#15 クウとの再会 ラッカ シルバーホーム
ラッカが目覚めるとそこは見たこともない部屋だった。なぜ巣立ってからの記憶がないんだろう?気づいたら今いる部屋で目が覚めた。それはまるで灰羽として繭から生まれた時と同じ感覚だった
「えと、ここは?」
ラッカはとても混乱していた。たしか、ヒカリとヨミとヤミと一緒に住んでたけど、巣立ちの日が来たから巣立ったはず。壁を超えて、なんとなく進んだ先に何かがあって、突然そこで眠りについた?んーダメだ思い出せない
ガチャと扉が開き、誰かが部屋にはいってきた。
「ラッカ!目が覚めた!?ひさしぶり!」
「クウ!」
ラッカはクウを見て物凄く驚いた。壁を越えれば会えると思っていたが。まさかいの一番にクウに会えるとは思っていなかった
「クウ・・。」
ラッカは涙を流しながらクウに抱きついた。クウがいなくなってからどれだけ寂しかったか。どれだけクウに会いたかったか。
「ラッカ!会いたかったよ!ちゃんと羽も白くなってるし、祝福を受けられたんだね!」
「え?羽が白くなった?」
ラッカが驚いて自分の羽を見ると羽が白くなっている。本当だ。灰色じゃない。白色だ。
「えと、クウ、あたしなんで眠ってたの?それにここはどこ?なんでクウがここに?あとなんで羽は白いの?」
レキの時と同様、ラッカもこの状況に混乱していた。クウに会えたことはとても嬉しいことだったが、やはり目覚めていきなりこの状況では混乱する
そうするとクウは白羽についてと街のルールなどについてラッカに説明した。眠っていたことを公には話さなかったが、クウはこの街で起こったこともいろいろ話してくれた。ラッカが罪憑きであったからその保護者はクウが引き受けたことも
ラッカはその話を聞いた後にとても嬉しそうに壁の中の話をクウにした。クウがいなくなってどれだけ寂しかったかということ、クウの声を聞き壁に触って罰を受けたこと、自分は罪憑きだったこと、レキが罪憑きから抜け出して壁を越えたこと、自分の後にヨミとヤミが生まれたこと、そしてなによりもただただクウに会いたかったこと
「ラッカ・・・。あたしも同じだよ。ラッカに会いたかった!ラッカ、覚えてる?最後の雨の降った日に、あたしがラッカに別れを告げたよね。あの時、心のコップが満たしてくれたのは、きっと最後はラッカだと思ってるんだ。」
「うん、あの時はすごく悲しかった。森に入ってみんなでクウを探しに行ったんだよ。カナがさ、時計塔の鐘を鳴らして、森に迷わないようにっていってさ」
ラッカは自分の一番会いたかった友達にまた会えたことでとても幸せだった。そして自分の保護者がクウになってくれたことも幸せだった
「そういえばここはどこ?レキ、ネムやカナは一緒に暮らしてないの?」
「えと、あのその」
クウはラッカに聞かれて一瞬困ってしまった。そういえばレキの今の状態をラッカに見せて大丈夫だろうか?いや、レキにはきっとラッカが必要なのだ。そう思いクウはラッカに本当のことをすぐに打ち明けた
「え?レキがそんなになってるの!?クウ、今レキはどこにいるの?あたし、すぐに会いたい!」
ラッカの表情が一変した。クウからその事実をきくと、途端にレキが心配になった。ただすぐにでもレキに会いたかった
「わかった。今日はあたし仕事休みだからレキのいる家まで行こう!ネムもカナもいるからラッカに会えたらよろこぶとおもう」
こうしてクウはラッカを連れてシルバーホームへ向かった。ラッカはクウに再び会えた喜びのあとにレキの現状を聞いて気が気ではなかった。とにかく早くレキに会いたい!そう考えながら走っていると、二人はシルバーホームにたどり着いた
