#10 再び 灰羽の記憶 新たな試練

連盟から手紙が届くと、ネムとレキとクウはすぐに向かった。次はどの灰羽がこちらに巣立ってきたのだろう?


「だーかーらー、そんなまどろっこしいことはいいって。早く手当と手帳ちょーだいよ」



「そうはいきません。きちんとこちらのルールを聞いて頂かないと困ります。ネムもちゃんと聞きましたよ。先ほど通知を郵送しておいたので、そろそろこちらに到着する頃だと思われますが」



「まーいいや。あたしはそのシルバーホームって所に入居するよ。レキもネムもいるんでしょ?で、クウだけ職場に住み込みでしょ?あととりあえず職場は前回と同じ時計塔でいいって。時計塔はあるの?」



「はい、ございますが。すみません、カナ。もう少し最後まで話を聞いてもらえますか」



トーガがカナに壁の外のルールを説明する。カナは随分とめんどくさそうに返事をする。



「あ、カナだ!カナー!ひっさしぶりー!」



クウがいの一番にはいってきてカナに挨拶をする。カナは驚いて声のした方に振り向くとクウがいた!



「クウ!」



カナは急いでクウに駆け寄る。そして笑いながら抱きつきこういった。



「クウ!久しぶりじゃねーの!会いたかったぞコノヤロー、元気だったか!?」



「うん、あたし元気だったよ!カナもこっちに来たんだね!ネムとレキもいるよ!」



「カナ!」



「こっちに来たのはカナだったんだね!カナ!久しぶり!」



ネムとレキが入ってきてカナの名前を呼ぶ。カナは二人を見て安心する。ああ、こっちの世界でもまた二人に会えたんだなと。



「じゃあさ、もう三人が迎えにきてくれたからあたしはいくよ。あとは詳しいことはネムに聞くからもういいかな?」



「わかりました。ではこちらは手帳と手当です」



トーガが若干呆れたようにカナに渡す。カナは受け取ると三人と一緒にすぐに寺院を後にした。



「では、色々ご説明ありがとうございました。また何かありましたらこちらに訪問させていただきます」



カナは礼儀正しくお辞儀をするとクウを連れてすぐに出ていった。ネムはトーガから現状を聞き、一言謝った。まったく、カナの態度は壁の中だった時と全然変わっていなかった。



シルバーホームに着くと、三人はカナの巣立ち祝いということでお祝いをした。カナもこちらへ来たということでネムは少し安心した。これでレキを見守る仲間がもう一人増えたことになる。



ネムがいなくなった後さ、新しい双子の灰羽が生まれてさ、ヨミとヤミっていうんだけど、そりゃもうラッカが張り切っちゃってさ」



カナは壁の中で三人が巣立ったあとのことを話し出した。レキにとってはすごく懐かしい日々のように感じた。ラッカか。今、元気だろうか?



「でさあ、双子なんだけど、運悪く二人とも罪憑きでさ、ラッカがもう心配して色々世話焼きしてたんだけど、二人ともどうも活気がなくてさ」



「それで、あたしもラッカもヒカリも色々頑張って五人で生活してたんだけど、結局ヒカリに一番懐いててさ。まあ双子だから二人とも罪憑きでも一人だけより安心だよな。あっ・・・。」



カナはそういうと、レキの方を一瞬見て口を閉ざしてしまった。やはり祝福を受けられたといえど、レキの前ではあまり言っていいことではなかった気がした。レキは特に気にしたような素振りは見せなかったが、カナは少し気が引けた。



「そういえば、レキ、少し痩せた?」



カナがレキの様子の変化に気づく。壁の中でもそれなりに不安定だったけど、こちらに来てからも若干の変化をカナは見落とさなかった。



「あ、ああ。まあね。ちょっと最近食欲がなくて」



「あれ?あとさ、あたしも最初は驚いたけど、こっちでは灰羽じゃなくて白羽なんだよね?レキの羽、下の方ちょっと灰色じみてない?目の錯覚かな?」



カナは持ち前の観察力でレキの羽の異変に気づく。ネムの表情が少しこわばった。クウは特に変化に気付いていたなかったようだが、レキは自分の羽を見て少し困惑した。



「あ、ああ。これね。さっきちょっと汚しちゃって。だからだと思う」



「汚した?ああ、こっちでもまだ絵描いてるの?絵の具で汚したの?そういえばあっちでもラッカがレキの絵を嬉しそうに見てたな」



「カナ!」


ネムが強い口調でカナにいう。レキは青ざめた表情で、食事を終わらせ部屋から出て行った。



「ちょ、ちょっと綺麗にしてくる。まってて」



レキが慌てて出て行った後に三人は唖然としてしまった。ネムは言い知れぬ不安にかられ、カナは来て早々何か得体の知れないものに踏み入れてしまったような気がした。



「えっと、あたし、まずかったかな?」



カナは少し反省したように俯く。来て早々こんな感じになるとは思ってもいなかった。



「レキ、どうしたんだろう?やっと元気になったと思ったら、羽がちょっとおかしくなってるし」


クウも不思議そうにレキを見ていた。ネムは食事を終わらせると言い知れぬ不安の中、レキの現状も確認せずにすぐに連盟に出向いた。