#1 壁を越えて 礫 クラモリ

「レキ、おはよう。目が覚めたみたいね」

誰かにそう言われて目覚めたレキ。巣立ってからの記憶がない。気づいたら今いる部屋に寝ていて、目が覚めた。


「クラモリっ!?」

目が覚めるとそこにはクラモリが座っていた。クラモリ、変わっていない。ある日突然いなくなったあの日のままだ。見た目もそうだけど、雰囲気も仕草も変わっていない。


「クラモリ・・・。」


レキは涙を流しながらベットから飛び起きてクラモリに抱きついた。ああ、そうだ。これはクラモリの温もりだ。私はまた、彼女に会うことができたんだ。


「レキ、大きくなったね。前とずいぶん見違えて、立派になった。羽もすっかり白くなってるし、罪憑きから抜け出せて、祝福を受けられたんだね。」


羽が白くなった!?


レキは慌てて自分の羽を見る。本当だ。灰色じゃない。きれいな白色だ。


「クラモリ、私、羽が、羽が」


レキは自分の羽を見て混乱していた。自分は灰羽だった。そして羽の色はたしかに灰色だった。これは一体どういうことなんだろう?


「祝福を受けて、壁を越えることのできた灰羽は、もうその世界から抜け出すことができるのよ。そして羽は白くなる。あなたはもう灰羽ではなくてもいいの」


「クラモリ!ここはどこなんだ!なぜクラモリがここにいて、羽が白いんだ。私は、私は一体どうなったんだ!」


一度にたくさんのことが舞い込んできてレキは混乱していた。見知らぬ部屋で目が覚めると数年前に祝福を受けて巣立ったクラモリが目の前にいる。そして灰羽だったはずなのに羽が白くなっている。


レキが混乱を抑えられず動揺しているとクラモリは優しくレキを抱え込み、頭を撫でながらこう言った。


「レキ、レキ、なにも言わずいなくなってごめんね。私はあなたに会いたかった。きちんとあなたにお別れを言いたかった。けど、これからは一緒にいられるから」


そう言ってクラモリは今までの経緯を全てレキに話した。灰羽は、祝福を受けて壁を越えると灰羽ではなくなり、羽が白くなって新しい生活が始まる。グリの街にはもう戻れないけど、記憶はそのままで今度は連盟の規則や、街の中に閉じ込められることなく、自由に外の世界に行くことができる。生活の保障はもうされていないけど、自分の好きな時に働いて、好きな街に行くことができる。


「そう、壁の外にも連盟と通じてる機関があるから、これをもらいに行きましょう」


クラモリはそういうと、一つの手帳を見せてくれた。それは、連盟からもらった灰羽手帳とよく似ていた。


「この手帳はね、灰羽だった時の私たちの暮らしを保障してくれる手帳とは違うけど、病気や怪我や事故みたいに困ったことがあった場合の保険なの」


なるほど、それは現代でいう全ての事柄に対する保険証のようなものだった。


灰羽のときは、貨幣は手帳のページだったけど、これからは自分の好きな仕事で、好きなようにお金を稼いで生活できるのよ。レキもこれからは好きに生きなさい。私はここにいるから、私と一緒にいたかったらいてもいいのよ」


混乱していたレキはすぐに事態を把握し、希望に満ちた。これからは自分の好きなように生きれる。クラモリとも一緒にいれる。自分の罪憑きに悩んだりしなくてよくなる。


それからレキはクラモリにあったことを全部話した。クラモリがいなくなって寂しかったこと。ヒョウコと壁を越えようとして罰を受けたこと。自分の後にヒカリとカナとクウとラッカが誕生したこと。クウが先に巣立ちの日を迎えたこと。そしてラッカに自分が救われて祝福を受けられたこと。


レキは、灰羽の街にいた暗い数年間がまるで嘘だったかのように話し始めた。自分に救いが訪れ、許された後に、大好きだった人に出会えた。ずっとずっと会いたかった。会って話したいことがたくさんあった。そしてそれが叶ったとき、レキは天に昇るほどにも幸福だった。


「そういえば、クウは?」


レキはとっさにクラモリに尋ねる。


「クウ?ああ、あの金髪の少し小さい子?彼女もこの街にいるわよ」


「クラモリ!クウを知ってるの?クウに会ったの??」


「レキがここに来る少し前にあの子は来たのよ。レキの事、色々話してくれた。壁を越えてから、連盟に保護されて眠っていたレキをここに連れてきてくれたのも彼女なのよ。」


「私、クウに会いたい!クウはどこにいるの?」


「たしか、今日は仕事がないから街に出かけるって言ってたよ。ごめんね、レキ。私は彼女とは一緒に住んでいなからよくわからないの」


「わかった、ありがとう。ここから街は近いの?」


「うん、ここは街のはずれの建物だけど、街は建物を出たらすぐに見えるよ」


「クラモリ、ありがとう。私クウを探してくる!」


それを聞くと一目散にレキは部屋を出て街へ飛び出して行った。


なるほど、部屋もオールドホームによく似ていた大きな建物だった。立派な石造りの家だ。建物の表札にはそこが元灰羽の証であるかのように白い一本の羽が刺さっていた。


そしてレキは街にでる。グリの街ではスクーターがあったけど、今度はない。走っていく。けどオールドホームの時と違って建物から街は離れてないし、すぐに行ける距離だから楽だった。


「なんだかまだ灰羽だった気分が抜けてないな。カナの名前を呼びそうになっちゃったよ」


そう言ってクスリと笑いながら走るレキ。クラモリに会えて話が出来たこと、羽が白くなったこと、新しい生活の指針が決まっていること。レキは嬉しさと希望に満ち溢れながら、クウを探しに街へと駆けて行った。