#16 廻り合い 言葉 再生
「さあ、着いた。ラッカここだよ。シルバーホームっていうんだ」
「わあ、広い!オールドホームと似てる感じだね。というか街がグリの街にそっくりだね。やっぱり」
シルバーホームはオールドホームと違って、立派な石造りの家だったが、裏に空き家が何件もあったため、いくらでも人が住めた。今は三人しか住んでいないが、いずれはみんなで住むことになるだろう
ラッカはシルバーホームを見て、灰羽だった頃を思い出した。そういえば、あの時も、街に行くときはクウが一番最初に手を引いて連れて行ってくれたっけ
家の中に二人が入ると、カナがレキにスープを飲ませていた。レキは全部飲むことができず、口からポタポタとこぼしていたが、それでもどうにか胃には入っているようだった
「カナ!レキ!」
ラッカが二人の名前を呼ぶ。カナが手を止めくるりとこちらを向いた。ああ、新しい白羽はラッカだったのか!けれどついこないだまで灰羽だったカナにとってあまり懐かしい感じはしなかった
「ラッカ!よかった!ラッカが来てくれたんだね。あのさ、レキがもうこんな感じでさ・・。」
カナは若干涙ぐんで下を向いてラッカに訴えた。ネムは違う部屋で睡眠をとっていた。ラッカは一目散にレキの元へ駆けつけ、レキの手を握ってレキに訴えた
「レキ、レキ、私がだれかわかる?ラッカだよ?覚えてる?いつかまた会えるよね?って言ったけど、こんな再会だとは思わなかった。レキ、辛いことたくさんあったね。私、レキに会いたくてここまで来たんだよ?レキ、私、私・・。」
ラッカは涙を流してベットの中にうずくまった。レキは魂が抜けたようになっていて、話すことがほとんどできなかったが、ラッカの方をちらりとみてこう言った
「ラッ・・カ?」
「え?レキ、私がわかるの?」
「ラッカ・・。」
レキはラッカを見るなりそう言った。カナもクウも驚き、レキの方を見た。錯乱してから全く話さなかったレキが口を聞いたのだ
「おーいネム!レキが喋ったぞ!」
カナは部屋を飛び出してネムを起こしに言った。ネムはカナに起こされ飛び起きてレキのいる部屋に行った。そこには久々に見るラッカの姿があって驚いた。そしてネムはとても心強い味方が来たと思い、安心をした
「ラッカ!ラッカなのね!ごめんねラッカ、保護者のあたしが不甲斐ないばっかりに、レキがこんなになっちゃって。レキと再会するの楽しみにしてたよね」
「ううん、ネムのせいじゃないよ。レキはきっと何かまだ重いものを抱えてるだけだと思う。だからきっとこれからそれが外れていけば元に戻るよ」
「けど、ラッカが来てくれたおかげでラッカの名前を呼ぶことができたんだよね。レキ。よかった。少しでもこれからよくなるといいけど」
ラッカが来たことで三人はとても安心した。人数が増えただけでなく、ラッカのおかげでレキが少し元気を取り戻りていく様子も分かった。レキは錯乱してから一歩も外に出れなかったが、街から車椅子を買ってきて、それに乗せるとようやく外にでることもできるようになってきた
#17 秋口 ヒョウコ ラッカの想い
ラッカがフラの街に来てから数日が経った。
ラッカはシルバーホームに住むようになってから、本来ならカナが連盟からの斡旋で時計塔の仕事についたように、寺院の掃除の仕事に就く予定だった。しかしレキがこのような状態になってしまったことと、ネムが今まで仕事を休み、レキの介抱に忙しくなったことから、ラッカの保護者はクウだったが、ラッカもネムと同じくレキが回復するまでサポート役として面倒を見ることの許可が下りたのだった
