
街全体が過ぎ越しの祭りのムードになって、あらゆる場所に鈴の実の市がたった。ラッカはちょうどこの時期にレキが巣立ちをしたのを思い出した
「今年ももう終わりだね。そういえばさ、去年はあたし、マスターと二人で越したけど、今年はみんなで越せるから嬉しい。みんながきたのって年を越してからだったからね」
クウがそう言って祭りのことを嬉しそうに話す。そういえば昨年は壁の中で五人で過ごしたっけ。
「レキ、レキ、覚えてる?あれからちょうど一年たったんだよ。あの時、レキが自分を捨てそうだったけどレキ、最後に助けてって言ってくれたね。私はあの約束を守るから。何があっても今度は私があなたを守るからね」
ラッカはそう言ってレキに話しかける。レキは何も反応を示さなかったが少し安堵のような表情を浮かべていた
「そういえばさ、過ぎ越しの祭りって壁の外にもあるんだね。グリの街だけだと思ってたけど」
カナがそう言うと一番最初に壁を越えたクウが答える
「うん、もちろんあるよ。だってグリの街はフラの街の姉妹都市だからね。あたしも最初に来た時は驚いたけど、まあそりゃそうかって思ったよ」
「そういえばさ、ラッカが来た年はクウはいなかったっけ。今度はヒカリがいないから過ぎ越しはまた五人か」
カナがそう言って少し残念そうにつぶやく。カナの中で六人一緒に入れた時間が一番楽しかった。クウがいなくなったときはどれだけ寂しかったか
「そうだね。私が来た時はみんないたから、私もあのメンバーで過ぎ越ししたかったな。いつか六人揃ってみんなでできるといいね。あけど来年はきっとヨミとヤミもいるから八人か」
ラッカがそう言って嬉しそうに嬉しそうに語る。ラッカにとってオールドホームの灰羽は家族同然。いや、家族そのものだった
そしてあくる日、とうとう祭りの日がやってきた。
みんなは各々に鈴の実を買うと祭りを楽しんだ。去年と違い、チビ達やヒカリはいなかったが、代わりにクウがいた。もし、チビ達がいたら、レキももう少しよくなっていただろうか?ラッカはそんな風に考えていた。
そしてラッカは車椅子でレキをひいていたが人混みの中で移動が大変だったので、家に連れて帰って安静にすることにした
「私、レキと一緒に家に戻るね。ちょっと、今の状態だとレキにここは辛いと思うから。」
ラッカがそういうと、みんなは少し心配になった。
「ラッカ一人で大丈夫?」
ネムは不安そうに尋ねる
「うん、ありがとうネム。私はまだ仕事していないから鈴の実を届ける人もいないし、ネムは色々いるでしょ?だから安心して祭りを楽しんで」
そういうとラッカはシルバーホームにレキを連れて帰っていった。ネムはなんとなく不安と気がかりがあったがラッカに任せることにした
「ネム、大丈夫だよ。ラッカに任せよう。レキもきっとよくなるよ」
カナがネムにそう言って語りかける。今はこれがカナにできる気配りだった。クウは相変わらず一人で楽しそうにしていたが、それはネムの不安を取り除くために振舞っていたのかもしれない
シルバーホームに帰って、明かりをつけると、ラッカは椅子にもたれかかった。そしてがっくりとうなだれ、一人で考え込んでしまった
「レキ、どうしたらよくなるのかな?それともずっとこのままなのかな?あたしに何かできることはないのかな?」
ラッカはレキを見つめながらそう考えていたが、レキは相変わらず無表情だった。いつまでこの状態が続くのか
そう言ってラッカがレキの身の回りの世話をしていると、あっという間に夜になった。そして鐘の音が鳴り、いよいよ本番が始まったようだ
「過ぎ越しの祭りが始まった。みんな、無事に渡せたんだろうか?私は、私は今、何をすればいいんだろう?」
ラッカが一人で考え込んでいると、入口の方から扉が開く音がした
「誰?」
ラッカが驚き、入口の方を見ると、そこにはネムがいた。さっき鐘の音が鳴ったばかりなのに、こんなに早く帰ってきたのか
「ネム、どうしたの?なんでこんなに早く?もう祭りは終わったの?」
「ラッカ、ちょっと話したいことがあってきたの。先に一人で帰ってきた。鈴の実を職場の人に渡すのは後でもできる。」
ネムはそういうととても深刻そうな雰囲気で話し始めた。当然内容はレキのことだった。ラッカはネムがレキを治す方法を何かしっているのではないかと思い、真摯になってその話を聞き始めた