#8 迷走 ネムの彷徨 あらたな協力者

クラモリがいなくなってからすっかり元気のなくなったレキ。仕事でも張り合いがなく、屋敷の主人からかなり心配され、保護者であるネムのところに何度も事情を伺いに来た。

 

「最近、レキが元気がないんです。やはりもともとの保護者であった人が帰郷してしまったからですか?」


 

ネムはこの事態を深刻に受け止め、クウと協力して何度もレキを励ました。ただレキにとって受けた傷は深く、なかなか立ち直れるものではなかった。


 

とある日、ネムは連盟に向かった。一度レキに休暇を取らせ、クラモリのいる街にいってはどうだろうか?一度逢いに行き、そこにいつでも行けることがわかればレキも元気を取り戻すのではないか。

 

「それはなりません。レキはこの街の白羽です。クラモリはもう手帳の期限がきれていて、随分と前にこの街から巣立って行きました。手帳の更新は今クラモリが暮らしている港町トトの異種族管理時事務局で行われています。レキはこのフラの街の住人です。ここで仕事を放棄して、その街に行けば、白羽資格を剥奪され、手帳は没収となります」

 

トーガは厳しくネムに説明した。ネムは何度か交渉を重ね、連盟を納得させようとしたが無駄だった。ネムは自分はレキの保護者として強い責任を感じていたが、このままでは壁の中にいた時との二の舞になってしまうかもしれないと思っていた。


ある日、ネムが仕事から帰ってくるとレキの姿がなかった。レキの職場に問い合わせてみても、今日は来なかったというし、クウも知らないという。

 

「まさか・・・!」


 

ネムは慌ててグリの街での大門広場の場所に位置する駅に向かった。もしかして、クラモリの住むトトの街に向かったのか?慌ててネムは汽車に向かい、汽車の車掌に問い合わせた。



「すみません、今日、ここに白羽が来ませんでしたか!?」


駅前で、汽車の整備をしていた車掌は突然ネムに尋ねられ、驚いた。



「白羽?今日は見てないね。そもそも白羽は街を出ていくときに、連盟から受け取った許可証を提示しなくては出ていくことはできない決まりになってるから汽車に乗るときは連盟に許可をもらっているはずだよ」

 

 

「わかりました!ありがとうございます」

 

ネムは再び慌てて連盟に行き、現状を説明した。そうするとトーガがこう切り出した。

 

「はい、たしかに本日レキから街を出る許可証をくださいと尋ねられました。それは渡せないと規則を説明すると、帰っていったので、諦めたのかと思っていましたが」



やはりレキはクラモリに会いにいったのだ。ネムの悪い予感が的中した。このままではグリの街と二の舞になってしまう。再びネムはレキを探しに駅へ戻っていった。

 

「ところでネム、本日はオールドホームではありませんが新たな灰羽がこちらへ来られましたが・・。あれ?」

 

トーガが説明をしようと振り返るともうそこにネムの姿はなかった。ネムは一心不乱に駅までレキを探しにいった。


駅に着くと、何やら人だかりができている。何かあったのか?どうやら汽車の運行が遅れているようだった。



「まったく、なにやってるんだよ!列車は時刻を守ってもらわないと困るじゃないか!」



「それにしても問題を起こしたのは白羽か!白羽も規則を守ってもらわないと困るじゃないか!」

 

そういうやりとりを聞いたネム。白羽が列車を遅らせた!?きっとレキだ!レキ、駅にいるのか?ネムはもう気が気でなかった。

 

「いやあ、すみません、お騒がせしました。ちゃんと連れて戻りますので、ちょっと今回だけは見逃してもらえませんか?」



「もし、このまま列車が発車していたら無賃乗車で自警団行きだったよ。君が止めてくれたから今回は見逃してあげるよ。まあ、白羽も色々あるだろうからね」



「お騒がせして申し訳ありません、ほらレキ、もう帰るぞ!あ、ちょうどよかった。あそこにネムがいるぞ!おーい、ネム!」


そう言って誰かに呼ばれたネム。だれか男の人が、レキが列車に忍び込んで街を出て行こうとしたところをとめてくれたようだ。

 

「ヒョウコ!」



確認した男の人はヒョウコだった。赤い帽子をかぶり、パーカーとリュックを背負っていた。そしてヒョウコがわざわざレキを止めてくれたようだった。


「ヒョウコ、いつこっちへ?それよりもレキ、大丈夫??」



「いつって、つい昨日だよ。まあ廃工場はボロ屋敷と関係ないから連盟もお前たちに連絡しなかったみたいだな。んで、この街のルールと、クラモリとレキの経緯を聞いて、駅に来てみりゃレキが電車に無断で乗ろうとしてたからとっ捕まえたんだよ」



「レキ、またこの街で同じことを繰り返すつもりか?まあ、気持ちはわかるけどあんまりもうみんなに迷惑かけんなよ。ネムも迎えに来てくれたし、うちに戻りな。俺にできるのはここまでだ。ネム、あとは頼んだぜ」



ヒョウコはそういうと、レキをネムに託した。レキはもうほとんど生気を失ったような表情をしていて、がっくりとうなだれていた。ネムは涙を流しながらレキを抱えシルバーホームへと戻った。