ある日、ネムとラッカはレキを車椅子に乗せ、外に散歩に出た。季節はすっかり秋になっていて、クウも職場での賃貸の契約期間更新の時期になり、シルバーホームに同居していた
「レキ、大丈夫?」
ラッカが車椅子を押して外に出ながらレキに話しかける。レキは相変わらず何も話さなかったが、自傷行為ももうしなくなっていた。ただどこか遠い夢を見ているよな表情をいつも浮かべていた
「ラッカが来てくれて助かったよ。あたしとカナ二人でいつも観てたから大変だった。時々クウが来てくれたのがすごく助かったんだけど、そういえばこなくなったやつがいるよのね」
「え?もう一人誰かいたの?」
ラッカが不思議そうにネムに問いかける。
「うん、レキがさ、こうなっちゃったのはクラモリがいなくなってからだって話はしたよね。自傷行為するまえは元気が無くなってっただけで普通に仕事にも行ってたんだけど、その時レキを止めてくれて、お見舞いにもきてくれてたんだけど・・。」
ネムがそう話していると、向かいから一人の男性がこちらに向かって歩いてきた
「あ、ヒョウコ!」
「え?ヒョコさん?」
そう、それはヒョウコだった。噂をすれば影。ちょうど今ネムが話していた本人とばったり出会ってしまった。ラッカは壁を越えて以来、会うのは初めてだった
「おう、ネム。あ、えーとそれにボロ屋敷の癖っ毛の、えーとラッカっていったかな?久しぶりだな。もうこっちにきたのか。」
「あ、こんにちは。お久しぶりです」
ラッカはぺこりとお辞儀をして挨拶をする。ネムは引いていた車椅子の手をガタガタと震わせ下唇を噛んでいた。らっかにとって、ネムが怒りをあらわにしているのがわかった
「ヒョウコ!どうしてもうこなくなっちゃったの?レキが以前よりずっと酷くなってこんなになっちゃってるんだよ?以前はきてくれたでしょ!?あなたは、あなたはレキが心配じゃないの!?」
ネムがとても強い口調でヒョウコに言葉をぶつける。ヒョウコは帽子のつばを深く被り、こちらを見ようとしない。そして次の瞬間口を開いた
「ネム、すまなかった。俺はレキがこうなったことは悲しい。けど、本当はこの事実を受け入れられなかった。もうレキは元に戻らないんじゃないかってずっと思ってた。それに・・・。」
ヒョウコはつばを深くかぶり涙ぐんだような口調でこう話す
「俺はもうレキにしてやれることはなにもないんだよ。あとはお前たちの問題だ。ここは壁の外だけど、もう俺はレキに何もしてやれない」
「そんなことない!」
ラッカが言い返す
「レキだって、ヒョウコさんが来てくれたら嬉しいよ!ヒョウコさんが一緒に頑張って支えてくれたら元に戻るかもしれない。だから、そんなこと言わないで一緒にレキを救う方法を考えてよ!またあの時みたいに!」
ラッカは壁の中でミドリとヒョウコがレキの手助けをしてくれたのを思い出した。そして最後の最後にヒョウコとミドリにレモンのスフレでお返ししたことも
「あの時はあの時さ、今は違う。とにかくもう俺はダメなんだ!」
そう言ってヒョウコはそのままきた道を戻って走り去っていった。ラッカは慌ててヒョウコの後を追った。
「ラッカ!」
「ネム、ごめん、レキのことよろしく!私、ヒョウコさんと話してくる!」
ラッカはそう言ってネムにレキを託すと一目散に逃げていくヒョウコを追いかけた。晴れた秋の日の日中、ラッカはただヒョウコと話がしたくて必死だった
#18 迷走 ミドリ 二人の真意
「ヒョウコさん、待って!」
懸命に走るヒョウコの後を追いかけるラッカ。シルバーホームからでて、街の方にいく途中だった。ちょうどヒョウコは街に駆けていったのでラッカは必死についていった
