#9 ネムの焦燥 時の流れ そして夏

シルバーホームに戻ると、ネムはレキの頰を思いっきり叩いた。



「レキ、レキ、自分が何をやったのかわかってるの!?あたし、すごい心配したし、もう少しで自警団に捕まってまた罰を受けるところだったんだよ?いくらクラモリがいなくなったからって、さびしいのはレキだけじゃないんだよ!?」


がっくりとうなだれていたレキはネムに叩かれるとようやく口を開いた。


ネム、壁の中でも迷惑かけたね。ごめん。あたしはもう、またこの思いをしなきゃいけないとおもうとやりきれなかった。クラモリがあたしのそばに一緒にいるって言ったのに・・」



「またいつか会えるじゃない!今はもう灰羽じゃないし、レキだって罪憑きじゃないんだよ?」


たしかにこの街からでて好きな街に行くことは可能だった。しかし罪憑きであったレキにとって、保護下の元から離れるのは不可能だったし、何よりも手帳の更新は契約期間を満たさねばならなかった。灰羽だった時と違ってルールは厳しくはなかったが、今のレキにとって、街を出て行くことはほぼ不可能だった。


「壁を超えても、罪憑きの呪いは消えないのか・・。あたしはもう許されたと思っていたけど」


後日、再びネムは連盟を訪れた。なぜここは壁の外なのに、このような目にあわなくてはならないのか。休暇をとって、クラモリのいる街へ行くことはできないのか。



「残念ですが・・・。一旦仕事の契約を結んでしまった以上、この街から出ることは無理です。ネム、あなたであればそれも可能ですが、レキの場合は罪憑きですので、保護者が必要です。正当な理由もなく保護者であるネムとレキ、二人の白羽が何日もこの街をあければ、我々はあなた達を処罰しなくてはならない」



「けれど、ここはもう壁の中ではないのでしょう?灰羽の時のように縛られたりはしないはずです!なぜ会いにいく事すら出来ないのですか?」



ネム、あなたはもし我々がある日突然ここを留守にしたらどう思われますか?あるいはあなたの働いている仕事場が閉鎖したらどうなりますか?それと同じ事です。白羽が個人の都合でこの街を何日も空けるのは許されません。白羽は我々の掟にしたがって生活があるのです。もし、我々の紹介で就いた仕事を放棄すれば我々はもう保証も出来なくなります」



ネムは何度も粘り強く交渉をしたがやはり許可はもらえなかった。白羽が連盟によって好条件で保護されている以上、また、勤続年数の短い新規である以上、融通を利かすことは不可能だった。



ネムは家に戻るとレキに経緯を話し、とにかくレキを見守ることにした。レキは仕事を続けていたが、元気が無くなっていたので、主人が心配して何日かの休みをくれた。ネムはクウとヒョウコに現状を説明し、三人でレキを見守ることにした。クウはよく差し入れをもってシルバーホームにあそびにきた。ヒョウコはもうあまり干渉をしてこなかったが、レキが心配で時々見舞いにきた。そのおかげもあってか、レキは徐々に元気を取り戻り、仕事にもきちんと復帰できた。



「レキ、元気になってよかったね!まあクラモリがいなくなったのはあたしも寂しいけど、またいつか会えるよ!」



クウはクウなりにレキに気を使って励ました。ヒョウコは特に言葉をかけなかったけれど、とにかく元気になったレキをみて安心していた。


「そうだね、ありがとうクウ。ネムにも迷惑かけてごめん。あと、ヒョウコにもまた助けれもらえたね。今度お礼しにいかなきゃ」



そうしてまた何気ない生活が何日かしていると、春から夏になった。そして再び一通の手紙が届いた。



ネム、レキへ

オールドホームの灰羽が再び巣立たれし。すぐにこちらに来たれし 白羽連盟」



ネム、また誰かが巣立ちの日を迎えたって!すぐに行こう!」



クウの家にも当然その手紙は届いており、三人ですぐに連盟に向かった。冬が終わり、春になるとき、ネムがこちらにやってきた。そしては今は春が終わり、初夏が訪れ、またあらたな灰羽がこのフラの街にやってきたのだった。