街まで走っていくと、ヒョウコはどこか路地裏に入っていった。ラッカは後をつけるが姿がない。どうやら見失ってしまったようだ
「あーどうしよう」
ラッカはとりあえずその辺りを見回し、ヒョウコを探すが見当たらない。完全に逸れてしまった
「えと、近くにいる人に聞いてみよう。あれ?」
そうすると、どこかで見たことのあるツインテールの女の子の白羽が街を歩いていた。あれはたしか
「ミドリさん!」
ラッカが大きな声を上げて話しかけると、その少女はくるりとこちらを向いた。それはラッカが呼んだ名前の通り、廃工場の灰羽だったミドリだった
「あら、お久しぶりね。こっちでもまた会えるなんて」
「うん、久しぶり。もうこっちにきてたんだね。あのさ、私今、ヒョウコさんを探してるんだけど、知らない?」
「ヒョウコ?なんでアンタがヒョウコを探してるのよ?」
ラッカはそう言われると、一部始終をミドリに話した。レキがおかしくなって、もう話すこともできなくなっているのに、以前は見舞いに来てくれたヒョウコさんがこなくなってしまったことをネムから聞き、本人はもう何もできないことを悟っているということ
「そう・・・。あたしもつい最近こっちに来たばかりだけど、それは知ってたわ。けどごめん。ヒョウコの言う通り、もうあたしたちがレキにしてあげられることは何もないと思うの」
「え?それはどういう・・・。」
「ヒョウコは、自分のやったことの罪の重さを知ってるのよ。自分がレキを傷つけたって思ってね。レキはきっとそう思ってなかったと思うけど。とにかくあたしたちは、レキに迷惑かけられたってずっと思ってたけど、迷惑かけたのはあたしたちだったって、気づいたの」
ミドリはそう言うと、少し下を向いてラッカに目を合わせようとしなかった。そしてラッカはヒョウコとミドリの言っていることがあまりよくわからなかった。なぜ彼女たちが自分に負い目を感じるようなことがあるのか?
「えと、ちょっとよくわからないんだけど、話してくれない?あなたたちがどういう考えをしてるのか、あたしただそれが知りたいだけだから」
「うん、いいよ。あたしもちゃんとあなたたちに話そうと思ってたところ」
「余計なことすんなよ!」
後ろから大きな声が聞こえてきたかと思うと、それはヒョウコだった。ミドリから一部始終を聞けるかと思っていたが、ラッカの探し求めていたヒョウコが自ら現れたのだった
「ミドリ、レキのことは俺もやった問題だろ?お前には関係ないんだから勝手なことこいつに言うなよ」
「何よ!そんなこと言うならあんたがちゃんとこの子かネムに言えばいいじゃない!あんたが思ってること代弁してあげようとしてるだけなのに、文句言われる筋合いはないわ!」
「いやあの、まあまあ、落ち着いて」
突然始まった口論に、ラッカは仲裁にはいる。レキのことで一体なぜそんなに揉めることがあるのだろう?
「わかった。じゃあ俺は俺で話すよ。本当はネムにも言おうとおもってたけど、お前にだけ話すから、それでいいな」
そういうと、ヒョウコはレキについての旨のうちをラッカに語り始めた。ラッカは黙ってそれを聞いていた。秋が深くなってきた時、レキの心は深い闇に沈んでいたが、ラッカはただ真相が知りたくてヒョウコの話を黙って聞いていた
#19 会話 真相 二人の想い
「まずはあたしから話すわ。とにかくヒョウコはもう自分のやったことでレキだけじゃなくてあんたたちボロ屋敷の灰羽、今は白羽ね、に申し訳が立たなくてしょうがないのよ。特にネムにね」
ミドリが先陣を切って話す。え?申し訳ない気持ち?一体どう言うことなんだろう?だって汽車に乗って無断で外にでようとするときに止めてくれたのがヒョウコさんだったんじゃ?
「まずさ、壁の中であたしたちにできることって本当はレキを壁の外に連れ出すことじゃなくて、現状を受け入れさせて様子を見るべきだったでしょう?ネムが一緒に住んでたんだからネムと協力したりしてさ」
「だけどヒョウコのバカがレキを連れて楔を打って壁を登ろうとしたりするからあんなことになったし、それでそれはヒョウコが勝手にやったことだし止められなかったあたしにも原因があるのにレキのせいにしてレキに酷いこと言ったり、石を投げたりしたのよ」
ラッカはその経緯を壁の中でミドリから聞いたのを思い出した。そういえばそんなことがあったな
「あのときレキを一番心配してたのは、きっとネムだったのよ。それなのにヒョウコはヒョウコで勝手な行動にでるし、あたしはあたしでヒョウコの怪我をレキのせいにするし。あたしたちはお節介なつもりでも自分勝手だったの。それに気づいたわ。」
「そんなことない!レキはヒョウコさんにもミドリさんにも感謝してるよ。あんなになったのはレキが自分で起こしたせでもあるのに・・・。」
「たしかにそれはあるわね。けどネムはどう?ネムは誰よりもレキを心配して、レキと一緒に住んでたのに、ネムのことを何も考えず、あたしたちは迷惑をかけた。だから」
「だからもう、俺はこっちの世界ではレキやお前たちには何も干渉しないことにしたんだ」
ヒョウコがミドリの話の途中で割って入った
「俺、レキの為、レキの為って思ってたけど、結局は自分のエゴでやってた事に気づいた。だってフラの街に来てからレキが壁の中と同じ行為をするなんて思ってもなかった。だけどもしあのときと同じことをするなら俺はレキに手を貸してクラモリのいる街まで行かせてやればよかったんだ。それを俺が奪った」
「俺はその時、レキのことを考えるよりも、多分ネムとかお前たちシルバーホームの白羽のことを考えて行動してた。壁の中のことから学習したといえば聞こえはいいけど、結局俺のやってた事って自分勝手だったんだよな。」
「けど、けど、ヒョウコさんが止めてくれたおかげでレキは捕まらないで住んで、ネムもきっと感謝してるよ!だから・・・」
「そう、結果としてはあれでよかったんだと思う。だけどもう、俺たちはお前たちとは一緒に住んでない。だから今、シルバーホームで起こってることはお前たちの問題だから、俺たちが干渉することじゃないと思うんだ。お前たちで解決することだろ?もう俺らにレキにもお前らにもできることはなにもないって思ったんだ。それだけだよ」
「そう、だからごめんね。これはあたしとヒョウコで話し合ってだした結論だからもう変える気はないの。勿論レキのことはあたしたちも心配してるよ。そこだけはわかってね。」
ラッカはそれを聞くと、ガクッとうなだれてしまった。そうだったのか。けどこれも受け入れなくちゃいけない事実なのかもしれない。
「わかりました。どうもありがとう。レキがまた元気になったら是非会いに来てください。レキも二人と会いたがってると思うから」
ラッカはそう言うと、街からネムとレキがいたシルバーホームの方へ歩き始めた。二人から真相を聞いて、どうも納得ができなかった。しかし同時にラッカはこのときある重大な決断をしていた。
#20 決意 保護者 真摯
街から自分の来た道を辿って戻るラッカ。一歩一歩の足取りが重い。こんな時、レキがいつも一緒にいてくれた気がする。
「あ、ラッカ!」
ネムの声がした方を向くと車椅子にレキを乗せたネムがいた。どうやら少しづつでも後をつけてきてくれていたようで、戻るとすぐに会えた
「ラッカ、ヒョウコには会えたの?ヒョウコなんか言ってた?」
「うん、ネム、あのね。」
そういうとラッカは重苦しい雰囲気の中、二人から聞いた経緯を話した。ネムはそれを聞くとなんともいたたまれない気持ちになって表情がこわばった
「そう、ヒョウコとミドリがね。けど、たしかにそれは言う通りね、これは私たちの問題で、あの子たちには関係ないのかもしれないね。あの二人の言ってることは正しいのかもしれない」
「うん、だけどネムが気にすることじゃないよ。今は私もいるし、カナだっている。クウももうこっちに一緒に住んでくれるから、四人でレキが良くなるまで協力しあおうよ、仲間なんだから」
「そうね。ありがとうラッカ。本当のことを言うと、私はラッカが来てくれて嬉しかった。レキのこと、私だけじゃどうにもできなかったから。やっぱり、ラッカじゃないとだめね」
「そんなことないよ。レキにとってネムは必要だよ。あ、けどね。私、私、ちょっと決めたことがあるの」
「ん?なにを決めたの?」
「ここじゃあ話せないから、一旦シルバーホームに戻ろう。クウとカナにも話しておきたいから」
ラッカがそう言うと三人はシルバーホームまで戻った。カナとクウは仕事でいない。二人は夕方になって二人が帰ってくるまで待っていた。カナはここに戻ってくるし、クウはラッカの保護者であるため、一度はラッカに会いにくるのは必然だった
そして夕方になり二人が帰ってきた。ラッカはなにかを決意した目で話し始めた
「あのね、クウ、カナ、ネム、私、実は今日、心に決めたことがあるの」
ラッカは重苦しい雰囲気で話し出すかと思いきや、わりとさらっと話し出した。ただ目はもう決断をしたようなきりりとしていて、腹をくくったような表情をしていた
「私、今日からレキの保護者になる。私がレキを救うの。レキのこと、治るまでも治った後も私が責任を持って管理する!」
ラッカからの突然の告白に三人は驚いた。ラッカがレキの保護者になる?そもそもラッカも罪憑きだからその保護者はクウなはずでは!?
「え?じゃあラッカ、ネムからラッカにバトンタッチするってことでしょ?ラッカの保護者はどうするの?」
「クウ、私のこと、見守ってくれててありがとう。私の保護者はレキにお願いする。だから、私とレキは互いに罪憑き同士で保護者同士になるの」
三人はラッカがなにを言ってるのか全く理解できなかった。レキの保護者がラッカなのはまだわかるが、ラッカの保護者がレキに!?つまり相互保護者ということか!?
「え?けどラッカ、レキはラッカのことは観れる状態じゃないし、とてもそんなの無理よ。私はラッカがレキの保護者を引き受けてくれるのは助かるけど、いくらなんでも無謀でしょ」
「うん、ネム。無謀なのはわかってる。けどレキの為にも自分の為にも、私やってみたい。少しでも早くレキを元どおりに戻したいから。私がずっと一緒にいれば、レキも戻ってくれるんじゃないかって」
三人は、このむちゃくちゃな話をラッカが本気で言っていることを理解した。ラッカの本気の決断を見て、それを了承した。しかしあとは連盟がそれを受け入れてくれるかどうかだが
「まあ、みんなで連盟に行ってトーガに説明してみようよ。今までない事例だろうけど、ラッカがそれくらい本気ならありうるかもね。あたしも協力するよ」
カナがそう言って五人で連盟に行くことを決めた。ラッカのこの無茶苦茶な提案は果たして通るのだろうか?そしてレキの安否はいかに。この先どうなっていくのだろうか?
#21 交代 相互 異例
夕方
五人はシルバーホームを出て連盟に向かった。ラッカの言っていた相互保護者の許可を得る為だ。果たしてこの申請は通るだろうか?
「五人で連盟までいくのって初めてだね!なんかみんなでこうやっていけるのって嬉しい!あとはヒカリもいればいいのに!」
クウがそう言って楽しそうにはしゃぐ。そういえば五人揃って連盟に行くのははじめてだ。レキは相変わらず話をしなかったが、みんなで行けることに嬉しさを感じていた
「ヒカリ・・・。やっぱりまだこっちにはこないのかな?ヨミとヤミもいるし」
ラッカがヒカリを思い出して懐かしそうに話す。
「まあ、あたしらはさ、あたしらでやっていってるのと同じで向こうは向こうでやってんじゃないの?あの双子だってヒカリに一番懐いてたしさ。心配しなくてもそのうちヒカリもこっちに来るって」
「うん、カナ。それはわかってる。けどやっぱり、レキが治るには、レキが一緒に過ごした人が必要なんじゃないかって。その分をこっちではクラモリさんが埋めてたみたいだけど・・・。」
ラッカがレキの心配をよそにヒカリを懐かしむ。そういえばクウもレキもこちらに来てからヒカリにだけはまだ会っていない。ヒカリはいつ来るのだろう?
そう言って話しているうちに連盟にたどり着く。寺院の中に入り、五人はトーガに会い、ラッカが今の考えを話し、相互の保護者であることを提案した
「それは不可能です。ラッカ、あなたは罪憑きでありましたね。その保護者はクウです。そしてレキの保護者はネムです。それは変えることのできない事実です。残念ですが諦めください。」
「どうしてもダメでしょうか?」
「罪憑きである白羽には保護者が必要です。ラッカがレキの保護者になるならともかく、レキが今のラッカの保護者になれるとは思いますか?残念ですが却下です」
「ではレキを元に戻す為にクラモリをもう一度こちらへ呼んでください」
ネムが強い口調でトーガに話す
「私たちは連盟の規則に従って行動しています。クラモリもそうでした。レキがこのような状態になったのは、少なくとも連盟の勝手なルールによる原因でもあります。しかしあなたたちはそれはレキの問題であると言って、こちらの提案に一切耳を貸しませんでしたよね?私もレキが治るまで休暇を多くもらい、レキも手当をいくらかいただいています。こちらの提案に耳を貸さないのであれば、やはりクラモリを呼んでいただくことをお願いします」
「そうだそうだ!クラモリを呼べ!連盟は規則規則って普段から言ってるけど、レキがこーなっても何にもしてくれないじゃないか!あたしたちだって大変なんだぞ!」
カナも強い調子でネムの言い分に乗っかる。クウは口を出さなかったが、二人と同じ気持ちだった
「トーガ、お願いします。もし私が保護者になればネムはちゃんと職場に復帰できます。クウも私についてこなくても大丈夫になるので、時間を自由に使えます。決してこちらには迷惑をかけません。どうかお願いします」
ラッカは頭を下げ真摯にお願いをした。三人も同じようにそれに続いた。トーガは困り果ててしまった
「わかりました。とは言えません。今の現状では。しかしレキがこうなったのも我々に責任がないこともないです。そしてネムにもカナにも迷惑をかけているのも事実ですね。ラッカ、ちゃんとレキの面倒を見られますか?」
「はい、私がレキの面倒を見ます。私がレキを守ります。そしてレキもきっと私が困ったら助けてくれます。私たちはみなそうやって助け合ってきたのです」
トーガはなにやら奥に行くと他のトーガとボソボソと話し合っていた。おそらく相当困っていて、今までにない事例だからなんとも言えないのであろう。そして少しすると、奥から何人か来て、話し始めた
「わかりました。ではラッカの保護者はレキ、そしてレキの保護者はラッカといたします。本日からそう決まりです。しかし一度決めたこの提案は元には戻せません。それでいいですか?」
「ありがとうございます!はい、それで構いません!」
四人は笑顔になると、すぐにシルバーホームに戻った。レキは相変わらず表情がなく話もせず元気もなかったが、その日からラッカがレキの保護者となった。
「レキ、レキ、大丈夫?今日から何があっても私があなたを守るから。心配しないで。きっとレキを救ってみせる。」
ラッカはレキにそう問いかけると、レキは少しだけなにかを感じ取ったような気がした。目の前にいるのはラッカ?レキはあまり感知することはできなかったが、ただなんとなく安心するような様子も時折見せていた